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明日も大好きなひとときを
若社長白蘭×カフェの店長骸




「失礼します…って、白蘭サン?うぅ、あの人また居ないよ。もうすぐ会議なのに。毎回色々言われる僕の身にもなって欲しいんだけど…でもあれですごくやり手だからなぁ。」



社長室のドアを開け、もぬけの空になっている室内を見て、秘書の正一は溜め息を吐いた。彼は自分の上司がどこに行ったのか見当はついていたが、だからといって連れ戻す勇気はなかった。


白蘭サンの邪魔なんかしたら…考えただけで胃がキリキリと痛んできた。ここは常務達の小言に耐える方がずっとましに思えた。はぁと正一は、今日何度目かの溜め息を吐いたのだった。



*****
彼が自分のことでそんな風に悩んでいるとは知らず、白蘭は会社が立ち並ぶオフィス街を早足で歩いていた。



ちょっと急がないと、ランチの時間に間に合わないかな?腕時計を見るとあと30分ほどで2時になろうとしていた。



白蘭の会社から徒歩で10分もしないオフィス街の通りに、彼が目指す場所がある。それはカフェ Lotusだ。そのカフェではコーヒーや紅茶を手作りのスコーンやタルトなどと共に味わうことができる為、付近の会社で働く人々のちょっとしたリラックスの場となっていた。また午後2時頃まではランチタイムとなっており、日替わりランチを楽しむこともできる。白蘭が最近になってこのカフェを見つけたのは本当に偶然だった。だが今は、この小さな偶然に感謝してもしきれないでいた。彼は少し歩を緩めて、初めてあのカフェを見つけた日のことを思い出した。



*****
もうすぐ正午になる。書類整理も大方めどがついたので、白蘭は椅子に深くもたれ掛かった。


「あ〜、お腹減っちゃった。ねぇ正チャンも減ったよね?そろそろお昼だしさ。」


少し離れた所でスケジュールから目を離さない幼なじみの秘書にそう声を掛ける。


「そうですね。僕、これから社員食堂に行ってきます。あ、でも白蘭サンはもう来ないで下さいよ!社長が一般社員と同じ所で食べると、色々大変なんですから。特に女子社員が…」

「え〜、でもご飯美味しいのに。」

「え〜じゃありませんよ。それに白蘭サン、前食べた時に全メニュー食べたって、自慢してたじゃないですか。だからもういいでしょう。何か食べたい物があったら僕が注文しますから。」


正一の提案に白蘭はう〜んと考え始めた。確かに彼の言うことも一理ある気がしたからだ。


「じゃあさ、僕ちょっと外で食べて来るよ♪このビルの通りってたくさん食べる所あるし。」


白蘭はガラス張りの大きな窓から下を見た。財布を片手に談笑しながら、会社員達があちこちの飲食店に入っていく。


「まぁ、外で食べていけない訳ではないですけど。午後から会議がありますから、ちゃんと時間までに帰って来て下さいよ。いいですね!」


正一は自由過ぎる行動が多い上司に釘を刺した。何故なら白蘭のそういった思い付きは、結局自分の仕事を増やすことに繋がることが多かったからだ。


「は〜い、じゃあいってきま〜す。」


正一の忠告を笑顔で受け流すと、白蘭は会社のビルを出た。





どこにしようかな、食べる所がたくさんあって簡単に決められないなぁ。和食や洋食…と考え出すとキリがない。まずはこの通りの端まで歩いてみようと、白蘭はのんびりと歩いていた。会社を出てから10分ほど経っただろうか。こじんまりとしたカフェが目に入った。店の入り口にはたくさんの鉢が置かれ、優しく出迎えてくれているようだった。また鉢の隣に黒板のボードが立て掛けられており、「カフェ Lotus 只今ランチが召し上がれます。どうぞお気軽に。」と綺麗な文字が書かれていた。このお店、いいなぁ。白蘭は1目でこのカフェの雰囲気が気に入り、店内に足を踏み入れた。



「いらっしゃいませ。ようこそ。」


綺麗な笑顔にふわりと包まれた気がした。ロータス…お店の名前通りだ。こんなこと考えたら正チャンに笑われちゃうだろうけど、まるで蓮の花の妖精みたいな人だ。白蘭は目の前に立っている店員をじっと見た。目の前の彼はメニューを右手に持って、ニコリとこちらに微笑んでいた。先ほど蓮の花を思い浮かべてしまったように、彼にはどこか凛とした雰囲気があり、白蘭は視線を外せないでいた。


「お好きなお席へどうぞ。この時間は日当たりも良いですから、外でも大丈夫です。」


彼の言葉で、自分がずっと彼のことを見つめ続けていたことに気付いた。とりあえずばれなくて良かった。白蘭は慌てて席を探すフリをして、店内を見回した。気が付けば店内にはゆったりとクラシックが流れ、何人かの客が美味しそうにランチを食べていた。白蘭はそのどのテーブル席にも座らず、彼が働くカウンターの前の席に座った。 何故かもっと彼と色々話してみたいと思ったからだ。


彼からカウンター越しにお絞りとお冷やを貰う。どうやら彼の他に店員はいないようなので、彼が店長としてこの小さなカフェを1人で切り盛りしているようだった。とりあえず今日の日替わりランチを頼み、準備をし始めた彼をそっと見た。注文を聞いてから料理を作るようで、冷蔵庫から食材を取り出して、てきぱきと野菜を切っていく。


うわぁ、睫毛長いなぁ。それに綺麗な手だ…下を向いている彼がすぐ近くに居る為、目を逸らそうとしても視界に入って、胸が訳もなく高鳴るのを感じた。


ランチは野菜とハムと玉子のバーガーと簡単な冷製パスタ、カフェラテでどれもとても美味しく、彼に会う為にもまた来なければと思わずにはいられなかった。食事を済ませ、帰り際に彼にランチがとても美味しかったことと、また時間の許す限りに食べに来ることを丁寧に伝えた。白蘭の思いが伝わったのか、彼は料理を誉めてくれたことをとても喜び、いつでも待ってますねと、笑顔で見送ってくれた。


店を出て、白蘭は彼に名前を聞くことをすっかり忘れていたことに気付いたが、それからいくらかもしない内に再びそのカフェを訪れ、無事「六道骸」という名を知ることができたのだった。





これが白蘭と彼、骸との出会いであり、白蘭は自分の都合の会う時はカフェ Lotusでランチを楽しんだ。しかし大企業の社長である自分は、そういつも自由であるということはなかった。重要な取引を同時に抱えており、時間に追われてゆっくりと昼食を食べることができない日も多かった。夢中で仕事をこなしていて、食べ忘れてしまうこともあった。だから白蘭は時間ができた時は、骸の店でランチを食べて、そのまま午後のティータイムも満喫するようになっていた。


すっごく素敵なカフェを見つけたんだよと、白蘭は子供のように目を輝かせて正一に語っていたので、正一も結局白蘭が仕事の時間に遅れることに強くは言えなかった。白蘭も彼を少しだけ不憫には思ったが、骸との時間を大切にしたかったので、正一にはぎりぎりまで頑張ってもらおうと、密かに思っていたりした。



*****
骸との出会いを思い出していると、花と緑に囲まれた自分の大好きな場所が見えてきた。 白蘭は元気良く骸に声を掛ける。


「こんにちは、骸君!…まだランチって間に合うかな?」

「いらっしゃいませ。お久しぶりですね。えぇ、まだ大丈夫ですよ。」


骸の微笑みに促されて、白蘭は自分のお気に入りの席に座った。厨房に立つ骸を1番近くに感じられる定位置。何度かこの席を選んでいたら、骸もそれに気付いたようで、客で賑わっている時でもちゃんとこのカウンター席を空けてくれるまでになった。


自分が少しずつではあるが、骸に近付けているのではないかと錯覚してしまいそうになる思いを頭の片隅に追いやるように、メニューを見る。今日のランチは季節の新鮮野菜を使ったサンドイッチとジャーマンポテト、コンソメスープ、デザートには紅茶とパンナコッタのセットと書かれていた。いつものように美味しそうなそれを注文して、骸にメニューを返した。


「何だか少し、お疲れのようですね。お仕事大変なのですか?」


ランチを頬張っていると、骸の方から話し掛けてきた。


「う〜ん、死ぬほど大変って訳じゃないけど、同時進行の大きなプロジェクトがあって。」

「無理しないで下さいね。」

「大丈夫♪ここに来て骸君の美味しいランチを食べて、紅茶飲みながら色々話すと、僕、また頑張ろうって思えるんだよ。ここに来る人達も絶対にそう思ってるよ。骸君のお店はこのオフィス街の癒やしなんだから。」


自分が1番彼に癒されているのだとはさすがに言えなかった。だが白蘭の言葉に骸ははにかんでいたので、それだけで十分だった。…やっぱり骸君に毎日会いたいな。正チャンには悪いけど、仕事のスケジュールを効率良く組めば、骸君に会いに行ける時間は作れる。骸君は心配してくれたけど君に会う為なら、少しくらいの無茶は平気さ。そう心に決めると、白蘭は骸を手招きした。


「骸君。あのさ…」

「はい。どうかしましたか?」

「僕、これから毎日君のお店でランチ食べようと思うんだ。ここは僕にとって大切な場所だから。」


そして骸の腕をそっと引くと、手の甲に優しく口付けた。


「ふふ、誓いのキスだよ。」


目の前で何も言えずに固まってしまった骸にお金を支払い、とりあえず今日はこれで帰ることにした。



明日から絶対に毎日骸君に会いに行くからね。よし、そうなると仕事をきちんとやらなくちゃいけないな。やっぱり両方できてこそ格好いい男だよね。



白蘭は新たな決意を胸に、会社への道を歩いていった。



*****
閉店後の店内で、骸は1人新作のケーキを考案中だった。ジャムをたっぷり入れたロシアンティーに合うように、甘さ控えめの物にしようと色々と試作品を作っていたのだが、その手は先ほどから止まったままだった。甘さ控えめに作ったはずであるのに、何故かとても甘く感じてしまうのだ。それと同時に白蘭の顔が浮かぶ。


「まるでお姫様みたいなことをされてしまいました…」


彼の行動を思い出して、顔が熱くなった気がした。僕、どこかおかしいのでしょうか?白蘭のことを考えると何だか顔が熱いし、ケーキも酷く甘く感じる。


骸は混乱しそうになったが、不意にあの時の白蘭の強い瞳を思い出した。毎日食べに来ると約束してくれた時の彼のまっすぐな瞳。


「僕も彼が喜んでくれるような美味しいメニューを考えないといけませんね。」


そう小さく呟いて、骸は白蘭に口付けられた手の甲を優しく握り締めたのだった。






END






あとがき
今回は発展途上な白骸です。まだお互いに想いを伝える前の段階も良いですよね(*´∀`*)


その後は白蘭の押せ押せモードに骸もノックアウトされてしまうと思います♪


読んで下さり、本当にありがとうございました^^

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あきゅろす。
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