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柔らかく、甘く
クリスマスイブのお話です




「骸君が変だ!」


ブラックダイヤモンドのピアスは持っていなかったでしょう?これであなたはさらに素敵になると思いますよ。僕の見立てなのですから間違いありません。そう前置きをしてピアスが入った箱を手渡したら、受け取った相手は酷く狼狽えた表情になって僕を見た。


「僕に優しい君なんて変だよ、変!…なんか怖い。」


呼び出した張本人がそれを言うのかと白蘭の態度に軽い眩暈を覚えた。彼が困惑したり焦る表情を見るのは愉快な気分になるので密かに好きだったりするのだが、自分に向けられるとこうも腹が立つのだと感じた。僕からの贈り物を持ったまま、白蘭は僕を置き去りにしてまだ動揺している。チョコの食べ過ぎ?いや、それは関係ないか、じゃあなんでと執務室の中でおろおろする姿はとてもファミリーのボスには見えなかった。


「どうしちゃったの、骸君。僕に優しいなんてさ、おかしいよ。あり得ない。」

「何ですか、その言いぐさは。」


棘を含んだ声になったのは当然だった。僕は目を眇めて溜め息を吐いた後、白蘭との距離を詰めた。白蘭は右手に持っていた小さな箱を執務机に置くと、ゆっくりと僕を見返した。白蘭の背中越しに黄色い花が見える。今日の日に合わせてサンダーソニアの花を飾っているのだろう。そういうことに心を砕くこともできるくせに何故僕に対してはこういう態度を取るのかと呆れてしまう。再び吐息を洩らした僕を見つめる紫水晶の瞳には複雑な色が浮かんでいた。


「僕は、あなたに、今日、ここに呼び出されたのですよ?」

「それは…うん、その通りです。僕が君を呼び出した。」

「お互いに仕事がありますから、会うのは夜、そして、少しの時間でいいから、ともあなたは言いましたよね?」


確認するように敢えて言葉を切りながら訊ねると、白蘭は黙って僕に頷いた。間近にある端正な顔が今は少しだけ子供っぽく見える。僕の行動理由など別に考えなくても分かることなのにどうして振り回すだけ振り回しておいてその先の答えが分からないのか理解できなかった。もしかしたらこの男は本当は酷く不器用で鈍感なのかもしれない。


「ですから、僕は今日ここに来たのです。あなたとの約束など、本当は無視することもできたのですよ?…それなのに、変とはなんですか!心外です。」

「だって、骸君が僕にこんな風に優しくしてくれるなんて考えられないじゃん。今までそんな素振りなんて…」


むすっとした表情はまるで僕が悪いと言っているようだった。言っておくが、僕は自分自身の気持ちに従って行動したまでだ。悪いと言うならばそれは寧ろ白蘭の方ではないかと思った。大好きだよ愛してると囁く為に無理矢理暇を作っては僕の所に顔を出し、美味しい物や綺麗な風景を見せくれて、そして君が必要なんだと笑顔を向けてくる。そんな真っすぐで、まじりけのない愛情に絆されてしまったのだ、気が付けば。だから、僕がこうなってしまったのは彼のせいなのだ。あなたが悪い、白蘭。


「…僕、」


藤色の瞳を瞬かせた後、白蘭が目を伏せて俯いた。


「何です?」

「僕、嫌われてると思ってたから。」

「はぁ?」


嫌いな訳はないし、憎からず想っているからこうしてここに来たのではないか。好き好き大好きと僕に散々まとわりついておきながら、心の中ではそんな風に思っていたのか。そういえばこの男は笑顔の仮面で何でも全て隠してしまう人間だったと思い出した。そういう部分に器用さはいらないのに。白蘭はつくづく面倒な男なのかもしれない。僕自身も割と面倒な人間だけれど、白蘭ほどではないと思う。直球で来るくせに臆病な部分を持っている彼が酷く可愛らしく見えて仕方がなかった。やはり、僕がこうしてあなたに会いに来た意味をちゃんと分かってもらいたかった。あの贈り物にどんな気持ちを込めたのかちゃんと知って欲しい。だから、ほんの少しだけ、あなたを困らせる。


「…たまには、少しくらい素直になった方がいいかと思ったんですよ。ですから、僕はこうして…それなのに…あなたという人は…」


僕の気持ちをないがしろにするのですか。震えた声を出してみたら、俯いていた白蘭が勢い良く顔を上げた。僕の赤と青の瞳と白蘭の薄紫の瞳がかち合ったと思った次の瞬間、彼に強く抱き締められていた。


「骸君。」

「はい。」

「僕なんかで、いいの…?」


いいも何も答えはもう出ているのだ。僕はその答えを示すように白蘭が着ている黒いシャツをきゅっと握り締めた。僕を映すその瞳が綺麗だと思った。僕の背中に回すその手に安心感を覚えた。僕の名前を囁くその声が酷く耳に馴染んだ。そして、僕を好きだと言う彼を僕も好きだった。


「あーどうしよう、幸せすぎて死んじゃいそう。」


白蘭は僕からそっと身体を離すと軽口を叩いてふにゃっと笑った。そして執務机に飾られている黄色い花に指先で触れた。


「この花のおかげかも。花言葉通り、祝福を運んでくれたんだから。」


飾っておいて本当に良かったなと笑む彼は幸せで堪らないという表情をしていた。だから僕も心が温かくなった。彼に寄り添って歩いて行こう。これからずっと。僕はそう決めた。


「……そういえば、白蘭、僕はあなたにプレゼントを渡しましたけど、あなたは何も用意してはいなかったのですか?少し気になってしまいました。」

「あ、えっと、それは…」


ふと思いついて何気なく訊いただけなのだが、白蘭は先ほどまでの幸せ一杯の表情から一転して悲しげに眉を寄せた。


「骸君とこんな風になれるなんて思ってなくて、どうせ玉砕だよ!分かってる!とかそんなことばっかり考えてたから、プレゼント…用意してなくて…」


不甲斐ない男でごめんと白蘭は僕に頭を下げた。贈り物を貰わなくても彼の気持ちはもう十分に伝わっているので、僕としては別段責める気はなかった。


「大丈夫ですよ。相変わらず面白いですね、あなたは。」


小さく笑って、ほらこっちを向きなさいと、彼の顔を上げさせていた僕の脳裏にある良い考えが浮かんだ。


「そうですね。でしたら、僕からお願いしてもいいでしょうか?」

「勿論!指輪でも服でも高級チョコでも、君の欲しい物全部言って♪」

「では、白蘭、明日のあなたの時間を僕に下さい。」

「……」

「駄目ですか?」

「…骸君、どっちかっていうとそれ、僕が君に言う台詞じゃない?」

「おや、そうでしたか?」

「ああもう、骸君ったら僕よりカッコいいなんてずるい!敵わないじゃん!」


僕ってこんなに情けない男だったのかとしょぼくれる白蘭に力なく垂れた白い耳としっぽが見えた気がして、僕は口元に手を当てるとくすくすと忍び笑いをした。


「僕の方こそあなたには敵いませんよ。」


僕をこんな気持ちにさせたあなたには。うなだれる白い大型犬の頭を愛おしむようにそっと撫でてやったら手首を掴まれてしまった。白蘭、と声を掛けるより早く指先に口付けられた。革手袋越しに与えられた口付けに少しの物足りなさを覚えた僕の心が伝わったのか、そのまま引き寄せられて唇を塞がれた。


「ううん、僕の方が君に敵わない。大好きだよ、骸君。」


降って来る口付けの合間に囁かれた言葉。その甘やかな響きは僕の心を掴んで離してはくれなくて。目を細めれば、彼も嬉しそうに目元を緩めてくれて。幸せな温もりをくれる白蘭に静かに微笑んで、僕もですよと頷いた。






END






あとがき
若干ヘタレ要素が加わった白蘭を書いてみたくて、イブの日ネタと絡めてみました^^白蘭より骸が男前でも白骸なら可愛いと思います!結局お互い大好きなんだよねーお幸せに!という私の気持ちが伝わっていれば嬉しいです。


読んでくださいましてありがとうございました!

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