学園の王子様と優等生 8
PLAYER:白蘭
「僕さ、チョイスやめようと思うんだ。」
生徒会室の中でぽつりとそう呟いたら、隣に座っていた正チャンが持っていた書類をバサリと床に落とした。結構な枚数があったせいでリノリウムの床に白が広がる。
「ちょっと、何やってるの、正チャン。」
それさっき僕が綺麗に整理して渡した書類じゃないか。僕の言葉に我に返り、正チャンは慌てて床にしゃがみ込んで書類を拾い始める。僕はその様子を頬杖をついて横目で見やりながら、大きな溜め息を吐いた。あ、この溜め息は正チャンに対してじゃないんだけどね。
「はぁ…本当にどうしたらいいんだろう。」
「…もしかして、六道サンのことですか?」
書類を拾い終えて立ち上がった正チャンが遠慮がちに僕の方を見た。やっぱり正チャンは僕のことをよく分かってるなぁ。僕はそうだよと頷いた。
「何かあったんですか?」
「うん。たくさんのことがあった。」
「白蘭サン?」
「……骸君のことはさ、単なる遊び。ただの恋愛ごっこだって……あれ?今、廊下で何か音しなかった?」
扉の向こうで微かな物音がしたような気がしたんだけど。同意を求めるように正チャンを見たら、彼はそんな音しましたかという顔をした。
「えっ?そうですか?…気になるなら見てきましょうか?」
いや、別にいいよ、僕の勘違いだよと首を振って、僕は入り口へと向かおうとする正チャンを引き止めた。
「えっと、そうそう、話を戻すけどさ…骸君とのことは遊びだったんだよ。ただの恋愛ごっこって思ってた……最初はね。だけどさ…」
「白蘭サン、六道サンのこと…」
「うん。僕、骸君のこと…本気で好きになっちゃったんだ。骸君と一緒に居て、いつの間にか守ってあげたいって思うようになった。屋上で一緒にお昼ご飯食べた時にさ、2人で思いっきり笑ったんだけど…骸君の笑顔が眩しくて。あんなに誰かと笑ったのなんて僕、初めてだったんだよ。」
正チャンは膝の上に握りこぶしを作るくらいの真剣な瞳で僕の言葉を聞いてくれた。
「この前のデートもさ、僕1日中ずっとドキドキしっぱなしで…顔に出ないようにって最後までずっと必死だったんだ。…僕、本当に本気で彼のこと…」
「白蘭サン!だったらあなたの気持ちをちゃんと伝えるべきです。このままじゃチョイスも終わって、あなたと六道サンの繋がりがなくなっちゃいますよ!」
正チャンが少し声を荒げて僕にまくし立ててきた。 彼は僕の唯一の親友だから、いつも僕のこと心配してくれるんだよね。
「…でもさ、それが簡単にできるなら、こんな風に悩んでないし、君にも相談なんかしないよ。」
正チャンの優しさはありがたかったけど、僕は思った以上に今の状況に参っていた。だって考えてみてよ。骸君に好きだ、君のこと本気なんだよと言ってみても、彼が信じてくれると思う?そんなはずないよね。だって僕は今まで退屈しのぎでたくさんの子とチョイスをしてきた訳で。骸君にも、これは恋愛ゲームだからって言っちゃったんだよ?それなのに今さら好きって。君が大好きなんだって言ったって。
「何て顔してるんですか、白蘭サン。諦めるんですか?そんなのあなたらしくない。…彼に分かってもらえるまで、何度でも伝えればいいじゃないですか!」
「正チャン…」
「白蘭サンが本気なら、僕は応援します。白蘭サンは僕の大切な友人なんですから、やっぱりあなたには笑っていて欲しいんです。『学園の王子様』って言われてる人がそんな不甲斐なくていい訳ないですよ!」
「正チャン、君は…」
正チャンは驚いている僕に気付くと、あぁ…僕、白蘭サンに何てこと言っちゃったんだと真っ赤な顔になって下を向いた。正チャンは間違ってない。僕の方が何やってんだろう。うじうじ悩んで正チャンにまで心配させちゃってさ。
「ありがとう、正チャン。…僕、明日の放課後に骸君と話すよ。ちゃんと僕の気持ちを伝える。」
僕は決めた。もう迷わないと。だってチョイスはもうすぐ終わってしまうんだ。時間は残り僅かしかない。骸君にちゃんと僕の想いを告げよう。骸君に分かってもらえるまで、信じてもらえるまで、僕は絶対に諦めない。
「そうですよ、それでこそ白蘭サンです!」
「僕、諦めないよ、正チャン!」
嬉しそうな正チャンに、僕は笑って大きく頷いた。
骸君。僕は今までずっと毎日が色褪せて見えて、酷く退屈だと思ってた。だから気晴らしに作ったゲームで遊んでいた。
だけど君と一緒に過ごして、僕の毎日が段々輝いていって。
チョイスが終わっても、ううん、ずっとずっとこれからも君と笑っていたいんだ。
それくらい君のことが好きだから。
だから僕の気持ちを信じて欲しい。僕にとって君は、何よりも大切で愛しい存在だから。
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