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Another World 1
高校生白蘭と25歳骸です
色々あり得ない&無理矢理展開ご都合主義な設定です




自分の部屋でお気に入りのクッションに座ってぼんやりとテレビを観ていた僕は、何だか急に甘いお菓子が食べたくなっちゃって自宅マンションの近くのコンビニへ行くことに決めた。履き慣れた白のスニーカーを履いて玄関のドアを開けると、夜になっていつの間にか外は激しい雨が降っていた。

「あー、雨降ってる。」


傘差すの面倒だなぁ。お気に入りの靴も濡れちゃうし。僕は玄関先に立ったままコンビニへ行くのを一瞬だけ躊躇った。う〜ん、でもやっぱりお菓子は食べたいしなぁ。


「…ちゃちゃっと行って来ようかな。」


僕は玄関脇に置いてある傘を手に持つと、玄関を出て駆け足で階段を降りた。そしてそのままマンションの前の道を歩こうとして、思わず足が止まっていた。


「え?人が倒れてる。…ちょっ、大丈夫?」


僕のマンションの前の道に誰かが倒れていた。暗い地面にはこの激しい雨のせいで大きな水たまりができていて、倒れている彼の髪も服も何もかもが雨水でぐっしょりと濡れていた。僕は慌てて彼に近付くと、冷たい身体をそっと抱き起こした。目の前の彼は僕よりも随分と年上の人で、見た感じ10歳くらい上かなぁと思えた。それに男の僕でもちょっとびっくりするほど綺麗な顔をしていた。


「ねぇ、どうしてこんな所で倒れてるの?何かあったの?」


彼の額に濡れて貼り付いていた前髪を優しく整えてあげながらそのまま問い掛けてみた。だけど彼は蒼白な顔のまま、僕の腕の中でぐったりとしていた。こんな酷い雨の中、このまま放ってなんておけないよね。僕はそう決めた。一度こうだと決めたら行動は早いんだよ、僕。自分より背の高い彼の肩に腕を通して支えるようにすると、ゆっくりとした足取りで彼と共に自分の部屋に戻ることにした。






僕は意識のない彼を寝室のベッドに横たえると、心の中でごめんねと呟きながら、雨で濡れている服を脱がせてクローゼットから引っ張り出した自分の服を着せてあげた。だってこのままだったら確実に風邪引いちゃうから。彼の服を脱がす時、白くて綺麗な肌が思わず目に入っちゃってその白さに訳もなくドキドキした。なるべく彼の身体を見ないようにと目を逸らしながら、僕は何とか彼の着替えに成功したんだ。


彼が着ていたかっちりとした黒いジャケットと、中の白いシャツ、そしてニーハイブーツなんかは水を吸っていてすっかり重くなっていた。皺にならないように簡単に水を絞ると、明日ベランダに干して乾かしてあげようかなと思いながら彼の服をハンガーに掛けた。そしてそのままキッチンに移動してホットミルクを用意した。きっと身体が冷えてしまっているだろうから、目が覚めたら彼に飲んで欲しかった。僕は愛用のマグカップにミルクを注ぐと再び寝室に入ってベッドのすぐ脇に座った。そしてそのまま身を乗り出すようにベッドの端に肘をついて、彼の顔を覗き込む。さっきよりずっと顔色が良くなってて良かったなと胸を撫で下ろした。


「…それにしても、綺麗な大人の人だなぁ。」


僕は彼のすぐ側まで近付いてその端正な顔をじっと見つめた。単調で、ただのんびりと過ぎて行くのが僕の日常だと思ってたのに。彼を見つけたことは結構刺激的な出来事だよね。僕がそんな風に考えていたら、眠っていた彼の睫毛がふるふると小さく震え、瞼がそっと開いた。


「…ここは…?」

「良かった!目が覚めたんだね。」

「……白蘭…」


ベッドからそっと身体を起こした彼は何故か嬉しいというように瞳を輝かせて僕を見た。赤と青の宝石みたいに綺麗な瞳の中に僕が映り込んでいた。あれ?そういえば僕、自分の名前言ったっけ?目の前の彼が僕の名前を呟いたことに少しびっくりした。だけどとりあえず今はこれを飲んでもらおうと、僕はマグカップを彼に手渡した。彼はお礼の言葉を口にしてからゆっくりとホットミルクを飲み終えると、ほっとしたように息を吐いて隣に立っていた僕を見上げた。


「…僕は、あなたを守りに来ました。」

「え…?僕を、守りに…?」


彼が告げた言葉が一瞬理解できなくて、思わず聞き返してしまった。予想外の言葉に瞬きを繰り返す僕に彼はそうです、と真面目な顔で小さく頷いた。


「すみません。そういえば自己紹介がまだでしたね。僕は、六道骸といいます。」

「ろくどう…むくろくん。」

「はい。…白蘭、今から僕が話すことを驚かないで聞いて頂きたいのです。」


真剣な色を帯びた赤と青の瞳が真っすぐに僕を捉える。僕は骸君――名前を教えてもらってから、僕はそう呼ぶことにした――のその瞳に吸い寄せられるように頷くと、詳しい話を聞く為に骸君に近寄った。


「僕はあなたが住んでいるこの世界の人間ではありません。…別のパラレルワールドから来ました。」

「えぇっ!?…パラレルワールドって…」

「世界は1つではありません。驚くでしょうが、僕はもう1つの世界から来ました。…僕の住む世界では、この世界よりも科学技術がそれなりに発達していましてね。」


骸君はそう言うと1つの首飾りを僕に見せてくれた。さっき彼を着替えさせた時に目に入ったそれは、中に大切な人の写真なんかを入れておけるようなロケットペンダントだった。


「これを使って空間と空間を繋げ、違う世界に行くことができるんですよ。時間旅行というより、さしずめ空間旅行といった所ですかね。」

「それって、とんでもなくすごいよ!」


骸君は驚いている僕に優しく微笑んで小さなそれを細い首に掛け直した。だけどすぐに真剣な顔つきになって白蘭と僕の名前を呼んだ。


「先ほども言いましたが、僕は…あなたを守る為にこの世界に来たのです。」

「僕を守るって、それは一体…」

「信じられないでしょうが……僕の世界では、あなたは僕と同じように大人で…僕の…恋人、なのです。」

「君が、もう1つの世界の僕の恋人…」


少し照れくさそうな、はにかんだような表情で骸君が僕を見る。そっか、だから君は僕の名前を知ってたんだね。


「僕達は向こうの世界で、とある組織と今まさに敵対しているのですが…その組織は白蘭を倒す為に、あることを思い付いたのですよ。」

「あることって?」


苦しげな表情で骸君が僕を見る。きゅっと眉根を寄せたその切ない顔が僕の胸を締め付けた。それから彼は僕に促されるように続きの言葉を口にした。


「…1人の白蘭を消してしまえば、全ての世界の白蘭も消える。そう考えたのですよ。別の世界でもう1人の自分が本来の寿命を終えることなく誰かの手により意図的に殺されてしまえば、それに呼応して同じようにその世界から消えてしまうのです。これはあらゆる世界の法則なんですよ。勿論、白蘭だけに限ったことではないのですけどね。誰にでも言えることなのですが。…そして、この世界の白蘭がどの世界の彼よりも最も非力でした。何の力も持たない、ただの高校生だった。…あなたのことです。」

「それって…じゃあ、つまり、僕が狙われてるってこと?」

「僕達も色々と調べているので、残念ですがそれが事実です。僕があなたのマンションの前で倒れていたのも、彼らと戦闘して追い払ったからです。ですが、迂闊でした。僕としたことがあなたの部屋を探し当てた喜びから隙を見せて…雑魚ばかりだと油断した所を…あちらにもなかなかの者が居るようですね。」

「戦闘って、骸君…」


戦いなんて血生臭いものとは無縁そうな美人な骸君が僕じゃないけど僕の為に危ない目に遭っていると知って泣きそうになった。骸君のことが心配で、僕は彼の手をぎゅっと握り締めた。君が僕なんかの為に傷付くのなんて見たくないよ。そう訴えると、骸君は先ほどはあなたに会える嬉しさから少し油断しただけなので大丈夫ですよ、僕は強いですから、と静かに笑い掛けてくれた。


「僕は、白蘭に絶対に消えて欲しくはない。勿論、あなたにもです。やれることは何だってする。ですから僕の世界の白蘭が対立している組織と戦っている間、代わりに僕があなたを守りに来た訳です。」


あなたを守らせて下さい。熱のこもった眼差しに僕の胸は高まった。守らせてだなんて。そんなこと言われたら。


「君は僕のナイトってこと?でも骸君、すっごく美人なんだから、かっこいい騎士なんかよりお姫様の方が似合うよ。」


この胸の中に生まれた嬉しさや恥ずかしさを誤魔化そうとして僕は軽口を叩いた。


「お姫様も大切な人を守る為なら、騎士にだってなるのですよ。」


骸君は恥ずかしげもなくそう言い切った。温かく微笑むその姿に僕の中で彼に対する愛しさが生まれていた。僕よりずっと大人で多分本当に強いんだろうけど、それでも僕は守られるだけじゃ嫌だった。骸君の言う通り何の力もない僕だけど、僕も彼のことを守りたいと思ったんだ。会ったばかりなのに不思議だね。でも僕の中に確かに強い気持ちが生まれたんだ。


僕はマンションで一人暮らしだったから、とりあえず敵を何とかするまでの間、骸君には僕の部屋に滞在してもらうことにした。骸君はあなたに気を遣わせてすみませんと謝ったけど、僕は全然気にならなかった。というより寧ろ大歓迎だった。だって骸君には僕の側に居て欲しいんだもん。骸君が隣に居てくれると何だかすごく安心できるんだ。


「…向こうの世界の僕も同じように思ったのかな。」

「白蘭…?」


小さく呟いた僕にベッドの中から骸君がどうかしたのかと心配そうな視線を送ってきた。僕は笑顔で何でもないよと答えると、立ち上がってベッドに腰掛けた。僕の体重でベッドが音を立てるのも構わずに骸君の目の前まで近付いてみた。


「お姫様でナイトな骸君、どうぞよろしくね。」

「はい、こちらこそ。僕は絶対にあなたを守ってあげますからね。」


骸君も僕に近付いてそっと僕の髪に触れた。僕はその優しい手つきに目を細めた。これから何が起こるのか全然分からないけど、君と一緒なら絶対に大丈夫だと僕は心の中で大きく頷いていた。

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