[携帯モード] [URL送信]
Another World 2
骸君が僕のことを守ると言って目の前に現れてから、何気ない日々がただ続いているだけだった僕の人生は今までとは大きく変わることになった。退屈でのんびりと時間だけが流れていく、そんな色褪せた日常から。


「…こうして歩いていると、僕達ってどんな風に見えるのかなぁ。」

「顔は似ていないですから兄弟には見えないでしょうし…従兄弟辺りですかね。」

「やっぱりそんな感じかな。恋人とかには見えないよね、残念〜。」

「僕達は年齢も離れていますからね。」


僕と骸君は早朝の住宅街を歩いていた。遅刻しないようにと足早に歩く学生やサラリーマン達が僕と彼を追い越していく。僕は彼らをちらりと見て、そのまま隣を歩く骸君に視線を移した。朝の光に照らされる彼は本当にもう場違いなほどに綺麗で、思わず惹き付けられてしまうような華やかな雰囲気を醸し出していた。


「別に良かったんだよ。僕1人でも学校には行けるんだから。」

「そういう訳にはいきません。白蘭、あなたは今現在非常に危険な立場に立っているんですよ。」


まぁ確かにそうなんだよね。骸君は僕の寝室から起きて来るとリビングのソファーで寝ていた僕に学校まで送りますと言ってくれたんだ。わざわざ君がそこまでしてくれなくてもいいのにとは思った。だけど僕のことを心配してくれるのはやっぱり嬉しかったから、結局彼の言葉に甘えることにした。


「それにしても、骸君って僕より背が高いんだよね。」


通学路をのんびりと歩きながら僕は骸君を見つめる。黒のニーハイブーツのヒールの部分を除いても、骸君は僕よりも頭1つ分は背が高かった。なのに僕より細いんだから本当に困るよね。彼はそうですね、僕の方が大人な分高いですね、と僕を見て優しく微笑んだ。


「僕の世界では、白蘭と僕はそれほど身長は変わらないのですが…あなたはまだ高校生ですからね。でもまだまだ成長期なのですから大丈夫ですよ。」


骸君は楽しそうに頷くと僕の頭を慈しむように撫でた。あぁ、朝からすごく幸せだなぁ。でも君は僕のことちょっぴり子供扱いしてるよね。そりゃあ僕、高校生だし、大人な骸君から見たら何もできないただの子供だけど。


「骸くん!」

「はい、…白、蘭?」


僕はすぐ側にあった電柱の陰に驚いている骸君を引っ張り込むと、背伸びして彼の頬に触れるだけのキスをした。そう、あのちゅーだよ。


「僕は確かに子供だけど、僕のことを守ろうとしてくれる君が大切なんだよ。分かってくれたかな?」

「白蘭…」


骸君は綺麗な瞳に驚きの色を浮かべていたけど、すぐに顔を綻ばせた。そして、あなたはきっとどちらの世界でも子供ですよ、と歌うように囁いて眩しそうに僕を見た。あぁ、ずるいよ、そんな顔は。


それからしばらく通学路を歩いて僕は骸君と校門の前で別れた。手を振る僕に彼は、さすがに授業中や学校で過ごす間は人目もあるから相手も簡単に手出しはできないはずです、と告げた。そしてまた放課後にあなたを迎えに来ますからとも。ということはあれだよね、帰りも骸君と一緒ってことだよね。僕は自分が危険な状況に置かれていることは分かってはいたけれど、彼が僕の隣に居てくれる今が一番嬉しくて楽しかった。






朝の校門の前で骸君が言った通り、特に何も変わったことは起きなかった。僕は彼に会うまでと同じように簡単過ぎて退屈な授業を受けた。そして今日の授業も全部終わって放課後になったから僕は彼が待っているだろう校門へと向かった。


「うわぁ…骸君、相変わらず美人過ぎるせいですごく目立ってるよ…」


校門の隅の方で伏し目がちに立っている骸君の姿が見えた。そんな彼に女の子達が目を奪われながら通り過ぎて行く。ううん、女の子達だけじゃない。男の子もぽかんと口を開けて骸君を見ていた。僕はこれ以上皆に彼を見て欲しくなくて、急いで彼の所まで走った。


「骸君、お待たせ。待たせちゃったね。」

「大丈夫ですよ。それほど待っていませんから。さぁ帰りましょうか。」

「うん!」


夕方の爽やかな風が吹いて長くて深い海のような色の髪が揺れる。その綺麗な色に一瞬心が震えてしまい、僕は我に返ると先を歩き出す骸君に遅れないように彼を追い掛けた。朝も通った閑静な住宅街の道を僕達は他愛のない話をしながらのんびりと歩いていた。すると骸君が、ちょっと良いですか、とやけに真剣な瞳を真っすぐ僕に向けた。


「うん、なあに?」

「僕、白蘭とはお互い成人してから出会ってまして…」

「へぇ、そうなんだ。」

「ですから、実は僕、恋人である白蘭の学生時代は知らないんですよね。…それで、頭では違うとちゃんと分かってはいるのですが、あなたを見ていると学生時代の彼はこんな感じなのかとつい想像してしまって…」

「顔も同じだから君の恋人の僕もこんな感じだったと思うけどなぁ。」


僕は制服のブレザーの裾を軽く摘んでみせた。骸君はそんな僕に肯定するように首を振るとぐいと身体を近付けた。


「白蘭…この世界のあなたを初めて見た時からずっと思っていたのですが…学生のあなたは本当に可愛いです。」


ですから頬を触ってみてもいいですか?骸君は我慢できないとでもいうように両目をきらきらと輝かせて、黒い革手袋をはめた手を僕の顔へと伸ばした。骸君がそのまま僕のほっぺたに触れようとしたまさにその瞬間、彼の透き通るような右の瞳の中に浮かぶ六の数字が一に変わった。


「あっ…」


そもそも何で骸君の瞳に数字が刻まれているかもよく分かってない僕は目の前の出来事をただじっと見ていることしかできなかった。


「今、地獄道で僕達の姿を見えなくしました。…そして僕達を襲おうとしていた輩には、出ることのできない迷宮の世界へいざなっておきました。」


骸君が後ろを振り返って冷たい、それでいてすごく艶めいた声を出した。彼の言葉に促されるように僕も背後を確認してみたけど何も見えなかった。多分僕達や敵の姿を隠して見えなくしたのは一般人に目撃されたら困るからだよね。周りの人に説明しても分かってもらえないだろうし。目の前の通学路はちらほらと近所の人が歩いているだけで、敵が倒れてる訳でもなく、いつもと何にも変わった様子はなかった。今のこの状況を頭の中で色々と考えてみたけど、結局答えが出る訳もなくて。僕はいまいち何が起きたか分からないままに骸君の方を見た。すると彼はいつもの優しい声で、幻術ですよ、ひっそりと囁いた。


「幻術…何それすごいよ、骸クン♪何だか魔法使いみたい。」

「幻術は魔法とは違うのですけどね。僕は術士なんですよ。今発動したのは僕のスキルの1つの地獄道というもので、幻術により相手に醒めることのない悪夢を見せることができます。ここは通学路で通行人も居ますから、僕達だけではなく、敵の姿も周りには見えないようにしました。それに下衆な輩の姿なんて、白蘭、あなたに見せたくはなかったので。放っておいても仲間が迎えに来るのでしょう。」


骸君は何でもないことのよにさらりと告げた。本当に彼は違う世界から僕のことを守りに来てくれたんだ。今さらながらに僕は自分の状況を理解した。彼から色々と教えられたことを消化してちゃんと分かっていたつもりでも、こうして非日常的なことが目の前で起きてしまうとさすがにのんびりとした毎日が退屈で仕方ない僕でも、自分の命が狙われているんだと訳も分からない焦燥感を感じた。


「大丈夫ですよ。僕があなたを守ります。」

「骸君…」


僕の中に生まれた漠然とした不安みたいな気持ちを包み込むように骸君が僕の左頬に静かに触れた。手袋越しの彼の温もりが僕の心にふんわりと届いた。


「やはり、柔らかいです。マシュマロみたいですね。」


僕の頬に触れたまま骸君が綺麗に微笑む。そして僕の左目の下を柔くなぞってから細い指が離れた。


「そうに決まってるじゃん。僕、まだ高校生だもん。」


そう言って僕が骸君に笑い掛けると、そういえばまだ子供でしたね、と楽しげな声で笑ってくれた。






帰り道でちょっとした事件が起きた後、それから特に何もなく僕達は無事に部屋に帰って来た。それから2人で夕食を食べた後、食後のお菓子を頬張っていた僕に向かって骸君が今日はマンションの外で見張るなんてことを言ってきた。敵がまた襲って来たらいけないから、ということらしい。


「そこまでしなくてもいいんじゃない?寝ないでずっと外で起きてるなんて身体がつらいよ。」

「僕のことは心配して頂かなくとも大丈夫ですよ。あなたは今日の課題でもしていて下さい。」

「骸君…」


優しいけど有無を言わせないっていう笑顔。そんな強い瞳を見ちゃったらさ、僕もうんと頷くしかなかった。


「僕の為に本当にありがとう。でも、無理だけはしないでね。絶対だよ?」

「大丈夫ですよ。心配してくれてありがとうございます、白蘭。」


骸君が僕に一生懸命なのが本当に嬉しくて。僕は想いを込めて彼の手を握り締めた。骸君が嬉しそうな顔をするのが分かって、僕も嬉しくて切なくて堪らなかった。

[*前へ][次へ#]

122/123ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!