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学園の王子様と優等生 10(完結)
PLAYER:白蘭




『君にどうしても伝えたいことがある。だから生徒会の仕事が終わるまで待ってて欲しいんだ。』


午後の授業中に僕は骸君にメールを送った。それはたったひとつの理由から。明日で、チョイスが終わってしまう。だからそれまでに僕の気持ちを伝えたかった。ちゃんと分かってもらいたかったんだ。だけど僕のメールに気付かなかったのか、骸君から返信は来ないまま放課後になってしまった。生徒会室に向かう前に骸君のクラスをちらりと覗いてみたけど、そこに彼の姿はなかった。もしかして図書室かな?骸君、時間がある時はよく図書室で本を読むって言ってたから。よし、後で行ってみようかな。頭の中でそう考えて、僕はさっさと仕事を終わらせる為にまずは生徒会室へと向かった。


「やっほー!生徒会長サマだよー♪」


僕が生徒会室の戸を開けると、室内には誰も居なかった。いつも僕より早く来ている正チャンが遅いのは珍しい。まぁいいや、早く仕事終わらせて骸君に会いに行かなくちゃいけないからね。


「今日も結構書類溜まってるなー。」


僕が机の上の未処理の書類に目を通していると、慌てた様子で正チャンが生徒会室に飛び込んで来た。


「何なの、正チャン、遅いよ〜。いつも僕に遅刻するな早く来いって言っといて、自分が遅刻って、そういうのさ…」

「白蘭サン、大変です!」

「ん?どうしたの?」

「僕、吹奏楽部に会計報告書を貰いに行ってたんですけど…音楽室って旧校舎がよく見えますよね?」

「え…?あ〜、うん。そうだねぇ。」

「何気なく外を見た時、六道サンがいかにも柄の悪そうな上級生と一緒に旧校舎の方に行くのを見たんです。これはどう考えても…」

「骸君が…!?」


正チャンの言葉を聞くや否や、僕は無我夢中で駆け出していた。白蘭サン、気を付けて下さい、と背後から正チャンの声が聞こえたが、僕は振り返ることなく真っすぐ旧校舎を目指した。


骸君、待ってて。すぐに君を助けに行くから。



*****
PLAYER:骸




呼び出しの場所というのは、いつの時代も体育館裏や旧校舎が相場と決まっているようですね。私立の新学校といえどもそれは同じようだ。僕は目の前に立っている3人組を黙って見つめていた。ネクタイの色から真ん中のリーダー格の男が3年生で、残りの2人は特に見覚えはなかったが、僕と同じ2年生だった。


「すみません、僕も色々と忙しいので、用があるのでしたら早く言ってもらえますか?」

「お前、今、白蘭とチョイスやってる六道骸だろ?」

「そうですが…」

「俺はな、白蘭が大嫌いなんだよ。」


憎々しげに吐き出された言葉。どうして僕がこんな場所に呼び出されたのか、分かってしまった。


「…奴は俺が好きだった子とチョイスをした。その後、俺が彼女に告白したら、白蘭と今後付き合うことはないけど、とても楽しい時間を過ごした、だけどあなたとじゃそれは無理だってこっぴどく振られちまったんだよ。だから…俺は白蘭が許せない!絶対許すもんか!」

「……」


何が恨まれてないですか。上手くやっているとか言っていましたけど、僕の言った通り、白蘭、あなた、チョイスで思い切り恨みを買っているではないですか。分かってはいたが白蘭の軽率さに軽い目眩を感じて、僕は小さく息を吐いた。午後の授業中に来ていた彼のメールに放課後になって気付いてどう返信しようか迷っていた時に、目の前の彼らに呼び出されたのだ。そう、白蘭のことで僕はこんな場所まで連れて来られた訳だ。僕はもうずっと白蘭に振り回されてばかり。もう終わりにしなければと思っているのに。彼のことが好きだからこそ。


「俺は白蘭が大嫌いだ。だからな、生徒会長様が今大切にしてるお前を傷付けて、奴を苦しめてやろうって考えた訳さ。」

「大切…」

「そうだ。お揃いのくま付けてるの、女子達の間で可愛いって結構有名だぜ?…白蘭は今までそんなことしてこなかった。なら、お前は特別なんだろ?」

「……」


目の前の男の言葉に僕の肩が小さく跳ねた。白蘭にとって、僕が大切…?いいえ、それは間違っていますよ。はっきり聞いたんです。僕のとのことは遊びだと。チョイスをしている間だけの関係の僕が、特別な訳がない。


「悪いが、痛い思いしてもらうぜ。」


目の前の男の言葉に僕は彼から素早く距離を取った。白蘭にとって僕はただのゲームの相手だとしても、僕はどうしても彼のことが好きで。だから、白蘭には絶対に迷惑を掛けたくはなかった。


「……」


ここは何とかして逃げよう。僕は足には自信がある。彼らの隙をつけば、逃げられる。油断させようと一歩足を踏み出した瞬間、背後から突然伸びてきた腕に僕の身体は羽交い締めにされた。抵抗ができず、無理矢理首だけを動かしてみると、2人の生徒が逃げられないように僕の身体を押さえていた。多分僕に気付かれないように後ろの茂みに隠れていたのだろう。


「なっ…」

「悪いが、誰も俺達が3人だとは言ってねぇ。」


3年生の男はゆっくりとした足取りで近付くと、いきなり僕の右頬を力強く殴った。羽交い締めにされた状態では避けることもできず、衝撃が僕の全身を駆け巡った。僕は痛みに耐えながらも、屈してなるものかと痛む顔を上げた。その瞬間、僕の顔を見て彼が上擦った声を出した。


「…な、何だよ、その目…何なんだよ…気持ち悪ぃ!」


男の言葉にはっとして、僕はゆっくりと地面を見た。僕の足元には殴られた衝撃で外れてしまったのだろう、青いコンタクトレンズが無惨に転がっていた。


『き も ち わ る い。』


突然、殴られた時とは違う激しい痛みが僕の右目を襲った。ズキズキとした痛みに全身から冷や汗が吹き出る。3年生の彼の言葉に僕を羽交い締めにしていた生徒達も慌てて腕を離した。急に支えを失ってしまい、僕はその場に倒れるようにうずくまった。


「…っ、痛……」


右目の痛みは治まるどころかどんどん酷くなる一方だった。痛みで意識が朦朧とする僕の頭の中に、思い出したくない過去が洪水のように流れ込んできた。 やめて下さい。入って来るな。心の中で叫んでも、それはどうにもならなかった。


『六道君の目、右目だけ真っ赤で気持ち悪い。』

『お母さんがね、もう骸君とは遊ぶなって。』

『こっち来るなよ。気味悪いから近寄るな。』

『六道、お前本当に人間かよ?化け物なんじゃねーの?そんな目の色してさ。』

『気持ち悪い。』

『気持ち悪い。』


僕は生まれつき左右の瞳の色が違っていた。左目は髪と同じ色をしているのに、右目だけが燃えるような赤い色をしていた。幼い僕は右目の色を特に気にしたことはなく、普通に生活していた。けれども気が付けば周りの人間は僕の右目を気味悪がり、恐れるようになっていた。それからだった。僕が青いコンタクトレンズをするようになったのは。奇異の視線から自分の身を、心を守る為に。そして必要以上に他人と関わらないようにした。僕の右目のことを知ったら、僕に親しくしてくれていても必ず僕から離れて行く。今までがそうだったから。だから自分がこれ以上傷付かなくて済むように、実家から遠いこの私立の学校を選び、他人とできるだけ距離を取った。模範的な生徒を演じて目立たないように生きてきた。でも、逃げているだけでは傷が癒えることはなくて。ずっとこの傷を抱えて生きていくのだと思っていたのに。


「……びゃく、らん。」


白蘭に出会ってしまった。白蘭だけは違った。彼の優しい温もりがいつまでも僕の中に残った。初めて誰かの隣に居たいと思った。助けられてその広い背中に安堵した。いつの間にか僕の心の中に彼が入って来て、彼の居場所ができていた。痛みに耐えながら閉じた瞼の裏に白蘭の顔がふわりと浮かぶ。彼も僕の右目を見たら、僕から離れて行くのだろうか?


「白、蘭。」


僕は目を瞑ったまま、ここに居るはずもない彼に手を伸ばした。彼がこの手を掴むことなどあり得ないのに、右目の痛みに堪えて必死に。伸ばされた右手は、そのまま宙を掴んで虚しく振り下ろされるはずだった。


「うん。僕だよ。」


不意に優しい、覚えのある温もりが僕の手を包んでいた。恐る恐る目を開けると、白蘭が僕の手を強く握っていた。


「…白蘭、どうして…」


僕の声はみっともないまでに震え、酷くかすれていた。助けに来たよ。息を弾ませてそう告げた白蘭は、目を開けた僕を見ると、想像通りに驚いた顔をした。


「骸君、君…その目…」


白蘭の言葉に僕は咄嗟に片手で右目を隠そうとした。けれど伸ばされた手に優しく制止されてしまい、それはできなかった。


「隠さなくていいよ。今の空と同じ綺麗な赤なんだから、隠しちゃったりなんかしたら勿体ないよ。」

「……」


白蘭はそう言ってふわりと微笑むと、ブレザーのポケットからハンカチを取り出して僕の手に握らせた。そして自分から少し離れるように言うと、遠巻きに僕達の様子を窺っていた男子生徒達に向き直った。


「僕に文句があるなら、直接言えばいい。それなのに骸君を巻き込むなんて……覚悟はできてるよね?」


にこりと笑う白蘭の纏う空気に3年生の男は一瞬怯んだが、すぐに声を荒げた。


「白蘭…てめー、ちょっと頭と顔が良くて、スポーツも何でもできるからって調子に乗ってんじゃねぇ!」


彼の言葉は、もはやただの白蘭への嫉妬でしかなかった。その男は呻くような耳障りな声を上げながら、拳を作るとそのまま白蘭へと向かって行った。僕、別に調子に乗ってないけどなぁ。白蘭は小さく呟きながら軽々と拳をかわすと、そのまま男に一撃を加えた。彼がもんどりうって倒れるのを確認することもなく、周りに居た残りの4人に対しても流れるような動作で足技を決めた。


「今後もし骸君に近付いたり、彼を傷付けるようなことをしたら、どうなるか分かるよね?…二度目はないよ。」


白蘭の強さには敵わないと悟ったのだろう。にこやかに微笑む王子様に対して男達はこくこくと頷くと、肩を寄せ合って逃げて行った。


「大丈夫?骸君…」


旧校舎の裏手に植えられている背の高い木にもたれ掛かるようにして座り込んでいた僕の所に白蘭が走って来た。


「あの、また…助けて頂いて…ありがとう、ございました。」

「無理に喋らなくていいよ。傷、痛むでしょ?…本当にあいつら許せないよ!君の綺麗な顔に傷付けるなんて。」


まさか白蘭が助けに来るなんて思ってもみなかった。彼は僕のことなど何とも思っていないのだから。彼に対してを言えば良いのか分からなくなってしまって黙り込んでいると、白蘭が僕の前にしゃがみ込んだ。


「骸君、僕、君に大事な話があるんだ。…君とのチョイスは、もう終わりにしたい。」


白蘭の言葉に心臓が大きく跳ねた。どうしてですか。まだチョイスはあと1日残っているはずなのに。だけど僕は、白蘭を引き止めることなどできないのだ。彼にとってただのゲームの相手の僕に。大丈夫。大丈夫です。また普段の生活に戻るだけです。僕自身も最初から1ヶ月我慢すれば良いと思っていたじゃないですか。明日から白蘭と僕は、学園の王子様と呼ばれる人気の生徒会長と、物静かな優等生に戻るだけ。ただそれだけのことですよ。


「そうですか…」


分かりました。いいですよ。これで終わりにしましょう。そう答えようとした僕の手を白蘭が強く握った。


「僕、最初は遊びだって思ってたのに、骸君と一緒に過ごす内に、君のこと、本気になったんだ。…君のことが好きだ。僕の気持ちを信じて欲しい。だからチョイスだけの関係じゃ嫌なんだよ。これからもずっと骸君の隣に居たいんだ。」

「…っ、白…蘭…」


信じられなくて。信じられるはずがなくて。でもこれは確かに幸せで泣きたくなるような現実だった。


「…僕だって…僕だって、あなたが、好きです。」


薄紫の瞳がみるみる大きく見開かれていく。驚いた顔をした彼は少し幼く見えた。白蘭の瞳を静かに見つめ返す。その瞳に僕が映っていることがとても幸福なことに思えた。優しく包み込んでくれる彼の手の温もりを感じながら、僕は言葉を紡いだ。


「…僕はずっとこの右目のことで、他人に深入りしないように生きてきました。ですが、あなたの温もりに、笑顔に…あなたの全てに僕は段々惹かれていった。あなたの隣に居ると、心地良さを感じられて僕は安心できるんです。」

「骸、くん…」


僕はもう白蘭への溢れる想いを抑えることができなかった。白蘭の言葉が嘘ではないなら、僕はただのゲームの相手ではなくて、これからもずっとずっと一緒に居られるのだから。


「骸君、骸君…大好きだよ。愛してる。」


白蘭は僕に甘く囁くと、顔を近付け、僕の右目の目尻にそっと口付けた。そしてそのまま両手で僕の顔を包み込むと、優しく唇を啄んだ。どこまでも甘く優しい口付けに応えるように、僕は白蘭の身体を抱き締めた。右目の痛みもいつの間にかどこかに消えていて、白蘭が隣に居てくれるなら、もう大丈夫だろうと思えた。


白蘭、ありがとうございます。僕はもう1人ではない。あなたとこれからもずっと一緒なんて、幸せで涙が出そうですよ。


1ヶ月限定の王子様な生徒会長との恋愛ゲーム。それが僕を変えてくれた。まだ人と深く触れ合うことに完全に抵抗がなくなった訳ではないけれど、白蘭が教えてくれた。優しい温もりは、こんなにも僕の心に響くのだと。


白蘭、あなたに出会って、あなたとチョイスをして、あなたを好きになって良かった。僕を好きになってくれてありがとうございます。



*****
PLAYER:白蘭




骸君を助けて、僕達の想いが通じ合った次の日の放課後。僕が溜まっている書類でも片付けようと生徒会室に入ると、正チャンが勢い良く飛び出してきた。彼は昨日の骸君のことをずっと心配していたらしい。本当にいい子だよね。でもいい子だからって絶対に骸君はあげないけど。僕の話を聞くと、おふたりが両想いになって良かったです、と自分のことのようにすごく喜んでくれた。


「という訳で、正チャン!今日、僕は…」

「分かってますよ。仕事早めに終わってもらって構いませんから。六道サンの方を優先してあげて下さい。」

「さっすが正チャン♪ありがとう。」


今日は僕の仕事が終わったら、骸君と一緒に帰る約束をしていた。ちゃっちゃと終わらせて骸君といちゃいちゃしなくちゃね♪






「遅いですよ、白蘭。いつまで待たせる気ですか。」


やっと書類の整理の目途がつき、正チャンに声を掛けてから外の廊下に出ると、骸君が微笑んで立っていた。


「ごめんね、骸君。思ったより時間がかかっちゃってさ〜。」


僕が両手を顔の前で合わせて骸君に謝ると、では、と楽しそうな彼の声がした。


「僕を待たせた罰として、チョコレートパフェでも奢ってもらいましょうか。帰り道に新しくできたカフェがあるんですよ。」


ほら早く行きますよ、骸君は促すように僕の腕を掴むと綺麗に笑った。赤と青の瞳がまるで宝石みたいにキラキラと輝いて見えた。


「うん、何でも奢ってあげるよ♪僕は君の恋人なんだからね。」


僕は笑顔で骸君に頷くと、彼と一緒に軽やかに廊下を駆けた。僕達の動きに合わせて、鞄に付けたお揃いのくまがいつまでも楽しそうに揺れていた。



*****
ゲームを始めますか?


はい
→いいえ


僕にはもうこのゲームは必要ない。これからプレイすることはもう二度とないと思う。


だって僕の隣で、愛しい愛しい大切な骸君が笑ってくれる。


これから先のハッピーエンドは、そう、僕達2人で作っていくんだから。






END






あとがき
ここまで読んで頂き、本当にありがとうございます!ものすごく痛くて薄っぺらな設定ですみません(^^;)チョイス=選択ということで、恋愛相手を選ぶというものにしてお話を書いてみました。女の子の敵のようなゲームですけど、白蘭なら許される気がするから不思議です。


時間の流れが1ヶ月と短かったので2人の感情の変化が急過ぎるかもしれませんが、その辺りは笑って見逃して下さい(><;)好きになったら転がり落ちるのは早いんです、白骸は^^


骸の過去も捏造甚だしいですが、こういう理由で他人と距離を取っていたけれど、白蘭だけはその壁を思いっきりぶち壊して骸の心の中に入ってきたという感じです。ところで、殴られてコンタクトって外れますかね?書いた後に無理があったかもと思ってしまいました(^^;)


9話で差し入れのクッキーが可哀想なことになっていましたが、その後に骸から話を聞いた白蘭が頼み込んで、もう一度骸が作り直すので大丈夫です。正チャンも交えて放課後に仲良く3人で食べると思います♪生徒会室は仕事があってもなくても白蘭と正チャン2人のたまり場だと思って頂ければ。ご都合設定で本当にすみません;;


最初に設定を書いてみた割にはぐだぐだなお話になってしまって申し訳ありませんが、最後までお付き合い下さり、本当にありがとうございました!

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あきゅろす。
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