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ねぇねぇ、こっち向いて。 1
原作風味
短編の連作みたいな感じです




<彼が押し掛けて来ました編>




「どうして僕がここに呼ばれたのか、全く分からないんですが。」


ここはボンゴレ本部の綱吉の執務室。部屋の主である綱吉から少し離れて、壁に体を預けるようにして骸は立っていた。その表情は不機嫌そのもので、眉間には深く皺が刻まれている。


「まぁまぁ、落ち着けって。俺も白蘭の迫力に押されて、断り切れなかったのは悪かったと思ってるよ。でもどうしても、骸に居て欲しいって言われてさ。」


骸が不機嫌オーラ全開なので、綱吉は彼を刺激しないようにそっと話し掛けた。


「だからどうしてボンゴレとミルフィオーレの同盟の締結の席に、僕が同席しないといけないんです?ボス同士で済む話じゃありませんか。」


これはまずい。骸、どんどん不機嫌さが増してる。綱吉はどうしようと頭を抱えた。今日はボンゴレにとっても重要な日なのだ。絶対に失敗などできない。


「それが、向こうが同盟の証人にお前を指名してるんだよ。お前が居てくれないと俺も困るっていうか…とにかく少しの間だけでいいから我慢して欲しいんだ。」


綱吉は、不快な顔のままの骸に必死に訴えた。


「嫌です。」


骸は即答すると、綱吉の前を通り過ぎて部屋から出ようとした。このまま骸を帰しては、同盟が…と考えて、綱吉は骸に必死に食い下がった。その時、コンコンと部屋のドアをノックする音と共に、やっほ〜綱吉君、ちょっと早いけど来ちゃった、という何とも間延びした声が聞こえた。


「嘘、白蘭、もう来たの?」

「まずいですね。今僕が部屋から出て行ったら、彼と鉢合わせになります…」


少し考えるような素振りを見せると、骸は綱吉が困るような提案をした。

「僕、白蘭が帰るまでその執務机の後ろに隠れてます。完璧に気配殺しますから、絶対に見付かりませんよ。」

「隠れるって…俺、どうすれば…」


混乱する綱吉を横目でチラリと見やり、骸は机の後ろに座り込んだ。白蘭達がソファーに座っていてもここに居れば見えないのだ。これでほとぼりが冷めるまでやり過ごそうと骸は息を殺した。


綱吉はもうどうにでもなれと、半ば自棄になってドアを開ける。白いスーツに身を包んだ白蘭は、これまた大きな白い薔薇の花束を抱えていた。言われなくてもこの花束は、骸に渡すものなのだろう。


「今日はわざわざこちらに出向いてもらって、ありがとうございます。」

「いえいえ♪僕もボンゴレとの同盟は重要だと思ってるから。今日は僕達ファミリーにとって、始まりの日になるね。」


綱吉に笑顔を向けると白蘭は、今日骸君は…と尋ねた。やっぱり聞いてきた〜。綱吉は白蘭にばれないように執務机に目をやる。骸の気配は彼の言った通りに、完璧に消えていた。


「あ、あの…骸はまだというか何というか…」


綱吉はしどろもどろになりながら白蘭に答えた。骸が居ないせいで、不機嫌になったらどうしようと彼の顔を見た。白蘭は不機嫌というより悲しみに包まれていた。もし彼に耳と尻尾が生えていたならば、きっとぺたりと垂れてしまっていただろう。そっか、と白蘭はしゅんとしてソファーに座ろうとした。だが何かに気付いたように、執務机に視線が釘付けになっていた。


「あの、白蘭?」


綱吉が声を掛けたが、ちょっと待っててねと白蘭は言うと、机に真っすぐ歩いていった。


「骸君、みっけ♪」


…何故ばれた?僕はちゃんと気配を殺していたはず。だって僕は完璧に机と一体化していたんですよ。骸は内心の動揺を隠しながら、どうして僕が居ると分かったんですかと白蘭に聞いた。


「僕も骸君の気配には気付かなかったんだけど、これが見えてさ。」


白蘭はそう言って、骸の髪を一房慈しむように手に取った。


「机から髪がはみ出してたよ。…もしかして骸君、僕に見付けて欲しくてここに隠れてたの?本当に照れ屋さんだね♪」


僕としたことが!詰めが甘かった。しかも結果的に彼に勘違いまでさせるとは。


「ち、違います!誰が見付けて欲しくて隠れますか!」

「え〜、照れなくていいって♪」

「だから違うと…」

「2人共仲良いのは分かったから、先にやることをやって欲しいというか…同盟にサインしてもらえる?」

「誰と誰が仲良いんですか!」

「あ、やっぱり綱吉君もそう思う?」


話を続ける2人を無理矢理ソファーに座らせると、綱吉は同盟の証となる署名を書かせた。骸は白蘭の隣で嫌そうにしていたが、逃げられないと割り切ったのか、きちんと自らの名前を書いていた。


「はぁ、とりあえずこれでボンゴレとミルフィオーレは同盟関係のファミリーになったので、これからよろしくお願いします。」

「うん、こっちこそよろしくね。」


綱吉と白蘭が握手を交わす姿を見ながら、骸はもう自分の仕事は終わったのだからと、早々に部屋を退出しようと席を立った。そんな彼に綱吉が骸、と声を掛ける。


「白蘭にはゆっくりしてから帰ってもらいたいんだけど、俺、やらなきゃならない仕事があるからさ。お前が俺の代わりをしてくれよ。」

「何で僕が!もう僕の仕事は終わったじゃありませんか。」

「お前午後から仕事ないし、白蘭と仲良さそうだから俺も安心して任せられるというか…白蘭、隣の客室が空いてるから好きに使って下さい。じゃあ、骸、あとはよろしくな。」

「ちょっと!僕を売る気ですか。…っ?白蘭!腕を離しなさい。」


自分の横に置いていた薔薇の花束を脇に抱え、骸の腕を掴むと、綱吉君ありがとうと微笑んで、白蘭は部屋を出て行った。


悪いことしたかな。でも俺には2人は本当に気が合いそうに感じたんだけど。それに骸も上手くやるだろうし。骸も頑張ってるだろうから、俺も仕事だなと、隣の部屋のことを考えながら綱吉は仕事に取りかかったのだった。



<2人きりになってしまいました編>




白蘭に半ば引っ張られるようにして、骸は隣の客室へと連れて来られた。


「はい、これ。骸君にプレゼントだよ。」


骸の手に、綺麗な白薔薇の花束が渡された。軽く数えても30本以上はありそうだった。薔薇だってそれほど安くはないはずなのに。本当に贈る相手を間違えているとしか思えなかった。


「あのね、白い薔薇の花言葉って、『私はあなたに相応しい』っていうんだよ。」

「あなたが僕に相応しいと…本当に自意識過剰ですね。」

「そんなことないってば。僕と付き合ったら、きっと骸君を満足させる自信があるよ!」


このまま喋り続けても一方通行になるだけだと骸は判断した。それに花束など貰っても困ってしまう。しかし白蘭の性格を考えると、はっきり断っても効果はなさそうだ…まずはそれとなく遠回しにいきますか。小さく溜め息を吐いて、骸は白薔薇を客室のテーブルに置くと白蘭に向き直った。


「…とりあえず花を贈ってくれたことは感謝します。ですが生憎、僕の部屋には花瓶なんてものはありませんから、今後こういう風なことをされると困るんです。」

「そうだよね。ごめんね、僕気付かなかったよ。」


意外にも効果があったようだ。骸は心の中でやったと叫びそうになったが、白蘭が続けて発した言葉に打ちのめされた。


「花だけ贈って、その後のことなんて考えてなかった。ごめんね、骸君。今度バカラの特注の花瓶をプレゼントするよ♪それならたくさん花を飾れるよね。」


白蘭はニコニコ笑っている。どうしてそんな風に考えられるのでしょう。僕の話を全く聞いていないというより、都合良く解釈して自分の思い通りにしている。白蘭には自分でも勝てそうにない気がして、骸は一気に疲労を感じた。早く帰ってホットチョコレートが飲みたかった。


「すみません。僕ちょっと体調が悪いみたいなので、帰らせて頂きたいのですが。」

「うそ!骸君大丈夫?頭とか痛いの?」


えぇ、あなたのせいで頭痛がしてきました。


「僕は先に失礼します。あなたも好きな時に帰って下さいね。」


おろおろする白蘭を見て、彼を騙したことに本当に少しだけだが、可哀想だったかもしれないと思った。そんな風に思ったからだろうか。骸はテーブルに置いていた白薔薇の花束をもう1度抱えると、白蘭をチラリと見て部屋を後にした。その時彼が、ゆっくり休んでね、と口を動かしたように見えた気がしたのだった。

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あきゅろす。
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