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ねぇねぇ、こっち向いて。 4(完結)
<最近彼に会いません編>




近頃どこかぼんやりしているとか、上の空で話を聞いていないとか、溜め息ばかり吐いていると言われる。そんなことはないと思うのに、綱吉曰わく、ここ最近の自分は様子がおかしいらしい。



「だって骸、さっきからずっと同じページのままで手が止まってるし。」


綱吉から書類の整理を頼まれ、過去の資料を見ていたはずなのに、彼の指摘通りに仕事は全く進んでいなかった。


「最近はずっと忙しいみたいだもんな。」

「…誰がです?」

「白蘭だよ。この頃全然ここに来ないみたいだし。俺も最後に会ったのって、パーティーの時かな。」


綱吉から発せられた、白蘭という単語に僅かに肩が揺れたが、彼は気にする素振りも見せずに続けた。


「白蘭って良くここに遊びに来てただろ?まぁ、主に俺と骸しか対応してなかったけど。…白蘭もそんなに自由が利く身じゃないのは分かるけどさ、やっぱりぱったり来なくなると寂しいなぁって思ったんだ。」


骸は綱吉の話を黙って聞いていた。しかし骸が何も反応を示さないでいると、綱吉はお前がちゃんと仕事してるか見に来ただけだから、と小さく笑って自分の部屋に戻っていった。



綱吉の発言の通り、最近白蘭は姿を見せていなかった。彼は仮にもファミリーのボスであるのだから、大きな仕事の1つや2つ抱えていても、何ら不思議ではない。むしろ今まで頻繁に自分の所に来ていた方が、おかしいことだったのだ。パーティーで白蘭を見て、何かすっきりしない気持ちを感じていたから、あまり彼のことは考えないようにしていたのに。だけど考えないようにしようとすればするほど、白蘭を意識してしまっている自分が居た。誰かの廊下を歩く音が聞こえると、彼が来たのかと思って確かめてしまいそうになったし、仕事をしている時でも、入り口のドアに意識が向いてしまうことがあった。


自分でも気が付かない内に、白蘭が自分を訪ねて来てくれることが日常の一部になっていたようだ。だがそれだけだ。彼が来なくなったからといって、綱吉が言うように寂しさなど感じていなかった。普段習慣になっていることをしないと、落ち着かない気分になるのと同じで、白蘭と話すという習慣が思いがけず中断されて、調子が狂ってしまっただけなのだ。そうに決まっている。だけどそう思う一方で、白蘭が自分の日常にすっかり入り込んでしまっているのだとも感じた。


本当に厄介な男だ…僕は振り回されてばかり。どうしてくれるのだと、骸は目の前にいない人物に溜め息を吐いた。



それは骸が気付いていないだけで今日3度目の溜め息だった。





骸が溜め息を吐いているのと同じ頃。場所は違えども、白蘭も書類の山に埋もれて溜め息を吐いていた。


「あ〜終わらない。そもそも終わりなんて来るの?うぅ、骸君に会いたいよ。このままじゃ僕、禁断症状出ちゃうよ。骸君に会えなくて、ぱ〜んってなっちゃう。」

「分かりましたから、白蘭様、手を動かして下さい。」


白蘭は駄々をこねてみたが、部下の男はニコリと笑っただけで仕事に取り掛かるように促した。


「嫌だもん。5分休憩する〜。…その後は、まぁ頑張るよ。」


周りでパソコンや書類に向かっている部下達に背を向けて、そっと携帯を開いた。画面の向こうには、気持ち良さそうにソファーで眠る骸が居た。骸君見るとやっぱり落ち着くなぁ。…でもこれが見つかったら、確実に僕、殺されちゃうな。白蘭は骸の寝顔の写真をじっと見つめた。これは以前骸に膝枕をしてもらった時に、こっそり撮ったものだった。自分が目を覚ました時、まだ骸は眠っていたので、こんなチャンスはないと思ってしたことだった。疲れた時に僕を癒やしてくれるけど、でもやっぱり本物の骸君の方がいい。骸君に会って色々話して、同じ時間を共有したい。だけど骸に会いに行くには、この山のような書類を片付け、並行して進めている新興ファミリーとの交渉も終わらせなければならないのだ。


「待ってて、骸君!こんな仕事すぐに終わらせて君にたくさんの花とチョコを持って会いに行くから。」

「だから白蘭様、終わらせる為に仕事して下さい。」



骸のことに夢中な白蘭の耳には、当然部下達の悲しげな訴えなど聞こえてはいなかったのだった。




<あなたに会いにいきます編>




今、白蘭と聞こえたような…骸は綱吉の部屋の前で固まっていた。仕事の報告の為に部屋の中に入ろうとしていたが、部屋の向こうから聞こえた綱吉の真剣な声に躊躇われてしまった。彼はどうやら電話をしているようだったが、何だか少し焦っているような喋り方だった。


ドアを隔てて聞いていた骸の耳に、白蘭が大変なことになったという言葉が届いた。白蘭に、何かあった?…もしかして誰かに襲われたり、怪我をしたのでは。瞬間、自分でも訳が分からないが、言いしれぬ不安が襲い、骸は勢い良くドアを開けていた。


「白蘭がどうしたのです?何かあったと…」

「骸。俺もまだ良く分からないんだけど、大変なことが起きたらしい。」

「僕、白蘭の所に行ってきます。…その方があなたにも報告できますし。」

「そうだな。じゃあ頼むよ。何か分かったら連絡するんだよ。」



骸はそのまま足早に、ボンゴレファミリーのある洋館を出た。先ほどからずっと心臓がきりきりと痛い。白蘭は大丈夫なのだろうかと、そればかりが頭に浮かんでいた。最近は全くと言って良いほど、白蘭と会ってはいなかった。彼のことは気になりはしたが、別に会えなくて悲しいなんて思ってはいなかったはずだ。なのに今は、早く白蘭の顔が見たい。


自分は確実に、白蘭によって変わってしまったようだ。最初は彼のことを煩わしいとさえ思っていたのに。これはもう、彼に毒されてしまったと言った方が良いのかもしれなかった。もう僕の中で、あなたは僕の日常になってしまった。骸は逸る胸を押さえるように、ミルフィオーレファミリーのあるビルへと車を飛ばしたのだった。





白蘭の部下に案内され、彼の部屋へと駆け込んだ骸は、目の前の光景を見て再び固まっていた。白蘭は誰かに襲われて負傷した訳でも何でもなかった。ただ顔は真っ赤で、頭に水で濡らしたタオルを乗せて、苦しそうに咳き込んでいた。彼は骸の突然の訪問に驚いたようで、目をぱちくりさせて、あれ〜?骸君?何かすごく久しぶりだね、来てくれて嬉しいよと力無く笑った。白蘭の声は酷く掠れていて、彼が風邪で熱を出していることなど一目瞭然だった。


「あなたに大変なことが起きたと聞いて、わざわざ来たのに…ただの風邪とは何ですか!」

「本当に大変なことなんだって。僕、今まで1度も風邪なんて引いたことなかったから、すっごくきついんだよ。…あ、さっき綱吉君に電話したんだよ。僕風邪引いちゃったから、明後日の会合をずらして欲しいって。骸君、そのことで来たんじゃないの?」


嵌められた!


白蘭の言葉に先ほどの綱吉の顔が浮かんだ。彼は白蘭の風邪のことを知っていたはずだ。それなのに、自分にはあたかも白蘭に重大なことが起きたように振る舞っていたのだ。帰ったら沈めます。覚悟してなさい。綱吉に痛い目をみてもらおうと心に決めると、骸は白蘭に向き直った。苦しそうな白蘭には悪いが、骸は彼が風邪で済んでいたことにどこかほっとしていた。認めたくはないが、彼のことを心配していたのは確かだった。


「あなたは一生風邪引かないと思っていたんですがね。」

「えっ、どうして?」

「昔から馬鹿は風邪引かないというではありませんか。」

「今すっごく傷付いた!…僕今弱ってるから、骸君に酷くされたら死んじゃうよ。」

「そんな顔しないで下さい。冗談です。」


それから骸も白蘭も黙り込んでしまった。白蘭は風邪で喋るのが辛そうであったからだろうが、骸は自分達を包んでいる穏やか雰囲気に気恥ずかしくなっていたからだ。長いようで短い沈黙の後、白蘭がぽつりと呟いた。


「ずっと会いたかったよ、骸君。やっぱり僕、骸君の顔見ると幸せだよ。」


白蘭の言葉は、すっと骸の中に入ってきた。気が付けば、自分も言葉を発していた。


「……あなたが顔を見せに来ないと、僕の調子が狂うんです。…だから仕事も終わらせて、風邪もさっさと治して僕に会いに来なさい。」


骸の言葉に白蘭は顔を輝かせると、側に座っていた骸の体を引き寄せて、そっと口付けた。少し熱っぽい唇が骸の唇に触れる。白蘭にキスされたが、嫌だとは思わなかった。もう自分でも分かっていた。いつの間にか自分は、白蘭のことを受け入れていたのだということを。



白蘭の幸せそうな笑顔が、骸の心をじんわりとさせたのだった。




<それから…編>




「完全復活したよ〜♪心配掛けちゃってごめんね。」


あれから風邪をすんなり治し、結局予定通りに綱吉との会合を終えた白蘭は、綱吉がいつも用意してくれる客室へと向かった。先に来ていた骸は、元気にはしゃいでいる白蘭を若干棘のある目で見ていた。頭に響くから静かにしてもらいたいのですが。


実は骸は少し体調が悪かった。喉もどことなく腫れている気がするし、軽い頭痛もしていた。薬は飲んでいるので、大人しくしていれば直に良くなるだろう。しかし白蘭にばれると色々面倒になりそうなので、体調が悪いことはおくびにも出さないようにしていた。


「骸君、もしかして…体調悪い?」


…早速ばれている。今日はまだ誰にも体調が悪いことは気付かれていなかったのに。何でそんなに僕のことが分かるんですか。


「僕がうつしちゃったんだよね、きっと。でもそんなに濃厚なキスしてないと思うんだけど。」

「ちょっと黙りなさい!」

「骸君、顔真っ赤だよ♪もしかして2日前のこと思い出しちゃったりした?」


こちらが気を許すと、すぐ図に乗るようですね。骸は、意地悪く笑っている白蘭の足を踏みつけると、痛みに震える彼を残してそのまま部屋を出た。


「あなたの言う通り、僕体調悪いので帰ります。では、さようなら。」

「待って、骸君!僕、君のお世話する!薬とか買って来るし、お粥とかも作るから…側に居ていい?」

「……だったら、早く僕を送って下さい。僕、待たされるのは嫌いなんです。」


骸は振り向かずにそう言ったが、背後で白蘭が嬉しそうにするのが分かった。


これから白蘭とどうなるのかは、まだはっきりとは分からない。だけど彼と過ごすこの日常は悪くはない。隣を歩く白蘭を見て、彼がすっかり自分の日常になってしまったことに少しの心地良さを感じながら、骸は小さく微笑んだのだった。






END






あとがき
ここまで読んで頂き、ありがとうございます(^^)

このお話は、ボンゴレとミルフィオーレが仲良しファミリーだったら…をコンセプトにしました。


まず白蘭がとても残念な感じですみません(^^;)所々コミカルにしたいなぁと思いましたら、若干危ない人にw骸のことで精一杯なだけです\(^_^)/


それからツナにはお母さん的役割をしてもらいました。2人がなかなか進展しないので、やきもきして色々気を遣ってしまう優しいボスという感じにしました。しかし彼の10年後の口調がいまいち分かりません^^


このお話は設定がきちんとしていなかったので、所々おかしな所もあるかと思いますが、生暖かい目でご覧になって頂けると嬉しいです(*´∀`*)

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