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そして君と歩く恋
隣り合わせの恋 番外編
10話の白蘭視点です




骸君、最近何となくだけど、元気がない気がする。何かあったのかな?僕はこの1週間、そんなことばかり考えていた。骸君に会ってそれを確かめたくても、この時期は仕事が忙しくて彼に会える時間がなかなか作れない。こんな時だけ昼夜逆転の仕事は辛いなぁって思ってしまうんだよね。





それから何日か経った日の早朝に、僕は大学へと向かう骸君に出会った。久しぶりに彼を見て、胸が高まる。そういえば、骸君に会うのってイタリアンに誘った日以来だよね…僕は不意にあの日の夜のことを思い出してしまった。狭い車内で骸君と2人きりだったから、僕は今まで抑えていた気持ちが溢れそうになって、彼に口付けそうになっちゃったんだ。でも何とか理性でもって未遂で済んだ。もしそのままキスしてたら、骸君に愛想尽かされてたかもしれない。せっかくここまで骸君と親しくなれたんだから、それだけは嫌だったんだ。本当に頑張ったよね、僕。


色々考えていたら、骸君が僕の目の前まで来た。骸君、あの日のことを気にしてくれたりしたのかな?…でもここで蒸し返すのもアレだしなぁ。僕は結局未遂で終わったしと思って、あの日のことを骸君には話さずに笑顔を作って、

「骸君〜、おはよう。う〜ん、何か久しぶり?だよね。今日も寒いから気をつけてね。」


彼にニッコリと挨拶した。骸君の方もお疲れ様ですと、返してくれた。大丈夫だよね、僕、普通にできてる…それに骸君も気にしてなさそうだし。


良かったと僕がほっとしているその横を、骸君は通り過ぎた。だけどその時一瞬だけ、彼の辛そうな表情が見えた。骸君、やっぱり元気がないままみたいだ。僕、心配だな。…そうだ、また誘ってみようかな。美味しい食事でもしながら、彼の悩みを聞くのもいいよね。僕は仕事の予定を思い出しながら、骸君にメールを送ることに決めた。



*****
どうして揃いもそろって皆、風邪ひいちゃうのかな?僕はこんなに元気なのに。



僕の仕事場では風邪が大流行していた。同僚のホストは勿論、裏方の子達までここ数日休んでいた。そのせいで人手が足りなくなってしまい、通常の仕事が終わっても、やらなければならない仕事が増えてしまっていた。明日は骸君と久しぶりにお出掛けできるのに!午前中まで仕事なんて、本当に勘弁だよ。きっと部屋に戻って着替えてる暇もないから、骸君にはお店の前で待っててもらおうかな。それに、仕事終わりに骸君を見たらすぐに疲れなんて忘れそうだしね。


僕は仕事の休憩時間に骸君に待ち合わせのメールをした。すぐに、分かりました、無理しないようにという返信が来た。よし、明日は骸君に楽しんでもらって元気出してもらわなきゃ。僕は骸君の笑った顔が何よりも好きだから。



*****
普段しないような仕事をしていると、さすがに僕も疲れるみたい。オーナーがちょっと休んでいいと言ったので、僕は休憩室で一息付いていた。骸君から何か連絡があるといけないと思って、僕は携帯を取り出した。だけどプライベート用の方ではなく、仕事用の携帯が着信があったことを知らせていた。


玲奈さんからだ。どうしたんだろう?


玲奈さんはオーナーの奥さんで、僕は昔から2人にはお世話になっていた。彼女は僕達のことを自分の子供のように可愛がってくれて、何かあったら相談に乗る為だからと、お店の全員に自分の番号を登録させていた。さらに奥さんと呼ばれるのは距離を感じるからと、皆に名前で呼ばせていたりもしている、なかなかの人だった。


彼女の方から電話なんて珍しいよね… 僕は急いで玲奈さんに電話した。彼女は詳しい話は後でするから、僕に協力して欲しいことがあると言ってきた。まだ骸君との待ち合わせまで時間もあったので、僕は彼女が心配になり、オーナーを上手く誤魔化してお店を出て、マンションへと向かった。





「ごめんなさいね、白蘭。あなたにしか頼めなかったのよね。だってお店の中であなたが1番演技が上手いでしょ?」


僕は運転しながら、申し訳なさそうにする彼女を見た。僕達は車でお店へと向かっていた。勿論、この高級車はオーナーのなんだけどね。


彼女の話によると、最近オーナーが仕事ばかりで、自分に構ってくれないのだという。2人の記念日もすっかり忘れてしまうくらいに。そこで僕と彼女が親しくしている所を見せ付けて動揺させ、自分がどれだけオーナーのことが好きか分かってもらいたいらしい。


「つまりオーナーにドッキリを仕掛けるって訳ですね。」

「そうよ!だって私はあの人が大好きだから、いつも私を見てて欲しいの。」


玲奈さんは真剣な瞳をしていた。僕にもその気持ちは痛いほど分かる。だって、僕もいつも骸君に自分のことを考えて欲しいし、見てて欲しいって思うもの。


「分かりますよ、その気持ち。」

「…白蘭、あなた恋しているのね。」

「え?」

「今、誰かのことを考えてたでしょ。素敵じゃない!大切に思える人が居るって幸せなことよ。」

「はい。僕もそう思います。ちゃんと自分の気持ちを伝えようと考えてますよ。」

「上手く行くといいわね。私、応援するわ。」


玲奈さんはそう言って僕の肩をバンっと叩いた。本当に彼女は素敵な人だよ。



*****
僕と玲奈さんのドッキリは大成功に終わった。



車内で流れを打ち合わせして、お店に着いて車から降りた所から、僕は彼女を大切な恋人のように扱った。彼女が予め電話でオーナーを入り口近くに呼んでいたので、彼女の合図でそっと顔を近付けた。オーナーからキスしているように見える絶妙な角度で。でも本当にキスした訳ではないけどね。僕達を見てオーナーは腰を抜かしていたけど、事情を聞くと彼女をそっと抱き締めていた。


良かった。2人とも幸せそうで。やっぱり好きな人と一緒に居られるのって素敵なことだよ。待ち合わせの時間も迫っていたので、僕は2人に挨拶すると外に出た。



「まだ骸君来てないみたいだね…」


早く会いたいなぁ。何だか今すぐ骸君の顔が見たくなっちゃった。



*****
「骸君どうしたんだろう…何かあったのかな?」



待ち合わせの時間からもう30分以上経っていた。今まで骸君は時間に遅れたことなどなかったから、ちょっと心配になって僕は彼に電話をしてみることにした。骸君、今どこ?と言おうとした僕の耳に、相手の電源が入っていないというアナウンスが虚しく響いた。


…大丈夫だよね、落ち着くんだ、僕。骸君はもうすぐ来るんだから。僕の不安を煽るようにそれからいくら待っても、骸君が来ることはなかった。ちゃんと前日にメールをしたから骸君も今日のことは分かってると思うし、それに彼の性格を考えても用事ができたなら、何かしら連絡してくれるはずだし。…もしかして事故とか事件に?最悪な事態を想像して僕は体が震えた。ここで待ってても仕方ない。とにかく今は、骸君を探さなくちゃ。


僕は骸君と関係のありそうな場所を手当たり次第に探して回った。一応彼が通う大学、僕達のアパートにも戻ってみた。だけど、そのどこにも骸君の姿はなかった。あちこち走り回ったせいか、冬なのにうっすらと汗をかいていた。通りのベンチに腰掛けて、僕は一旦息を整えた。


骸君のことが心配で堪らない。さっきから何度も電話をしてるのに、一向に繋がらないままだった。


「骸君。骸君…」


僕はベンチに座ったまま思わずうなだれた。ふと気が付けば、辺りはうっすらと暗くなり始めていた。どうやら相当走り回っていたみたいだ。


もう1度アパートに戻ってみようかな。もしかしたら骸君が居るかもしれないし。僕は小さな期待を胸にアパートへと足を向けた。



*****
骸君の部屋のドアを叩いてもやっぱり反応はなかった。僕は目の前が真っ暗になりそうだったけど、何とか耐えて彼の部屋の前で待つことにした。


それから少し経って階段を歩く靴音が響き、骸君の姿が見えた。骸君!良かった!帰って来てくれた。僕は色々彼に尋ねたいこともあったけど、そんなことは全部どこかに飛んでしまった。骸君が無事だったことの安堵しか頭になかった。


「骸君!心配したんだよ!約束の時間が過ぎても骸君は居ないし、携帯も繋がらないから僕もしかして、骸君が何か事故とかに巻き込まれたんじゃないかって思って。」


彼に声を掛けながら、僕は泣きそうになっていた。だからそれを隠すように笑顔を向けた。すると骸君は不意に僕から視線を外した。


「今日は、こんなことになってすみませんでした。それから……もう僕に関わらないで欲しいんです。」


僕は骸君が何を言ったのか分からなかった。頭で理解できなかったんだ。


「え?どういうこと?骸君…」

「分からないならはっきり言いましょうか。迷惑なんです。あなたと居ると疲れるんですよ。」


骸君、それは君の本当の気持ちなの?だって今骸君、すごく苦しそうな辛そうな顔してるんだよ。僕のことが嫌になったのなら、どうしてそんなに悲しそうなの?


僕は骸君に何があったのか話して欲しくて、彼の腕を掴んだ。骸君が振り払おうとしても絶対に離すつもりはなかった。


「ねぇ、骸君!」


僕は君にそんな悲しい顔をさせたい訳じゃないんだ。


「話して何になるというんですか!…あなたは別に僕じゃなくたって。」


僕は骸君の言葉をじっと聞いていた。そして次に骸君が告げた言葉に思わず耳を疑ってしまった。


「見たんですよ、あなたが女性と一緒に車から出て…キスしている所を。」


どういうことだろう?骸君はあの場面を見てたってこと?でもあの時近くには誰も居なかったはずなのに。


「骸君、見てたの?」


彼は何も言わなかったけど、無言だったことは逆にはっきりと肯定を示していた。だけど1つだけ骸君は勘違いしてる。僕はキスはしていない。フリしただけだったのだから。 今すぐちゃんと彼に説明しなきゃ。このままじゃ骸君は僕から離れて行ってしまう。僕は骸君に説明させて欲しいと頼み込んだ。だけど彼は僕の話なんて聞きたくないというように、僕の腕を振りほどいて玄関の鍵を開けようとした。



待って、骸君!



僕は思わず骸君を後ろから抱き締めた。耳元で彼が息を飲む声が聞こえた。


「信じて、骸君。僕の話を聞いて欲しい。」


僕がそのまま抱き締めていると、骸君はゆっくりと強張っていた体を弛緩させ、僕の方に向き直った。その瞳はさっきみたいに悲しそうじゃなかったから、僕は彼に許されたのだと感じた。そして彼に今日の出来事を少しずつ話し始めた。


骸君は黙って僕の腕の中で話を聞いていたけど、途中から顔を真っ赤にさせて震えだした。こんなに顔を赤くした骸君なんて初めて見たかも。それにさっきは必死だったから気付かなかったけど、考えてみたら彼は玲奈さんに嫉妬したってことになるよね。そう考えて僕は堪らなくなった。だってそれってつまり、骸君は僕のことー―


骸君に出会って今まで一緒に過ごしてきて、ずっと心の奥に閉まってきた想いを今こそ伝えたいと思った。もう我慢なんてできそうになかった。



「好きだよ。愛してる、骸君。初めて会った時からずっと。だからこれからも僕の隣に居て欲しい。」


僕は骸君に自分の気持ちを伝えた。緊張するかもなんて思っていたけど、僕の心は凪いだ海のように穏やかだった。僕の告白に、骸君も嬉しそうに目を細めて応えてくれた。


ありがとう、骸君。僕と出会ってくれて、僕を好きになってくれて。僕はこんなにも幸せだよ。これからも一緒に歩いて行こうね。君と一緒ならどこまでも行けるんだから。



僕達はお互いの想いを伝え合うように優しく抱き締め合った。



*****
結局今日のお出掛けはなくなっちゃったけど、これで良かったって思ってる。


だって今日この日があったから、僕達は恋人同士になることができたんだ。あ、オーナー夫婦には感謝しなきゃだよね♪


お互いの温もりを確かめ合った後に骸君からマフラーをプレゼントされた。僕がクリスマスも仕事だと思ったらしくて、今日渡せるように用意してくれたらしい。思いがけないサプライズに僕は頬が緩んでしまった。本当に骸君ってば!


実は骸君には内緒だけど、クリスマスイブは仕事を空けておいたんだけどね。まぁ、また無理矢理休みをもぎ取った訳だけど。オーナーにはすごく怒られたけど、僕にだって譲れない時もある。イブは絶対に骸君を喜ばせてあげられる日にしないとね。


その時までにプレゼントを用意しようと思ってた訳だから、骸君にはまだ何も用意してなかった。どうしようかな、僕も何かあげたいな… そうだ!名案が浮かんじゃった♪あの時は結局できないままだったけど、もう僕達は恋人なんだから骸君も絶対喜んでくれるよ。


「骸君、僕のプレゼントはこれだよ。」


え?と不思議がる骸君をそっと引き寄せて、優しく口付けた。骸君の唇は柔らかくて、その甘さにくらくらと目眩がしそうだった。僕はいつまでもその心地良さに酔いしれていたんだ。


*****
骸君が嬉しいと、僕も嬉しいし、骸君が幸せだと僕はその何倍も幸せなんだよ。



骸君が辛くて悲しい時は、僕がその半分を背負うから。2人ならば悲しみは半分だもんね。悲しい涙を流したら、僕が拭ってあげるね。



骸君、これからもずっとずっと一緒に歩いて行こうね。



骸君が隣に居てくれるだけで、僕は幸せだから。





END






あとがき
隣り合わせの恋 白蘭視点の最後のお話です。白蘭視点を書いていますと、書いていて、この時彼はこんな風に思ってたのかぁと発見することも多かったです^^


この後のクリスマスイブデートは皆様のご想像通りに、2人はらぶらぶに過ごすのだと思います(*^∨^*)


ここまで読んで頂き、本当にありがとうございました(o*゚∇゚)o

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あきゅろす。
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