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Another World 3(完結)
骸君が僕の隣に居る。そのことがもうすっかり僕の日常になった。骸君はあの日の時みたいに時々僕を守る為に幻術を使って敵を近付けないようにしてくれていた。だから僕は安心して彼が側に居る毎日を過ごすことができていたんだ。


今日は学校の授業が終わった僕をいつものように迎えに来てくれた骸君に日頃のお礼を兼ねて甘い物をごちそうしてあげようと考えていた。だから僕は放課後の帰り道にちょっとだけ寄り道したいんだよね、と彼に上目遣いでお願いしてみたんだ。そうしたらさ、効果はあったみたいで、たまにはどこかに寄って帰るのも良いですね、と僕の提案をすんなりと受け入れてくれた。


僕が連れて行った通学路の途中にあるカフェで骸君はそれはそれは幸せ一杯だという顔でチョコレートパフェを食べた。パフェを嬉しそうにもぐもぐと食べる骸君は僕よりずっと年上なのに本当にあり得ないほど可愛くて。上機嫌な彼の背中に花が見えてしまった。骸君は何も注文しなかった僕に、あなたは食べなくて良いのですかと気を遣ってくれたけど、僕はそれを笑顔で断った。今日は彼に喜んで欲しかったし、それにパフェを口に運んで幸せそうに目を瞑る骸君を見てたらさ、それだけでお腹一杯になっちゃったんだ。


それからそのカフェで少しの間のんびり過ごして、他愛のない話で盛り上がった後、僕達はまたゆっくりと帰り道を歩き始めた。今日の夜ごは骸君と何食べようかなぁと考えていたら、隣を歩いていた骸君の足がぴたりと止まった。


「どうしたの?」


僕も同じように足を止めて隣に立つ骸君に視線を向けようとした。だけど視界にたくさんの黒が映り込んできて僕は思わず目の前の道を見た。


「骸、くん…これって…」


僕達から少し離れた所でまるでここから先は通さないとでもいうように、黒いスーツに帽子を被った男達が10人ほど立っていた。彼らは気配を感じさせることなく、突然目の前に現れたように僕には思えた。僕は慌てて骸君を見遣る。だけど彼は涼しげな表情で優雅に微笑んでいた。


「どうやら残された時間がなくなって焦って出て来たようですね。…白蘭、あなたは僕の後ろに。すぐに全てを終わらせて、あなたに平穏な日々を返してあげますからね。」


骸君に後ろに下がっているように言われ、僕は骸君達から距離を取って大人しくしていることにした。骸君が僕のことを守ってくれるんだ。だから彼の足手まといになっちゃいけない。僕はぎゅっと拳を作って駆け出すと安全な場所まで離れて彼を見守ることにした。


「……すごい…」


彼の手から生み出される幻術はそれはもうすごく綺麗だった。幻術なんてものは考えてみたら今日初めてしっかりと見たんだけど、彼の周りに蓮の花がふわふわと浮いていて、本当に幻想的で美しいとしか言えなかった。幻術は肉弾戦みたいな戦い方とは違って相手の精神を崩壊させるものだから、僕の目には何も攻撃を受けていないのに相手がその場でもがき苦しんでいる姿が映った。


「うん!やっぱりすごい!」


次々と倒れていく敵の姿に僕は馬鹿みたいに興奮していた。骸君は美人で最強の術士なんだろうな。戦っている彼はただただ綺麗で見惚れるしかなかった。そうやって骸君に夢中になって周りが見えていなかった。だから突然背後から伸びてきた腕に気付くのが遅れてしまった。まずいっ、油断してた。そう思った時にはもう既に手遅れで僕は屈強な男に捕まっていた。


「ちょっと、離してよ!」

「白蘭!?」


僕の叫び声に離れた所で戦っていた骸君が悲痛な叫びを上げて駆け寄ろうとした。僕も男の腕から逃れようと必死にもがいた。だけど何の特殊な力も持ってない僕はどうやっても全然抜け出せそうになかった。


「今すぐ白蘭を離しなさい。」

「六道骸…それ以上近寄るな。」


男は低い声で告げると、僕の身体を片手だけで器用に押さえ込んだままスーツの上着の中へ右手を差し入れた。そしてサイレンサー付きの銃を取り出して骸君に銃口を向けた。僕はその光景に息を飲んだ。このままじゃ骸君が危ない。どうしよう。全身がまるで氷のように冷たくなるのを感じた。


「そのような物が幻術を操る僕に通用するとでも?」


骸君は男を見下すように冷ややかに笑った。確かにすごい幻術を使う骸君なら大丈夫なのかもしれない。僕は彼の名前を呼ぼうとした。だけどこめかみに冷たい金属の感触を感じてそのままゆっくりと口を閉じた。


「貴様に効かないのなら、これはどうかな?」

「……っ、」


悪意しか感じられない愉悦混じりの声が骸君に問い掛ける。骸君は僕と一緒に過ごした今までの中で見たこともないくらいに蒼白な顔をしていた。彼の肩が小さく震えているのがはっきりと分かって、僕は何もできない弱い自分が情けなくて泣きたくなった。悔しくて堪らなかった。


「いいな、動くなよ。少しでもそんな素振りを見せたら…」

「分かり、ました。」


骸君はつらそうな表情で小さく呟くと、それ以上は動こうとはしなかった。揺れる瞳で黙ったまま僕を見つめた。男は満足したのか、僕の頭からゆっくりと銃口を離した。だけど次の瞬間、骸君に向けて素早く引き金を引いていた。


「骸君っ…!」


反撃も何もできない骸君は咄嗟に銃弾を避けたみたいだけど、右の太ももの辺りを撃たれようだった。白いスキニーパンツがじわりと赤く染まっていくのが見えて、僕は心の中で声にならない叫びを上げた。今すぐ骸君の側に行きたくて仕方ないのに、男の屈強な腕から全く逃れることができなかった。


「骸君…骸君!」

「これくらい…大したことではありませんから。白蘭、心配しなくても…大丈夫ですよ。」


骸君に届くことはないのに、僕は必死になって腕を伸ばしていた。届かない僕の手を握り締める代わりのように、骸君は静かに微笑んだ。


「お喋りは終わりだ。…まずは六道骸、お前から始末する。」


男が笑いながら骸君に冷たく光る銃口を向けた。骸君が死んじゃう。もう駄目だ。嫌だよ、君が死ぬのだけは。強くそう思った瞬間、僕の視線の先に立っている黒いスーツの男達が数人、夕方の茜色に溶けるように音もなく消えた。そして、僕を捕まえていた男も。


「えっ…!?うわっ…」


羽交い締めにされていた身体が突然自由になり、そのまま前のめりに倒れ込みそうになって、僕は慌ててアスファルトに手をついた。一体何がどうなっているのか。僕の頭は混乱していた。


「白蘭が…敵の組織を滅ぼしたようですね。」


うずくまっていた骸君が安心したようにぽつりと呟いた。


「それって…さっきまで僕を捕まえてたリーダー格のあの男、この世界でも向こうと同じように裏の人間で、向こうの世界のもう1人の自分に協力してたってことになるのかな?向こうの自分が向こうの僕に消されちゃったから、世界の因果律だっけ?それに従って同じように消えちゃった……」

「そうですね。あなたの言う通り、そういう人間も少なからず存在します。僕の世界の科学力ならば色々と調べて情報を集めれば、もう1人の自分のことなどすぐに分かりますからね。秘密裏に接触していたのでしょう。誰しも自分の命は惜しいですからね。」

「そっか、やっぱり向こうが死んじゃって、こっちも消えちゃったと。」


あれ?そういえば僕達普通に会話してるけど、骸君、撃たれたんだよね?うん、そうだよ!骸君、思いっきり撃たれてたじゃん!ああもう、僕、骸君が怪我してるの忘れるとか、どれだけテンパってるんだよ。僕は我に返ると慌てて骸君に駆け寄った。そして制服のポケットから白いハンカチを取り出すと、急いで太ももの傷口に巻き付けた。


「骸君、どうしよう。血が…骸君が撃たれて…僕…」

「白蘭、落ち着いて下さい。弾が命中する前に何とか上手く避けられたみたいで…血は出ていますが、掠っただけです。」

「本当?…良かった。」

「…本当にあなたは、どちらの世界でもこんな風に僕に優しい。」


骸君は僕が巻いたハンカチを見つめると、白蘭と初めて会った時もそうだったんですよ、と骸君の世界の僕とのことを話し始めた。


「僕は…元々は依頼を受けて白蘭の命を狙っていたんです。」

「それって、暗殺ってこと?…でもそんなの綺麗な君には似合わないよ。」


骸君は少しだけ困ったように笑って、ありがとうございますと言った。


「かつて僕は闇に生きる人間でした。…圧倒的な力の差で白蘭に負け、僕は彼に殺される覚悟をしたんです。それなのに彼は、今あなたがしてくれたようにハンカチを取り出して傷を受けた僕の腕に巻いてくれました。…どの世界でも『白蘭』の本質は優しさなのではないかと思うのです。…あなたと一緒に居て、そう思いました。」


ありがとうございます。骸君は再び感謝の言葉を口にした。向こうの世界の大人な僕には、きっと絶対に勝つことなんかできないと分かる。だけどこんな僕でも、確かに君の中に何かを残すことができたんだ。


「お礼を言うのは僕の方だよ、骸君。僕の為に本当にありがとう。僕、嬉しくてたまんないよ。君が僕を守ってくれた。」

「白蘭…」


幸せそうに目を細める骸君に僕もありったけの想いを込めて頷いた。骸君の手当ても無事終えて安心した僕は、急に周りの様子が気になってしまった。茜色に染まり始めた住宅街の道には僕と骸君の2人の影だけがある。そういえば戦いが終わった途端、この場から逃げて行く男達も居たんだよね。骸君に訊いてみたら、どうせ安い金品で雇われた者達でしょうと教えてくれた。


「それに、こんなに激しく戦ってたのに通報とかされなかったよね?」

「幻術で周りに見えない結界を張っておくことはいつでも忘れたりはしませんから。」

「やっぱりね。さっすが、骸クン♪」

「…これでもうあなたは大丈夫です。本当に良かった。…僕の役目も終わりましたね。今後あなたに危機が迫ることはないですよ。大丈夫です、安心して下さい。」


僕に笑い掛けながら、骸君が首に掛けているペンダントを取り出した。夕陽がペンダントに反射して僕の目に眩しく輝いた。骸君がこのペンダントを使うということは。それはつまり、元の世界に帰ってしまうという訳で。


「…もう、君には会えないの?」

「そのような顔をしないで下さい、白蘭。あなたの生きるこの世界のどこかにも、僕は存在します。…きっとあなたに見つけて欲しいと思っていますから。ですから探してあげて下さい。そして仲良くしてあげて欲しい。」

「骸君…」


骸君は僕の問い掛けにそんな風に答えを返した。そして最後に綺麗に笑うと、青い光に包まれて僕の前からふわりと消えたんだ。



*****
突然命を狙われるという普通の高校生にはあり得ないような、ある意味刺激的な体験からあっという間に数ヶ月が過ぎた。骸君が彼の住む世界に帰ってしまった後、僕は退屈だけど平和な毎日を過ごしていた。


今日は本当は模試があって土曜日まで学校があったんだけど、簡単な模試を受けるのが面倒で学校をサボって1日中遊んでいた。繁華街をうろついていたけど、さすがに夕方になったから僕は部屋に帰ろうと電車に乗り込んだ。どうやら今日は他の学校も模試だったみたいで、電車の中はたくさんの高校生で埋まっていた。僕は隅の方の席に座ると、疲れたなーとそっと目を閉じた。


「…ん、」


遠くから車内アナウンスの声が聞こえる。僕の意識は一気に覚醒した。どうやら遊び疲れてうたた寝しちゃってたみたいだ。はっと目を開けた僕は、窓から見えた駅名に寝過ごしそうになっていることに気付いて、慌てて電車を降りようとした。急いでいたせいか、持っていたカバンに軽く引っ掛けていただけのヘッドホンが入り口の近くに立っていた学生にぶつかって落ちてしまった。電車の床に転がった白いそれを拾って僕にそっと差し出してくれたその子を見て、僕はこれ以上ないくらいに目を見開いてしまった。


「君は…」


今もまだ記憶に新しい綺麗な微笑みが蘇る。ねぇ、骸君、見つけたよ。やっと見つけた。僕は目の前の彼の腕を引っ張ると、そのまま一緒に電車を降りた。彼はここが自分の降りる駅じゃなかったみたいで、見ず知らずの僕の行動に酷く驚いているようだった。


「いきなり、何するんですか…!」

「僕さ… もう1つの世界で幻術を使う美人で大人な君を知ってるんだよ。」

「え…?」


僕は深い海のような色の髪と、透き通るような赤と青の瞳を見つめた。


「僕は白蘭。はじめまして、骸君。」






END





あとがき
色々あり得ないぐだぐだな感じですみません。おかしな所だらけです。すみません。ただ10代白蘭と20代骸を一緒に歩かせたかっただけですそれだけです(`・ω・´)白蘭は大人な骸に目を奪われ、骸は高校生白蘭のことを可愛いなと思うといいなという妄想からできたお話です。


白蘭を狙った悪い人達はこの世界でも裏の世界に関わっている人間ということにしたり、ペンダントをいじって別の世界に来たりと無理矢理過ぎる設定ですが、こんなパラレルワールドもあるかもしれないとものすごく広い心で読んで頂けたら嬉しいです!


高校生白骸も仲良くなってらぶらぶになると思います!どの世界でも白骸は幸せでいるんです^^ここまで読んで頂きましてありがとうございました!

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あきゅろす。
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