隣り合わせの恋 2
平和ですね…。
僕はベッドの中で微睡んでいた。日曜日の朝というのは何て気持ちが良いのだろう。僕は日頃の疲れをとろうと布団の中で体を伸ばした。
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同性から告白されるという、あの衝撃的な出来事から1ヶ月以上が経っていた。あれから白蘭には1度も会ってはいない。僕は大学にバイトと、いつも通りの生活を送っていた。
あの出来事にはあまりにも驚かされたので、白蘭のことを忘れた訳ではなかった。だが、日々の生活に追われて行く内に、彼のことを気に留めなくなっていたのも事実だった。
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このままお昼まで寝ていようかと、うとうとしていると、アパートのすぐ側で何やら物音がしていた。カーテンを少し開けて階下を見ると、引っ越し会社のトラックから荷物が運び出されており、どうやらこのアパートに誰かが引っ越して来るようだった。
僕の住んでいるアパートは、最新のマンションなどにはほど遠いが、家賃も手頃で駅にも近く、付近にはスーパーや商店街があり、学生にはありがたい所だった。近所には大家のおじいさんも住んでおり、何かあった時にも心強い。
だがそれ以上に気に入っているのは、このアパートの花壇だった。一般の家庭でも珍しい位に手の込んだ造りになっており、季節ごとに異なる花が咲く。その可憐な姿は、疲れた時に僕の心を癒やしてくれるものだった。
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コンコンと玄関のドアをノックする音に目を覚ます。どうやらあれから少し寝てしまっていたようだ。すいませ〜ん、隣に引っ越して来た者ですが、というドア越しの声に、僕は慌てて玄関に駆け寄る。そしてそのままドアを開けて、現れた目の前の人物に驚いて、馬鹿みたいにポカンと口を開けてしまった。
「な、何で、あなたがここに…」
「え、む、骸君!?本物…だよね?わ〜、骸君にまた会えたっ。しかもこれからはお隣りさん!?僕もう幸せ過ぎてどうしよう。」
もう会うこともないだろうと思っていたのに、ニコニコ笑顔の白蘭がそこに居た。僕はクラクラする頭のまま、彼に引っ越しのことを尋ねた。
「あぁ、うん。僕今まではお店の寮に住んでたんだよね。でも新しい子達が入って来ちゃって、まぁその子達に部屋を譲らないといけない感じになってさ。」
白蘭の引っ越しの理由は分かったが、何故このアパートなのだろうか。彼ならきっと店でも上位のホストのはずだ。もっと快適に暮らせる高級マンションにでも住みそうなものなのに。僕の訝し気な視線に気付いたのか、彼はでもね、と付け加えた。
「ここに引っ越して来た1番の理由は、あの花壇かな。僕、こう見えて花好きなんだよね〜。」
そう言って白蘭は指を差す。その先には色とりどりの花が揺れていた。
「住む所を色々探してた時、たまたまここを見付けて。…一目で心を奪われちゃってさ。でもまさか骸君が住んでいたなんて…」
…驚いた、僕と同じことを思っていたとは。少しだけ、ほんの少しだけだけど、彼の見方を改めても良いかもしれない。
「……これから、よろしくお願いしますね。あと白蘭と呼んでも良いでしょうか。見た所、あなた僕と年も近そうですし。」
「うん。骸君になら呼び捨てされても全然構わないよ。むしろ呼び捨て希望!それと、こちらこそよろしくね。」
白蘭はそう言うと僕に手の平を差し出してきたので、僕はそっと握り返した。
「あ、そうだ。さっきから言おうと思ってたんだけど、骸君、髪に寝癖ついてるよ。」
「えっ?」
起きてそのままドアを開けたので、全然知らなかった。自分の失態に恥ずかしさで一杯になる。
「ほら、ここだよ。…本当に可愛いなぁ、骸君は。」
そう言って白蘭は、僕の髪にそっと触れる。その瞬間、僕は一気に顔に熱が集中するのを感じた。だけど一方で、白蘭の手の温もりをひどく心地良くも感じていた。僕は我に返ると、赤くなっているだろう顔を見られたくなくて、玄関のドアを思い切り閉めた。
え?ちょっとどうしたの?骸君〜、とドア越しに聞こえるその声に、
「…僕は眠いので、もう寝ます。それじゃあ。」
と、答えたが声が上擦ってしまい、何だか情けなかった。すると僕の行動から何か察したのであろうか、ふふっと笑う白蘭の声が聞こえ、うん、分かったよ。おやすみ、骸君♪という弾んだ声と共に隣のドアが閉まる音がした。
*****
どうしたのだ、僕は。白蘭に触れられた所が、ずっと熱を持っているようだ。心なしか心臓もドキドキしている気がする。
本当にあの男は、色々と厄介です…だけど、そんな白蘭のことを嫌いという訳ではなかった。
って、さっきから白蘭のことばかり考えているじゃないですか、僕。
白蘭のことを考えるのはやめにして、寝てしまおうと布団の中に潜り込んだが、当然眠ることなどできなかった。
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