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ねぇねぇ、こっち向いて。 2
<仕事中に偶然出会いました編>




人々で賑わう街の通りを、軽快な足取りで進む青年が1人。彼は色とりどりのマシュマロやマカロン、クッキーなどがたくさん詰まった袋を抱えていた。いつもは部下の子に任せちゃうんだけど、たまには自分で選ぶのも楽しいよね。それに骸君にプレゼントするチョコも買えたし、大満足かな。そんな風に考えながら歩いていた白蘭は、何気なく視線を向けた路地裏の道へ見知った人物が歩いていくのを見付けた。


あれ?もしかして骸君じゃないかな?すごい偶然じゃん。ちょっと声掛けちゃおうかな。白蘭は、骸の後をついて行くことに決めて、彼から少し遅れて路地裏へと足を踏み入れた。





白蘭は骸のことが好きだ。骸に、自分の方に振り向いて欲しくてたまらない。だから自分なりに色々とアプローチをしているが、彼がこちらに靡くような気配はない。そうだとしても、自分の気持ちを諦めることはできなかった。この想いは誰にも否定できるものではないのだから。それに今はまだ骸がこちらを見てくれなくても、いつか必ず振り向かせてみせるという強い意志も持っていた。



やっぱり僕と骸君は、どこに居てもこうして出会える運命なんだ、と白蘭が1人でふわふわと考えていると、急に複数の人間の気配がした。先を歩いていた骸は角を曲がっていたので、白蘭からはその姿は見えなくなっていた。白蘭も殺気の感じられた気配を追って、慌てて角を曲がったが、目の前の光景にそのまま壁に沿って身を隠した。


人気の全くない薄暗い場所で、骸を取り囲むように複数の男達が居た。手には各々武器を携えている。骸は彼らを一瞥すると不敵に微笑んだ。


「弱小マフィアがつけあがって、非合法の薬をばらまくなんて本当に良い根性してますね。」

「うるさい!俺達だって生きていかなければならないんだ!」


スーツに身を包んだリーダー格の男が骸の冷たい瞳から逃れるように声を荒げた。


「だったら何をしても良いと。僕だって色々忙しいのに、こんな仕事頼まれて本当に迷惑なんですよね。だから…」


さっさと片付けます、そう小さく呟いて、骸は何もない空間から三叉槍を取り出した。


これってもしかしなくても、今骸君お仕事中だよね。骸達から少し離れた所で、白蘭は戦いの様子を眺めていた。骸は一切無駄のない動きで男達を倒していく。その姿に白蘭は惹き付けられていた。


僅かの時間に骸は全員を倒したようで、地面には意識をなくした男達が横たわっていた。彼の仕事も終わったようだと思って、隠れていた場所にお菓子の袋を置くと、白蘭は骸の元に走った。


「本当に格好良かったよ、骸君!僕しびれちゃったv」

「な、何であなたがここに?」

「えへへ、僕はどこに居ても骸君を見付けられちゃうんだよ。」

「気持ち悪いです。」

「それ、傷付くよ〜。」


ふと骸は白蘭が携帯を握っていることに気付いた。


「それ、何です?」

「携帯だよ〜。今の骸君の勇姿は絶対に撮らなきゃと思って、ムービーでちょっと…」


笑顔で恐ろしいことを言う白蘭に骸の顔が引きつった。


「男の僕に花を贈るくらいですから、馬鹿だとは思ってたんですが、変態だったんですね。分かりました。」

「ちょっと!僕は骸君バカなのは認めるけど、変態なんかじゃないよ。」

「勝手に人のこと撮影する時点で、十分その性癖を披露してるじゃないですか。」


骸は男達を背にして、白蘭と話すことに集中していた。白蘭の行動に若干の怒りを覚えていたせいで、背後の敵のことなどすっかり意識の外だった。



「骸君、後ろ!」


白蘭の言葉に背後に意識を向ける。倒したものと思っていた男が武器を手に骸に迫っていた。白蘭と話すことに夢中で、こんな雑魚に後れを取るとは。骸が応戦するよりも早く、白蘭がリングの嵌められた手をスッとかざした。すると突然男はバタッと地面に倒れ伏して意識を失った。


「大丈夫?…骸君に手を出すなんて、本当ならこんなんじゃ済まないんだからね!」


白蘭は倒れた男に向かってぶつぶつ文句を言っていた。助けられてしまった、白蘭に。こんな雑魚に反応が遅れたことも許せないが、白蘭に助けられた衝撃の方がずっと大きかった。不本意だが、彼に借りができてしまった。このままだと自分のプライドが許さない。


「あなたに借りができてしまいました。僕、そういうのはきっちりしたい性格なので、何か僕にできることがあれば、お礼します。」

「そんなこと気にしなくていいのに。…でも骸君が嫌なら、う〜ん、何がいいかな?……あっ、今度僕がボンゴレに遊びに行く時、ナースか婦人警官の服装で出迎えてくれるとか!」

「死ね。」


その呟きと共に骸は白蘭の鳩尾に拳を叩き込んだ。あまりに突然のことだったので、白蘭は避けることもできず、その場にしゃがみ込んだ。


「む、骸君、痛…いんだけど。」

「本当に馬鹿で変態ですね。そこで少しは反省しなさい。」



骸は白蘭をその場に残して路地裏を出た。助けられた時、一瞬だけ彼の真剣な表情が目に焼き付いた。だけど、最後のあの発言で台無しになっていた。とは言っても結局、白蘭に借りを残したままになってしまった。コスプレは問答無用で却下として、彼が今度来た時には、何かそれ以外のお礼をしないといけませんね。


悩みが1つ増えたなと、白蘭へのお礼を律儀に考えながら骸は街へと歩き始めた。



<お礼は何がいいでしょう編>




ある暖かな昼下がり、外の気持ちの良さとはかけ離れた雰囲気の漂う部屋があった。


「デートは駄目?」

「どこかに出掛けるのは面倒です。」


「僕の所に遊びに来るのは?」

「同盟ファミリーといっても、用もないのにしょっちゅう訪れるのはどうかと思います。」

「それって遠回しに僕のこと言ってる?…あぁ、もう!この前のお礼って言い出したのは骸君なんだよ。僕が色々提案してるのに、全部却下とか酷くない?」

「あなたの場合、何か裏があるんじゃないかと思えて仕方ないんですよね、すみません。」

「それ笑顔で言う台詞じゃないよ〜。」



白蘭がいつものように花束を携えて、ボンゴレの本部で仕事中の骸を訪れたので、綱吉の計らいにより、これまたいつものように客室で2人は話していた。この前助けられてしまった借りを何とか返したくて、骸は自分のできる範囲でのことをしたいと提案したが、白蘭の口からはデートや旅行など2人きりで出掛けるものばかりが飛び出した。お礼をしたいと言ったのは骸の方だったが、白蘭の申し出は自分には耐えられそうにないものだったので、全て断っていた。

「じゃあ、ここでもできるからさ、膝枕してよ!5分でいいから。」


白蘭はお願い、と骸の目の前で手を合わせた。膝枕か…まぁ確かにこの部屋でできますし、5分くらいなら僕も大丈夫な気がする。1日中付き合うよりましですかね。


「変なことしないと約束できるなら、良いでしょう。」

「本当に?やった!嬉しいなぁ、骸君の膝枕。」

「僕の膝枕が良いなんて言うのはあなたくらいじゃないですか?」


骸はソファーに腰掛けると、白蘭の頭を自分の膝の上にそっと載せた。足に少しだけ彼の重みが加わる。白蘭は何がそこまで嬉しいのかというくらいに、笑顔で足をぱたぱたさせていた。


「やっぱり下から骸君を見るのって、いつもと違うアングルだから何かいいよね。そそるっていう…」


白蘭が最後まで言い終える前に、骸は彼の顔を殴っていた。それほど力を入れなかったことに良く手加減できたと、自分を褒めたくなった。


「本当に1回死んでくれませんかね。お願いですから。」

「…ごめんなさい。もう黙ってるから、そのまま膝枕お願いします。」


白蘭はそのまま静かになるとそっと目を閉じた。柔らかな陽射しが、部屋の窓から優しく降り注いでいたせいだろうか。ほどなく白蘭から、すやすやと寝息が聞こえてきた。寝てしまったみたいですね。あなた一応ファミリーのボスなのに、こんなに無防備で良いのでしょうか。すぐ近くにある白蘭の顔をじっと見る。いつもの飄々とした顔ではなく、どこか幼さの残るあどけない寝顔だった。こんなにじっくりと白蘭の顔を見たのは初めてだった。彼を起こさないようにそっとソファーにもたれ掛かる。


室内はいつの間にか、穏やかな空気で満ちていた。白蘭を見ている内に段々骸も心地良い眠気に襲われていた。僕も少しだけ…白蘭の重みを感じながら、骸もそっと目を閉じた。





「骸、白蘭、ちょっといいかな?…骸、お前に仕事で聞きたいことがあるんだけど。」


綱吉は2人が居る客室のドアをノックした。しかしいつまで経っても返事がない。どうしたのだろうとドアを開けて、綱吉は思わず微笑んでしまった。白蘭が骸に膝枕されて眠っており、骸の方もそのままの状態で眠っていた。


骸、お前、口では色々言ってるけど、やっぱり白蘭が近くに居ることを許してるんだな。他人は勿論、自分と話す時でも骸は常に一定の距離を保っている。だが今は、それが嘘のように白蘭と骸の距離は近かった。白蘭になら骸を任せられそうだ。2人にはもっと仲良くなってもらわないとな。



静かに眠っている骸と白蘭にもう1度微笑んで、綱吉はそっとドアを閉めた。

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あきゅろす。
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