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ファミレス☆ラブパニック 1
ファミレス店長白蘭×15歳中学生骸

このお話のファミレスは何でもありのファミリー向けレストランです

とにかくご都合主義なので、きっとユニちゃんの力でどうにかなってるんだ…くらいのふわっとした気持ちでお読み下さいませ;;




僕にはどうしても確かめたいことがあります。今すぐにでも確かめなければならないんです。確かめて、それは間違っているのだと、ただの僕の気の迷いなのだと結論付けなければならないことがあるんです。断言しても良い。絶対に違う。違うはずなんです。この僕、六道骸にはどう考えてもあり得ないことなんですよ、それは。


本当に違います。絶対にあり得ない。僕が。この僕が。六道骸が。


一目惚れをしてしまっただなんて。


僕がそんなくだらないことをする訳がない。誰かに恋をして、その感情に溺れるなんて馬鹿げたことになる訳がない。だからこそ確かめなければならない。僕は、確かめなければならないんです。何故かどうしても気になる彼のことを。彼への本当の気持ちを。






通学路の途中にあるファミリー向けのレストランの店長。僕はどうやら彼に一目惚れしてしまったらしいのです。『らしい』というのは、僕自身は彼に一目惚れしたなどとは思っていないからですよ。会いに行こうと思えばいつでも気軽に立ち寄れる場所で働いている、年上でどこか余裕な雰囲気のある大人の男性。彼のことが何故か気になる。漫画のようにベタ過ぎますよね、これは。ですが何度言おうと僕は一目惚れなどしていません。していないはずなんです。なのに僕の知り合いは僕の話を聞くと、皆口を揃えたようにそれは一目惚れだとか、その人のことが好きなんだろうとか言うんですよね。僕は認めてはいませんけど。


一目惚れしたはずはないのですが、何となく気になってしまっているその店長の名前は白蘭といいます。アルバイトであろう眼鏡の店員が以前彼のことをそう呼んでいましたから。多分白い蘭と書いて、白蘭だと思うんですよね。彼は制服であるギャルソンの格好をしていますけど、髪や肌も白いですし、人目を引く左目の下のタトゥーの色が胡蝶蘭の花と同じ色をしていますからね。きっとそうでしょう。まぁ彼に良く合っている名前だとは思いますよ。それは認めてあげましょう。


このファミリーレストランはそこそこ繁盛しているのですが、どうやら人手が足りないみたいでして、白蘭は店長であるのに自らホールに立って注文を取ったり料理をテーブルに運んだり、レジ打ちまでしているんですよ。ですから僕が学校帰りに食べに行くと、くるくると働く彼をよく見掛けるんです。アルバイト店員は僕が知る限りでは3人ですね。白蘭とあまり年齢の変わらない気弱そうな眼鏡の青年と、仕事中であるのに何故かいつも棒キャンディーをくわえている金髪の青年、彼らはホールを担当しているようです。そして奥のキッチンはどう見ても小学生にしか見えない黒髪の少女が1人で担当しているのです。色々と気になってしまって突っ込みたい所もたくさんありますが、いつも4人で楽しそうに働いているので、それはそれで良いのかもしれません。


そういえば、僕が白蘭に一目惚れしてしまったらしい原因となった出来事を話していませんでしたね。彼のことが気になり出した理由。彼のことが頭から離れなくなってしまった理由。それは本当に些細なことですよ。物事のきっかけなんて、大抵は小さなことに過ぎないんです。僕の場合は、チョコレートパフェでした。僕はチョコレートが大好きでして、ある日の学校帰りにたまたまこのレストランでチョコレートパフェを食べようと思ったんです。いつもは店の前をただ通り過ぎるだけだなのですが、あの時は何となくパフェが食べたかったんですよ。今思えばちゃんと真っすぐに帰っていれば、現在進行形でこんなに悩むこともなかったのですがね。ええと、話を戻しましょうか、注文したパフェは予想以上に美味しくて、僕は珍しく夢中になって黙々と食べていたんです。そうしてしばらく経った時でした。


『お客様。口元が大変可愛らしいことになっておりますよ。』

『え…?』


ふわりと声を掛けられて顔を上げた瞬間、僕の下唇をなぞるように細い指が触れて。僕の口元に付いていたらしいチョコレートアイスを優しい指先がそっと拭い取ったんです。最初は何をされたのかよく分かりませんでした。それくらいに彼の動きは自然でしたから。漸く事態を理解した僕は突然のことに酷く驚いて、スプーンを握ったまま固まってしまったんですよ。あの時は声を出すことすらできませんでした。いつの間にか目の前に立っていた彼は僕に伸ばした手をそのまま自分の唇に寄せると、指に付いたアイスを舐めました。そして。僕に綺麗に笑い掛けたんです。どこか妖艶だとすら思えるその笑みに僕は一瞬息をすることができませんでした。息をすることを忘れていました。まるで彼の笑みに僕の何もかもを奪われてしまったかのようで。そのまま笑顔で去って行った彼から視線を外すこともできず、僕はそんな風に感じていました。ですが、それは。恋、ではないはずなんです。


「断じて違います!」


彼に一目惚れ?彼のことが好き?いいえ、僕に限ってそんなことはあり得ません。そう、あれは何かの間違いです。思い違いなんです。そうですよ。


「あれは絶対に勘違いに決まっています!」


はっと気が付けば、僕は我を忘れたように立ち上がって叫んでいて。周りに居たテーブル席の客達が何事かと一斉に訝しげな視線を向けて来たので、僕は慌てて椅子に座り直しました。あぁ、僕としたことが。僕は今、白蘭の店に居るのですよ。今まで長々と彼のことを考えていましたが、ここで目立つ訳にはいきません。


「あ…」


不意に僕の視界の隅に透けるように白い髪が見えて、思わず小さな声を出してしまいました。白蘭が僕から少し離れたテーブルに料理を運んでいますね。別に、今日も会えた!などと恋する少女のように思っていませんよ。横顔が格好良いと思ったから頬が熱くなってしまったとか、そういうことではないですからね。今、顔が熱くなってしまっているのはあれです。僕が注文してつい先ほど眼鏡の店員が運んで来たミラノ風ドリアを口にしたら思いの外熱かったせいですから。そうに決まっています。それにしてもミラノ『風』ドリアとは。どうせならもっと本格的な物を出しなさい。僕は本場の味の方が好みなのですから。…って、違いますね、いつの間にか話が逸れてしまいました。僕は何も学校帰りに息抜きで食べに来た訳ではありません。今日もいつもと同じように確かめに来ただけなのですよ。僕の考えの方が正しいのだということを。


「別に、格好良いなどと…」


思っていないですから。そう思うのに、何故か彼のことが気になって、目で追い掛けてしまいそうになっていて。ここに来た目的を忘れて、本当に何をやっているのでしょうか。僕は自分自身に溜め息を零すしかありませんでした。



*****
「今、向こうで注文を取っているあの彼のことをどう思います?…お子様ランチを奢ってやったのですから、ちゃんと答えなさい。」

「ミーはシナチク入りのラーメンの方が良かったんですけどねー。」

「ここはイタリアンを扱うファミリーレストランなのですよ。お子様ランチがあっただけでもマシだと思いなさい、フラン。」


僕はテーブルを挟んで反対側に座る青碧色の髪の少年の頭をぺしりと叩いてやりました。師匠、痛いですーと頭をさする目の前の小さな小学生、フランは僕の幼なじみなんです。僕はアパートで一人暮らしをしているのですが、フランは祖母と一緒に僕のアパートの近くに住んでいましてね。僕はよく彼に勉強を教えてあげているのですが、そのせいなのでしょうか、彼は僕のことを師匠と呼ぶんですよ。ですが普通、その場合は『先生』ですよね?家庭教師のようなものですから。それなのに何度言ってもフランは僕を師匠と呼ぶのをやめないのです。一々訂正するのも面倒ですので、今ではすっかり放置していますがね。


「師匠、学校帰りのミーを捕まえて片想いの相手のことを散々語りたいのは分かりますけど、どうでもいいノロケにミーを付き合わせないで欲しいですー。」

「なっ…誰が片想いなど!黙りなさい、おチビ!」


チョコレートパフェの上部に綺麗に盛り付けられていた2個目のチョコレートアイスをつつこうとしていた手を止めると、僕はフランを思い切り睨んでやりました。この店のチョコレートパフェは大きなチョコレートアイスが贅沢に2個も乗っていて、悔しいほどに美味しいんです。人がせっかく幸せな気分を味わっていたというのに。このどこか大人びた小学生のせいで台無しですよ。僕を怒らせたというのにフランは全く悪びれた様子も見せず、あの彼ですねー、と親子連れの席で注文を確認している白蘭をじっと見つめ出しました。


「師匠より背が高くて、年上の大人ですねー。髪もオシャレに決めてるじゃないですか。わっ、左目の下にタトゥーなんて、イケメンじゃないと絶対に許されないですよー。あの人はただのイケメンみたいですから別に問題ないですねー。」

「それは…少し誉め過ぎではないですか?」

「そんなこと言って本当は嬉しいんじゃないですかー?それにしても師匠って、割と真面目な性格だからかもしれないですけど、自分と正反対なタイプを好きになっちゃうみたいですねー。だって師匠が好きなあの人、確かにかっこいいですけど、誰にでも優しそうっていうか、ちょっと軽そうに見えますー。」

「…訂正しなさい、フラン。彼は軽い人ではありませんよ。ああ見えて真面目に働いているのですから。」

「師匠…」


少しだけ驚いた顔のフランと目が合い、僕はたった今無意識に口にした言葉に愕然としてしまいました。僕は今、何を口走った?何を考えて、そのようなことを?


「うわー、師匠、そっちを否定するんですねー。」

「え…!?」

「ミーはてっきり、『彼のことは好きじゃないです!』って言うと思ったんですけどー。師匠、結局はあの人のことがすっごく好きってことじゃないですか。ここでいつまでもうだうだしてないで、さっさと前に進んじゃって下さいよー。」

「フラン!お前、何を…」


僕は一瞬反応が遅れて止めることができませんでした。フランが面白そうな顔をして注文ボタンに素早く手を伸ばすのを。身を乗り出して必死に腕を伸ばしたのですが僅かに届かず、僕はぐっと歯噛みするしかなくて。したり顔の小学生に軽い殺意が芽生えました。フラン、後で覚えていなさい。あり得ないほど難しい算数の問題を出題してやりますから。


「あの、お客様…」


控え目な声がした方向に目を向けると、僕達の険悪な雰囲気にたじろいだのか、困惑した表情の眼鏡の青年が立っていました。あぁ、いつもの彼が来てくれて良かった。白蘭ではなくて。


「すみません、何でもありませんよ。この子が間違ってボタンを押してしまっただけですから。」

「ミーが呼んだのは眼鏡のお兄さんじゃなくて、あの人です。あの人を呼んで下さいー。」

「フラン、黙りなさい。」

「白蘭サン…じゃなかった、店長でございますか?」

「そうですー。」

「いえ、違いますから!」

「…分かりました。少々、お待ち下さい。」


年端もいかない小学生にいきなり店長を呼んで来いと言われれば困ってしまうのも無理はないですよね。彼は僕達に背を向けると、足早に歩いて行ってしまいました。それにしても本当にどうしてくれるのです、フラン!お前のせいでとんでもないことになりそうではないですか。僕は別に白蘭に会いたい訳ではない。ただ確かめたいだけ。僕は間違っていないのだと。僕はフランに文句を言うと、とりあえずアイスを口に含んで心を落ち着けようとしました。


「お客様、何か…あれっ、君は…」

「…っ、」


彼がこんなにも近くに居るのはあの時以来で。菫色の瞳がじっと僕を見つめるから。だから。らしくもなく動揺してしまって。そんな自分自身に驚くしかありませんでした。ほらほら師匠、ちゃんと頑張って下さいよーと、フランがのんびりとした声を出すのがどこか遠くに感じられるほど今の僕は混乱しており、まさに頭の中では色々な考えが駆け巡っていました。この状況をどう打開すれば良いのです?何故僕はこんなにも動揺している?別に白蘭のことなど何とも…。あぁフラン、そんな目で僕を見るんじゃありません。このまま黙っていては確実に不審に思われますよね。ですが、白蘭と何を話せと?ああもう訳が分からなくなってきました。僕は一体どうすれば!


「……僕は、あの…六道、骸といいます。」


僕自身でも何を言っているのかと果てしなく呆れてしまいましたが、何も思い付かなくて思わず自分の名前を告げていました。フランが何をやっているのだと失笑しながら僕を見つめてきましたが、綺麗に無視してやりましたよ。


「むくろ君…骸君っていうんだね、君。」

「あ、いえ…僕は、別にその…」

「師匠、何動揺してるんですー?この店長さんに言わなきゃならないことがあるじゃないですか。」

「なっ、何を…」

「っ、そうなの?何かな?それはすっごく気になるね!」


白蘭が瞳を輝かせて顔を近付けて来ますから、僕は結局彼から逃れることができませんでした。僕は目を逸らすようにテーブルの上の食べかけのパフェに視線を落とすと、どこか恥ずかしさを感じながらゆっくりと言葉を紡ぎました。


「…このチョコレートパフェ、とても…美味しいんです。ここはイタリアンがメインですが…あまりにも美味しくて…食べていると、幸せな気分になるんです。」

「ほんとにっ!?うわぁ、僕、すごく嬉しいよ♪君にそう言ってもらえるなんて、僕もね、幸せだよ。」


まるで子供のようにあどけない笑顔に不覚にも目を奪われていました。あなたはそのような表情もするのですか。どうしようもなく幸せだという笑顔を。やめて下さい。僕を惑わそうとしないで欲しい。これ以上。


「気に入ってもらえて嬉しいよ。どうぞゆっくり味わってね!」


白蘭はくだけた口調で僕達に微笑むと、そのまま厨房の方へと楽しそうに歩いて行きました。僕はどっと疲れを感じてしまい、ゆっくりと木製の椅子に座り込んでいました。たった数分の出来事でしたが、あれは僕の許容範囲を大きく超えていましたよ。先ほど見た笑顔が何故か瞼の奥にちらついていて、僕は何を馬鹿な…と頭を振って、とりあえず何も考えないことにしました。


「ちょっとあれはないですよ、師匠。好きなのはパフェじゃなくてあの人じゃないですかー。本当にさっさと告白して下さいよー。」

「このような公共の場で告白など絶対にあり得ないですね。というより、僕がそんなことする訳がない。僕は別に彼のことが好きでも何でもないのですから。」


僕は白蘭に言われた通り、再びパフェを食べ始めることにしました。これ以上フランに付き合ってやることなどできませんから。目の前のおチビさんは不満そうに頬を膨らませていましたが、僕の性格を理解しているからか、それ以上何も言うことなく、注文していたリンゴジュースを飲むことに専念し出しました。僕も黙ってパフェを食べながら、ずっと考え込んでいました。断じて違う。僕は彼に恋などしていないと。ただひたすらに。

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