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ねぇねぇ、こっち向いて。 3
<仕事中の彼を訪問しました編>




骸は白蘭の部屋の前に立っていた。しかしどうして自分が行かなければならなかったのかという思いを胸に抱えていたのだが。



数時間前、骸は綱吉に仕事を頼まれた。それはミルフィオーレファミリーへの定期的な書類報告だった。ボンゴレは同盟ファミリーと色々な情報を共有、交換することも大切なことだと考えていたので、ファミリー内のことは不干渉だが、定期的にこのように同盟ファミリーと連絡を取り合っていた。


「この書類を白蘭の所に届けて欲しいんだよ。今皆出払ってて、お前しか居ないんだよ。悪いけど頼む。」


白蘭に会いに行くのは何となく気が重い。多分彼に会うと、自分のペースが乱されてしまうからなのだろう。しかし忙しそうにしている綱吉の手前、断るのは難しそうだった。


「はぁ…分かりました。この書類ですね。不本意ですが、ちゃんと届けてきます。」


綱吉から書類を受け取ると骸は車を走らせて、ミルフィオーレファミリーのある高層ビルへと向かったのだった。





白蘭の部屋をノックしようとすると、ドアが自動的に開き、彼が現れた。


「骸君、久しぶり!今日はようこそ。」


骸は目の前の白蘭に驚いた。彼はシャツにジレ姿でスーツを着崩していたが、その上にフリルの付いた白いエプロンをしていたのだ。


「すみません。部屋を間違えました。」

「間違ってないよ〜。綱吉君から骸君が書類届けてくれるって聞いて、骸君の為にチョコケーキ作ってただけだよ。」


白蘭に促されて部屋の中に入ると、奥の方からチョコレートの甘い香りがした。この部屋は、白蘭の仕事部屋とプライベートな空間が繋がっているようで、奥には寝室や簡易キッチンなどがあると説明された。彼に書類を渡してすぐに帰ろうと思っていたが、わざわざケーキを作ってくれたと知り、少しだけ食べてもいいかと骸はソファーに座った。


骸から手渡された書類を執務机に置き、一旦奥に引っ込んでいた白蘭がホールのチョコレートケーキと紅茶を運んできた。そこそこ料理ができる骸の目からも、彼の作ったケーキは見た目も綺麗で美味しそうだった。白蘭はケーキを皿に乗せると骸に差し出した。そして食べようとする骸をじっと見つめた。


何でそんなに見つめるんでしょう。食べにくいのですが…早く早くと急かすように見つめられ、骸はケーキを1口食べようと口元に運んだが、何か違和感というか、本能的に危険を感じて、フォークを皿に戻した。


「…白蘭、このケーキに何か入れましたね。」


白蘭はそんなはずないよ、と笑っていたが、一瞬だけ目が泳いだのを骸は見逃さなかった。


「今すぐ白状しなさい。もうばれてますから、しらを切り通そうとしても無駄です。」


骸の言葉に観念したのか、白蘭は小さく呟いた。


「えっと、あの…子供は飲んじゃダメ☆な大人が楽しむ薬を…でもほんのちょっとだから、効かないよ、多分。」


骸は呆れて声も出なかった。こいつ、僕を襲う気だったのか…そう考えると、今すぐ回し蹴りでもしてやろうかと思ったが、ごめんなさい、嫌わないでと半泣き状態で叫ぶ白蘭を見ていたら、そんな思いも萎んでしまった。


「本当にこんな碌でもない人がボスじゃ、ミルフィオーレの部下達の先が思いやられますよ。」


骸は溜め息を吐いて、うなだれている白蘭を見た。すると白蘭は再び奥の部屋に行き、大量のチョコレートの箱を持ってきた。それは骸が好きな高級店のものばかりだった。


「これ、骸君に渡そうと思って少しずつ買いだめしてたもので…こんなのじゃ全然お詫びにならないけど、傷付けるようなことしてごめんなさい。」


白蘭なりの精一杯考えた謝罪なのだろう。まぁ一応未遂で済んだ訳であるし、許してやらないこともなかった。


「まったく…これからはこんなことしないで下さいよ。今日はあなたの謝罪とこのチョコに免じて許してあげましょう。」


骸は複数置かれたチョコレートの箱から1つだけを手に取った。


「許してくれてありがとう。でも骸君、遠慮しないで全部持ってっていいよ。」

「いえ、これだけで結構ですよ。」


白蘭はこれ全部を僕の為に買っておいたと言っていた。だったら彼がこちらに来る時に、毎回持って来させて今回のことはまぁ良しとましょう。チョコレートで白蘭を許してやるなんて、僕も随分彼に甘いだろうかと骸は感じていた。




<パーティーに招待されました編>




綱吉から呼び出されて、渡されたのは1通の招待状。そこには3日後にミルフィオーレファミリー主催で、ファミリー同士の親睦を深めるパーティーが開催される旨が記されていた。当然骸も参加だから目を通しておくようにと綱吉から言われ、骸は困惑していた。自分は人が大勢集まる所は嫌いだ。人混みを見るだけでも苛々してしまうほどなのだ。そんな自分がパーティーに参加するなんて、考えただけでも憂鬱だった。しかもパーティーはミルフィオーレファミリー、つまり白蘭の主催である。絶対に何も起きないはずがないように思えた。


「僕、ああいった場所は苦手ですから、誰か別の守護者に行ってもらう方が賢明だと思うのですが。」

「いや、お前人当たり良いし美形だし、華があるから一緒に居て俺も鼻が高いんだよ。ここは俺の顔を立てると思ってさ。」


最近どうも自分と白蘭のことになると、綱吉が強引な気がしてならない。しかし立場上、彼の命令には従わなければならない身だ。色々思うことがない訳ではなかったが、骸には了承しか選択権はなかった。


綱吉の部屋を出て、長い廊下を歩いていると、自分と白蘭の関係は何なのだろうという疑問が浮かんだ。白蘭は相変わらず、花束やチョコレートを持って骸を訪ねてくる。それを見て綱吉が余計な気を遣って、自分達を2人きりにするのだ。最初は白蘭のことを邪険に扱ったりもしたが、最近では彼が自分を訪ねることにもすっかり慣れてしまい、普通に他愛のない話を交わしている。


それは同盟ファミリーのボスと守護者の関係からは、ありえないようなものだった。いくら同盟関係にあるといっても、ファミリーのボスが相手ファミリーの、しかも一介の守護者を気軽に訪れることなど滅多にない。それに自分は他人と必要以上に馴れ合うことは好きではないはずなのに。白蘭との関係を考えれば考えるほど、深みに嵌ってしまいそうで、骸は考えることを放棄した。そんなことより今はパーティーの方が大切だ。任されてしまった以上は、それなりに責任も発生する。パーティー用のスーツも新調しなくては。骸の頭の中はもうパーティーのことで占められていた。





綱吉の隣に立って挨拶をする。笑顔を作って。ミルフィオーレファミリー主催のパーティー会場で綱吉と骸は他ファミリーのボス達と挨拶を交わしていた。綱吉はこういったことは苦手であったので、骸がすかさずフォローに回る。マフィア界といえども、こうした顔つなぎは重要だった。何かあった時に助けに繋がることもあるからだ。一通り挨拶も済み、綱吉がファミリーのボス達と雑談しているのを、骸は少し離れた壁際の隅でワインを片手に見ていた。 自分の役目も終わったようなので、大人しくしていようと料理を口に運んだ。


今日のパーティーにはたくさんの人々が集まっていた。ミルフィオーレファミリーと同盟関係にあるファミリーや親交のあるファミリー、財界や政界に身を置きながらも、裏社会に影響力を持つ人物達。皆表面上は楽しそうに談笑しているが、それぞれが思惑を持って、このパーティーに参加しているのだろうと思えた。そんな中、皆様パーティーは楽しんでいらっしゃいますか、と聞き慣れた声が響いた。途端に会場に歓声が沸き起こる。


会場の中央に用意された円形の台の上に白蘭が居た。どうやら主催者の挨拶でもするようで、その手にはマイクが握られていた。彼はファミリー同士の絆の大切さや今後のマフィア界についてを堂々と語っていた。骸が周囲を見渡すと、皆白蘭の話に聞きほれているようだった。普段はへらへらしてて、馬鹿で僕に碌でもないことをしたりもするのに、今目の前の白蘭はまるで別人だった。やはり彼は全てを包み込む大空のように、人々を魅了する何かを持っている。僕にはない何かを。急に白蘭を遠くに感じた。だがこれが普通なのではないだろうか。他ファミリーのボスと守護者の関係など。


気が付くと白蘭は挨拶を終えており、彼はたくさんの人々に囲まれていた。そして1人ひとりに笑顔を向け、話をしている。何となく白蘭から目が離せなくて、骸は離れた所から彼を見ていた。すると白蘭の側に女性達が集まってきた。出席者の妻や娘であろうが、綺麗に化粧を施し、鮮やかなドレスを着てその体を押し付けるように彼と話をしている。白蘭の方も笑顔で彼女達の話に頷き、時折おかしそうに笑っていた。


そんな白蘭達を見て、骸は胸にもやもやとしたものが生まれてくるのを感じた。だがそれが何なのかは分からなかった。自分でも良く分からないままに、これ以上この場所に居たくなくて、骸は綱吉に先に帰る旨を伝えた。


「え?帰りたいって…もう少し居ろよ。」

「僕、こういう場所は苦手だと言いましたよね。もう十分我慢したんです。」

「でもまだお前、白蘭に挨拶してないだろ?帰るならせめて会ってからにしろよ。」

「白蘭は今たくさんの人達と話しているようですから、僕が行くと邪魔になるので遠慮します。…そういうことですので、失礼します。あなたの迎えはちゃんと誰かに頼んでおきますから。」


綱吉に反論させないように一気に告げて、骸は会場を出た。パーティーの華やかな雰囲気が嘘のように、外は静かだった。


胸に良く分からない感情を抱えたまま、骸は1人背を向けて、夜の帳の中を歩いたのだった。

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あきゅろす。
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