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いつもと違って見える恋
隣り合わせの恋 番外編




今日のバイトは後片付けが長引いてしまい、いつもより帰りが遅くなった。少し遅めの夕食を取り、テレビをぼけっと観ていると、テーブルの上の携帯がメールの受信を告げた。この時間はもしかしなくてもきっと。僕は携帯を開いて画面を確認しなくても、それが誰からのメールなのか分かっていた。ゆっくりと手を伸ばして携帯を開く。メール画面に表示された愛しい人の名前に思わず笑みが零れた。やっぱり白蘭からでしたね。いつも思うのですが、ホストは仕事中でもメールして良いものなのでしょうか?お客さんに失礼な気がするんですけどね。それでも白蘭は店で上位の人気ホストだ。きっと女性客を怒らせることなく、上手く抜け出してメールを打っているのだろう。本当に器用ですよね。頭ではそんなことを思いつつも、やはり白蘭からのメールは嬉しい。僕は彼からのメールの内容を確認した。


骸君、今課題中とかだったら邪魔してごめんね(´・ω・`)


僕、明日突然お休み貰っちゃったんだ。でも明日は平日だし、骸君も大学でしょ?だからさ、僕も骸君と一緒に大学に行ってもいい?僕、一度でいいから大学に行ってみたいんだよねo(^▽^)o


どうやら白蘭は僕の大学に行きたいらしい。以前彼が僕を食事に誘う為、大学に来たことを思い出した。白蘭は黒いスーツの上に濃いグレーのコートを着ており、さらに友人から借りたという赤い外車で僕を出迎えてくれたのだった。あの時の白蘭は、とんでもなく目立ってましたよね。もしまたあのような服装でしたら、それこそ僕に変な噂が立ちそうなのですが。どうしようかと僕は一瞬だけ迷ってしまった。けれども僕の頭の中に断った時の白蘭のしょんぼりとした顔が浮かぶ。やはり僕は、どんな小さなことでも白蘭に喜んでもらいたい。こんな機会も滅多にないでしょうしね。


僕は白蘭に了承の返信をした。但し仕事で着ているようなスーツではなく、大学生に見えるような服装で来ることと、僕から絶対に離れないことを守るようにと付け足した。僕が返信のメールを送ってすぐに白蘭からメールが返ってきた。そこには、骸君大好き愛してる♪仕事頑張るね〜!と書かれてあり。白蘭の嬉しそうな笑顔が容易に想像できて、僕はクスリと笑ってしまった。



*****
白蘭と大学に行くことになった日は2限目から講義が始まる日だったので、僕は時間の余裕を持って白蘭の部屋のドアをノックした。


「おはようございます、白蘭。約束の時間ですけど、準備はできていますか?」


はいは〜い、ちょっと待ってね。弾んだ声と共にガチャリとドアが開き、中から笑顔の白蘭が出てきた。僕は目の前の白蘭を見て少し驚いてしまった。何故なら彼は、僕が思っていた以上に大学生らしい爽やかな出で立ちをしていなからだった。僕が良く見る上品なスーツや彼の好みのモノトーンな私服ではなく、ピンクのラインが襟にあしらわれた黒いポロシャツにベージュのパンツ、足元は白いスニーカーを履いていた。前髪もアップにしてピンで一纏めに留めており、そんな爽やかな白蘭に声を掛けられれば、女の子達は皆確実に彼について行ってしまうだろう。


「白蘭、そういった服も持っていたのですね。…僕、初めて見ました。」

「うん、仕事で洋服とかもプレゼントされることがあって。皆、僕のことを思って用意してくれるから、趣味に合わなくて着なくても一応取っておいたんだ。それが役に立つ日が来るなんてね。」


いつもと違う服装の白蘭は全くホストには見えず、これならば大丈夫だろうと僕は思った。


「良いですね、白蘭。メールでも言いましたけど、今日は僕にむやみに触ったりしてはいけませんよ。それから、ちゃんと大人しく僕の側に居て下さいね。面倒かもしれませんが、一緒に講義も受けてもらいます。」

「了解〜。骸君が僕の無理なお願い聞いてくれたんだから、今日は大学生として過ごすよ。いつもと違うからさ、今からすっごく楽しみ♪」


白蘭は本当に楽しそうに笑った。その笑顔があまりにも綺麗過ぎて、僕は思わず見とれてしまった。良かったと思わずにはいられない。白蘭が嬉しいなら、同じように僕も嬉しいのだから。





僕達は電車に乗り、少しの間外の景色を楽しんだ後、駅を出て大学へと歩いた。僕が通う大学はそれほど大きい学校ではないが、キャンパスは緑で溢れ、施設の機能も充実しているなかなか良い大学だった。


大学の入り口であるアーチ型の正門をくぐると、白蘭は僕の隣できょろきょろと辺りを見渡し始めた。


「骸君、大学って広いし、学生がたくさん居るんだね。うわ〜、すごいなぁ。」

「白蘭、恥ずかしいですから、もう少し静かにして下さい。ただでさえあなたは目立つ容姿なんですから。」

僕は講義を受ける教室を目指しながら、たしなめるように白蘭に声を掛けた。


「あっ、ごめんね、骸君。…僕、高校卒業してそのままホストになったから、大学って新鮮なんだよね。」

「…そうでしたね。白蘭がはしゃぐのも無理ないですよね。すみません、僕の方こそ。…えっと、ここですよ、今から講義を受ける教室です。たくさん学生が居ますから、あなたが居ても特に問題ないですが、一応後ろの方に座りますよ。」


は〜い、と白蘭が僕の後ろを楽しそうについて来る。教室には既に多くの学生が座っていて賑やかだった。出入り口に近い席に座ると、白蘭がねぇねぇと話し掛けてきた。


「これって何の講義なの?」

「これは仏教哲学ですよ。あなたには退屈かもしれませんけど。」


僕は哲学を専攻している。今日は日本の仏教哲学と、午後に西洋の近代哲学の講義が入っていた。

「退屈になんて思わないよ。骸君が大学でどんな勉強しているか詳しく知ることができて、僕、嬉しいもん。やっぱり今日ここに来て良かった。また骸君のこと新しく知ることができたから。」


白蘭が優しく僕を見つめる。その輝く瞳に心臓を掴まれ、急に恥ずかしくなってしまった僕は白蘭から勢い良く視線を外した。


「白蘭、あなた…今日手ぶらで来たでしょう。机に何もないと不審に思われますから。」


そう早口で告げて、ルーズリーフとシャープペンシルを少し乱雑に白蘭に手渡した。ありがとう、骸君。白蘭がそんな風にお礼を言ってきても、僕の顔は熱いままで彼の顔をなかなか見ることができなかった。





白蘭は僕が思った以上に真面目に講義を受けていた。僕がノートを取ることを横から邪魔をすることもなく、かといって話に飽きてしまうこともなくだ。僕は段々と隣に座る白蘭のことを気にしなくなり、講義に集中していった。前を向いて講義に耳を傾けていると、白蘭からう〜んと小さな声がした。


「どうしたんです?白蘭。」


僕が小声で尋ねると、彼も僕の方を向いて小声で返してきた。


「僕も一応ノート取ってたんだけど、ちょっと見にくい所があって。」


でしたら、僕のを見ますか?僕はそう言って白蘭に書きかけのルーズリーフを渡そうとした。けれども白蘭は大丈夫だよと笑うと、パンツのポケットから何かを取り出してそのまま顔に近付けた。


眼鏡…!?あぁ、眼鏡なんて反則ですよ!僕は思わず心の中で叫んでいた。先ほどまで前髪を留めていたピンは外されており、前髪が掛かった黒縁眼鏡姿の白蘭は格好良かった。はっきり言ってサマになり過ぎている。僕はいつものスーツ姿で眼鏡を掛けている白蘭を想像して、そのまま机に突っ伏してしまった。僕って本当に白蘭のことが好きなんですね。もうこれは絶対に覆りそうにもないことであるけれど。


「骸君、どうしたの?気分悪い?」


僕が突然机にうつ伏せになったので、白蘭が慌てた声を出した。ちょっとこれ以上近付かないで下さい。あなたのその姿は破壊力があるんですから。


「大丈夫、です。…何でもありません。」

「そう?それならいいけど。」


白蘭は何かあったら言ってね、と僕に微笑んでそのまま前を見た。僕は白蘭の真剣な横顔をそっと見る。いつもと違う彼の姿に、僕の鼓動はどんどん速くなっていた。これでは講義どころではない。ノートを取っていても、全く内容が頭に入ってこないのだ。眼鏡姿の白蘭が気になって気になって仕方がなかった。


やがて講義終了のチャイムが教室に鳴り響く。僕はその音に救われたような気がした。白蘭は哲学って面白いんだね、講義楽しかったよと目を輝かせていたが、僕は彼に曖昧に頷くことしかできなかった。



*****
僕はいつもお弁当を食べるけれど、今日は白蘭と一緒なので大学の食堂に向かった。食堂といっても、そこはガラス張りのテラスのようになっていて、サンドイッチのような軽食からしっかりとした定食まで味わえる。僕と白蘭はおすすめ日替わり定食を2人揃って注文し、テーブル席に座って食べていた。白蘭は手頃な値段で味も悪くなく、栄養もしっかり取れる学食に満足しているようだった。


「でもやっぱり、僕の一番は骸君の手料理だよ。それしか考えられない。」


真剣な口調で白蘭はうんうんと頷く。今でも僕は白蘭に軽めの食事を用意しているし、都合が合う時にはお互いの部屋で一緒に食事をしている。白蘭は毎回僕の料理を美味しいと言ってくれて。白蘭は、何度僕の心臓を保たなくすれば気が済むのだろう。彼は本当にいつも僕の欲しい言葉をくれる。それは出会った時から今も変わらず、僕の胸を甘く締め付けるのだ。


食事を終えた僕達は食堂を出ようとして、見知った2人組が歩いてくることに気付いた。それは昼食をトレーに乗せた綱吉君と武君で、どうやら席を探しているようで、2人も僕達に気付いて手を振ってくれた。綱吉君は児童心理学、武君はスポーツ科学を専攻していて僕達は3人共皆、専攻はバラバラだが、時間を合わせて一緒に昼食を取ることが多い。だが今日は申し訳ないけれど用事があるからと事前に断っていた。2人は僕達を見て白蘭がここに居ることに驚いていたが、事情を説明すると納得したようで、仲良く講義を受けるようにと言われてしまった。彼らが僕達の応援をしてくれることは嬉しいが、やはり気恥ずかしさは抜けなかった。誤魔化すように腕時計を確認すると、そろそろ昼休みも終わりに近かったので、僕は2人と話し込んでいる白蘭を引っ張って、午後の講義の教室へと向かったのだった。



*****
午後の講義も相変わらず白蘭は熱心に受けていた。僕はまた白蘭が眼鏡を掛けたら、どうしたらいいのだろうと訳の分からない心配をしてしまったが、結局彼は眼鏡を掛けることはなかった。僕はほっとすると同時に何だか残念な気がして、講義の内容などそっちのけで1人で悶々としてしまった。


いけない、講義に集中しなければと気合いを入れ直した僕は、白蘭を意識しないようにと、それだけを考えていた。けれど、結局はすぐ隣に居る白蘭の気配に敏感になってしまって。午前中と同じようにノートを取りながら、僕はそっと白蘭を見た。そして目に入った彼の姿に小さく微笑んでいた。白蘭は頬杖をついた格好のまま、うたた寝をしていた。確か彼は今日も明け方まで仕事をしていた。十分に休んでいない中で温かな午後の日差しに包まれれば、眠くなって当然だろう。僕はシャープペンシルを握ったまま眠っている彼の手からそっとそれを抜いた。白蘭は気付くことなくすやすやと眠り続け、結局講義の終わりに僕に起こされることになった。こうして白蘭の最初で最後のキャンパスライフは幕を閉じたのだった。



*****
「頑張って起きてようと思ったのに、結局寝ちゃったよ。あ〜あ、ちょっと残念。」


僕達はアパートへと続く通りをのんびりと歩いていた。白蘭は残念だなぁと口に出したが、その表情はご機嫌だった。


「ねぇ、骸君。」


隣を並んで歩いていた白蘭が不意にじっと僕を見た。


「…骸君も僕も大学生だったら、また違った出会いをしてたのかな?同じ大学に行って、一緒に勉強したり遊んだり…」

「僕はあなたがホストで良かったと思ってますよ。」


僕は白蘭を真っすぐに見つめると、強く言った。彼がホストで僕が大学生であったから、あのような出会いをして、一緒に過ごすことができて、こうして今に繋がっているのだから。


「僕達はお互いの想いが通じ合うのに時間が掛かりましたけど、その分今はお互いが自分以上に大切で、ずっと一緒に歩いていきたいと思っています。…それで良いではありませんか。僕も白蘭も、今がとても幸せなんですから。」

「…うん、そうだよね。僕も骸君に出会えて今がすごく幸せだよ。…骸君、今日は本当にありがとう。」


白蘭は花が咲いたような笑顔を僕にくれた。僕だって。僕だって白蘭と同じ気持ちだ。


「僕の方こそ、ありがとうございます。楽しかったです。…いつもと違うあなたを見ることができて、満足ですよ。」


それって大学生の僕?僕もまだまだいけるかも♪白蘭は嬉しそうに笑うと、僕の手を取って駆け出した。


「早く帰ろうよ、骸君。僕ね、今日の夕食、パスタがいいな。骸君が作ってくれるよね?」

「白蘭、ちょっと!…分かりましたから離して下さいって。」


2人で茜色に染まる夕暮れの道を駆けて行く。


僕達の影が優しく1つに重なって、寄り添うようにどこまでも伸びていた。






END






あとがき
今回は大学に潜入wな白蘭と、眼鏡姿といういつもと違う恋人の姿にきゅんとする乙女過ぎる骸になりました。『隣り〜』の白骸はくっつくまで長かった分、恋人になったら、すごくらぶらぶしてくれると思っています^^


とにかく可愛い雰囲気の2人にしようと頑張ったのですが、下手するとただのばかっぷるですね(^^;)


この作品の2人は一番最初に書いたということで、やっぱり思い入れが強くて、またまた書いてしまいました(´`)読んで下さってありがとうございました!

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