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ずっとずっとあなただけ…
『ずっとずっと…』の骸視点です




あなたは覚えているでしょうか?


あの日、まだ出会ったばかりの幼い僕達が交わした約束を。



むくろくんのそばでずっとずっとむくろくんをまもるよ。



月日が経てば忘れてしまうような、そんな小さな小さな約束。だけど、僕の心の片隅にその言葉は残り続けて。



―ーいつからだろう。自分でも、もうはっきりとは分からない。僕にとって、白蘭が弟以上の大切な存在になったのは。


ずっとずっとあなたの側に居たい、そう思うようになったのは。



*****
僕も骸君と一緒の大学に行くからね。高校3年生だった白蘭が僕のマンションを訪れてそう言った時、僕は嬉しさで一杯になったのを今でも覚えている。



僕と白蘭は血の繋がりはない兄弟だが、実の兄弟以上に仲良く育った。骸君、骸君!と僕の後をついて来る白蘭は、それはそれは可愛くて、いつも一緒に居た。だから白蘭が一緒の大学に行き、さらに僕のマンションに住むことになった時、あなたが来てくれて嬉しいなんて、大概僕も兄バカですね、そう言って照れ隠しをしたのだった。 だけど、あの時の自分の喜びようを振り返ってみれば、気付いていないだけで、多分もう白蘭に恋をしていたのだろう。彼とこれからも一緒に居られる。そう考えて、泣きたくなるほど嬉しかったのだから。


僕はまだ自分の気持ちをはっきりと自覚していた訳ではなかったが、白蘭と一緒に居られる時間を大切にしたい、それだけは強い願いだった。白蘭が僕の側で笑ってくれる日々が、僕の幸せであることは確かだった。



*****
僕は法学部なので色々と勉強に追われていたが、白蘭はサークルやバイトなど僕とはまた違った忙しい日々を送っていた。



大学が終わっていつものようにマンションに帰る。今までは部屋に戻っても当然1人だった。でも今は、

「あ、おかえり、骸君。今日バイト早番だったから、夕食作っておいたよ。」


優しい笑顔の白蘭が出迎えてくれる。それだけで僕の心は癒やされていた。…1人じゃない、白蘭が居る。それは僕にとって、大きな意味を持っていた。



*****
自分の関心のある勉強とはいえ、課題はやはり好きにはなれない。僕は机の上にノートや教科書を広げて、課題に取り組んでいた。こんな風に勉強している時は、白蘭も気を遣ってくれて、僕の部屋に来ることはない。


意識を少しだけ外に向けると、ドアの向こうから微かにテレビの音が聞こえてきた。離れていても白蘭の気配がすることに安心している自分が、何だか恥ずかしかった。慌ててノートに視線を戻そうとして、机の端に置いていた写真立てに思わず目がいった。タンポポやレンゲの花束を手に持った白蘭と、黒アゲハの入った虫かごを嬉しそうに抱えている僕が写った写真。白蘭との写真は幼い頃からたくさんあるが、僕はこの写真が1番のお気に入りだった。写真の中の僕達はキラキラ眩しいくらいに輝いていた。


「ふふ、僕もあなたもこんな頃があったんですよね。」


僕は写真立てにカツンと指を当てた。さて、課題の続きでもやりますか。僕は写真の中の幼い白蘭に微笑んで、再びノートに目を向けた。





…あれ?僕、さっきまで課題をしていたはずですよね?気が付くと、僕は花が咲き乱れる野原に立っていた。その僕のすぐ横には幼い白蘭が居て、楽しそうにレンゲの花を摘んでいる。これはどう考えても夢だ。今日は大学が1限からで、朝早く起きたし、夕方までびっしり講義が詰まっていた。その疲れのままに課題をやっていたから、多分眠ってしまったのだろう。起きて課題の続きをしなければと思うのに、夢が醒める気配は全くなかった。


そんな僕の隣で白蘭は何か歌を歌いながら、器用にレンゲの花冠を作っていた。できた〜、弾んだ高い声がしたかと思うと、白蘭はその冠を僕の頭に乗せようと背伸びをした。だが白蘭は僕の身長の半分ほどしかなかったので、僕は彼が届くように身を屈めようとした。その瞬間、幼かった白蘭が今現在の彼になって立っていた。白蘭は無言のまま僕にレンゲの花冠を乗せて、花のように綺麗に笑った。


「…びゃく、らん。」


花の蜜に誘われる蝶のように、僕の声に促されて白蘭がゆっくりと近付いてきた。そしてそのまま白蘭の唇がそっと僕の唇を覆った。優しく触れるだけの口付け。だけど、甘くて心地良くて、ずっとその温もりを感じていたかった。 白蘭にキスされるのは嫌ではなかった。夢だと分かっているのに、このまま醒めなければ良いのに…そう思ってハッとした瞬間、僕は机に突っ伏している自分に気付いた。周りを見回したが、当然そこには誰も居なかった。



白蘭とのキスが嫌ではなかった。それどころか、ずっとこのままでも良いなんて思ってしまった。その事実から導き出される答えはただ1つ。…僕にとって白蘭は、弟以上に大切な存在なのだということ。そう考えれば、白蘭と一緒に暮らせることにあれだけ喜んだ自分にも説明がついた。


僕は自分でも驚くほどすんなりと、自分の感情を認めていた。…だけどそれと同時に、白蘭には伝えてはいけないとも感じていた。彼は僕のことを兄と思っている。なのに僕がそれを越えた関係を望んでいるなんて知ったら、困惑してしまうだろう。…だから今のままで良い。今でも白蘭は僕の側に居てくれるのだから。それにあんな幸せな夢を見られただけで、僕はもう十分だ。あの夢を忘れずに胸に秘めておけば良い。僕は白蘭の隣に居られるだけで良いのだから…





課題の締め切りまでまだ少しあったので、僕は今日はこのくらいにして、お風呂に入ることにした。夜も遅い時間だったので、部屋に居るであろう白蘭の邪魔にならないように静かにリビングで涼んでいた。不意に背後に気配を感じて振り向くと、白蘭が居た。彼は何だか疲れているような悲しそうな何ともいえない表情をしていた。僕は彼の表情を訝しく思って声を掛けた。


「勉強のキリがついて、今お風呂から上がったんです。もしかして起こしてしまいましたか?」

「ううん、大丈夫だよ。……ちょっとコンビニにでも行こうかなって。」

「もう随分夜も遅いですけど…」


大丈夫ですか?僕がそう続けるよりも早く、白蘭は玄関に向かっていた。どう見ても白蘭の様子はおかしかった。何かあったのでしょうか。困っているなら話して欲しかったが、白蘭が戻って来る気配はなかった。



*****
白蘭の様子がおかしいと感じた日から、彼と顔を合わせる回数が減っていった。



彼は、朝僕が起きるよりも早く家を出るようになったし、バイトも深夜までやっているみたいだった。帰って来てもすぐに自分の部屋に籠もってしまうので、碌に会話もできない日々が続いた。


白蘭に避けられている。その事実は僕の心を大きく抉った。そしてただただ悲しくて仕方なかった。夢の中の白蘭はあんなに優しかったのに。あんなに綺麗に笑っていたのに。ここ最近の彼は、僕に笑顔など見せてくれない。僕の目すらまともに見てくれないのだ。白蘭ときちんと話をしなければならないと思った。僕が原因なら…悲しいが、覚悟はできていた。





「…おかえりなさい。あなたに話があるので、リビングに来て下さい。」


僕はバイトを終えて帰って来た白蘭にそう告げた。僕の今日こそは逃がさないという雰囲気に気圧されたのか、彼は僕に大人しくついて来てソファーに座った。いつもなら僕にぴったりくっついて座るのに、少し空いた空間が僕と白蘭の微妙な距離のようで、少しだけ胸が苦しかった。


「白蘭、あなた最近僕のこと避けてますよね?僕、もうずっとまともにあなたと喋っていませんし。」

「そ、そんなことないよ。」


白蘭は僕の言葉を否定した。だがどう考えても僕は避けられているのだ。


「……僕と住むのが嫌になったのでしたら、はっきり言ってくれて構いません。新しい部屋を探しても良いですし、僕がこの部屋を出ても…」


本当はそんなことは嫌なんです。白蘭、あなたとこれからも居たいんです。だけどあなたにこのまま避けられることは辛くて悲しい。


「…違うよ。」


白蘭が小さく小さく呟いた。


「じゃあどうして僕を避けるんです!」


自分でも驚くほど感情的な声が出た。白蘭の心が分からなくて、悲しみが限界を迎えてしまったのかもしれない。


こんなことしない為だよ。いつもより低い白蘭の声が耳元でしたかと思うと、僕はソファーに押し倒されていた。あまりに突然だったので、僕は白蘭を見上げるしかなかった。絡まる2つの視線。白蘭は今にも泣き出しそうな顔をしていた。白蘭も僕のことを、兄以上の大切な存在と思っていてくれていたなんて。あぁ、嬉しくて息が止まりそうです。


「やっぱりあれは夢ではなかったんですね。」

「え?」

「夢だと思っていました。あなたにキスされたこと。こんなこと言うのおかしいのですが……嫌じゃありませんでした。むしろあなたの温もりが心地良かった。だからあなたに避けられるのは悲しかったんですよ。」


白蘭は信じられないというように、瞳を瞬かせた。でも僕の言葉から僕の気持ちが伝わったのだろう。幸せを噛みしめるような顔で僕を見たのだから。


「……骸君、君のことがずっとずっと好きだった。これからも僕の気持ちは変わらない。」


白蘭の告白を聞いて、僕ももう我慢しなくて良いのだと思えた。兄として今まで通りに過ごさなければいけないと、自分の気持ちを我慢しなくて良いのだ。だって、僕と白蘭の想いは同じなのだから。


「ありがとう、ございます、白蘭。僕も…僕もいつの間にかあなたが弟以上の大切な存在になっていたみたいです。…あの時の約束、守ってくれますか?」

「骸君、君の側でずっとずっと君を守るって誓うよ。」



僕達は笑い合ってお互いを抱き締めた。あの日見た夢の中の顔よりも何倍も綺麗な笑顔で、白蘭は僕を包んでくれた。



*****
僕は、白蘭に寄り添うにして彼の部屋でアルバムを見ていた。



少し前に部屋の片付けをしていた白蘭が、幼い頃の僕達の写真を見付けて飾ってくれたのだが、良く探したらアルバムも出て来たらしく、一緒に見ようということになったのだ。そして今こうして2人でページを捲っている訳だ。


「あなた、今はすごく格好良いと思いますけど、幼い頃は本当に可愛いかったんですよね。」

「骸君だってとっても可愛いよ〜。」

「…それにしても、僕にキスしてる写真が多い気がするんですが。」


勿論、笑顔で写っている写真が1番多いのだが、それに負けない量のキスの写真があった。僕の頬や額に優しくキスしている幼い白蘭は、とても幸せそうだった。


「仕方ないよ。骸君と違って、僕はもうこの頃から、君が好きだったんだから。」


僕は、自分がいつ白蘭のことをはっきりと弟以上に大切に想うようになったのか分からなかった。夢だと思って実際はそうではなかったが、白蘭にキスされた時に無意識だった自分の気持ちに気付いたのだと思った。だけど、もしかしたら…



『むくろくんのそばでずっとずっとむくろくんをまもるよ。』



初めて会った時に交わした2人の約束。子供の言葉遊びのようなその約束は、ずっとずっと僕の心に生き続けていた。もしかしたら僕も、初めて会ったあの日から、白蘭、あなたのことがーー



そんな考えに没頭していた僕の左手に、正確にいえば、左手の薬指にひんやりとした冷たい何かが触れた。


「これは…」


僕の薬指でシルバーのシンプルなリングが小さく輝いていた。


「ずっとずっと骸君を守るっていう誓いの証。約束しかしていなかったでしょ。…安物でごめんね、バイト代じゃそれくらいが精一杯っていうか。今はそれで我慢してね、でもいつかちゃんとした…」


白蘭はそれ以上先が言えなかった。それもそのはず。だって僕が彼にキスしたんですから。


「む、骸君!」

「誓いのキスですよ。僕も何かあげたくなりまして。」


真っ赤になって慌てふためく白蘭は初めてで、僕はくすりと笑ってしまった。白蘭も僕につられたように微笑むと、愛してるよと囁いてくれたのだった。




僕達は多分、出会った時からお互いが大切な存在になっていた。



そして今、僕も白蘭も自分の想いを伝え合って、お互いが自分以上に大切で守りたい存在になっている。



白蘭が僕を守ると約束してくれたように、僕はこれからも白蘭の隣に居続けると約束しよう。



白蘭の傍らで彼と一緒に笑っていたい。




僕にはずっとずっとあなただけしかいらない。



ずっとずっとあなただけが良い。






END






あとがき
リクエストを頂きまして、『ずっとずっと…』の骸視点をお届けしました。少しでも気に入って頂ける部分があると嬉しいです(*^^*)


お兄ちゃんということで、白蘭よりも自分の感情を素直に受け入れる骸を書いたのですが、認め過ぎて白蘭に優しくなり過ぎたかもしれません(^^;)


そしてどうしても仔白蘭を出したくて、夢の中ですが、一瞬登場してもらいました。白骸は中身は別としても、子供の頃は外見だけは絶対に天使レベルですよねv



今回もいつものように甘ぬるい感じになってしまいましたが、読んで下さって、本当にありがとうございました^^

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