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学園の王子様と優等生 7
PLAYER:骸




今日は白蘭と2人きりで出掛ける、つまりはデートの日だった。僕はチョイスなんてゲームは学校の中だけのものだと思っていた。けれども数日前に白蘭から週末にデートしようよ♪とメールが来て、当たり前だが酷く困惑した。少し前の僕だったら彼に取り付く島も与えないくらいに、はっきり嫌ですと断っていたと思う。けれど今はもうそんなことは簡単にできそうにはなかった。


保健室で白蘭の手の温もりを知って。旧校舎の屋上で彼と穏やかな時間を過ごして。そんな風に白蘭の隣で過ごす内に、僕の中で少しずつ、けれども確実に彼に対する認識が変化して、彼の存在が大きくなっていた。 そして気が付けば、常に白蘭のことを考えている自分が居た。こんなことなど今まであり得なかった。他人と深く関わることに今でも抵抗を感じる僕が、白蘭と居ることに心地良さを感じているのですから。


今日の白蘭とのデートは、駅の近くの繁華街で買い物をしようという、何とも学生らしいものだった。制服ではない私服に着替えて腕時計で時間を確認すると、僕はアパートを出て待ち合わせ場所へと向かった。駅へと向かう道すがら、白蘭のことを考える。彼のことばかり考えてしまうのはもう仕方がなかった。


「…白蘭。」


白蘭と一緒に居ることが今はもう安心だと思える。ならば今日は彼とのデートを楽しめば良いだけです。自分の心の変化にまだ戸惑ってはいたけれど、それでも僕は素直にそれを受け入れてみようと思ったのだった。



*****
駅の地下街。新しくオープンしたばかりの人気のイタリアンカフェ。街一番の大型書店。僕達は色々な所を見て回った。白蘭は本当によく気を利かせてくれて、僕が少し疲れて休みたいと思うよりも先に、スイーツ食べて休憩しようよ、あそこのベンチで少し話そう、と微笑んでくれた。僕に向けてくれるその優しい表情が以前よりもずっと柔らかさを伴っているように感じられて、白蘭が笑うその度に、僕の胸は苦しくなった。


「ねぇねぇ、骸君。ちょっとそこのゲームセンターに寄って行かない?」


白蘭がはしゃいだ声で通りの向こうを指差す。僕はつられるように白蘭が指し示す方向を見た。僕らと同じ年代の若者のグループが楽しそうな顔で店内へと入っていく。ゲームセンターなどもう随分と行っていない。勿論誰かと一緒になんて。


「今から行こうよ、骸君!…そうだ、一緒にプリクラ撮ろうよ。」

「プリクラ!?…それは嫌です。…それに、確か男同士でのプリクラ撮影は禁止の所が多くないですか?」

「骸君は美人だから問題ないよ。」

「そういう問題ではないと思うのですが…仮に問題ないとしても、僕は撮りませんから。」


たとえ撮影が可能だとしても、絶対に無理です。一緒に居る今でさえ、変に心臓がドキドキしているというのに。プリクラなんてあれじゃないですか、すごく狭い空間で撮らなければならないんですよ。僕は白蘭を見た。整ったその顔が近くに来ると想像しただけで、絶対に耐えられそうになかった。えー骸君のケチ、と白蘭はむっと頬を膨らませていたが、すぐに笑顔になると、じゃあUFOキャッチャーで我慢するよ、僕結構得意だし、と楽しそうに言い、僕の手を取ってゲームセンターの入り口へと向かった。





「わー色々あるねー♪どれに挑戦するか迷っちゃうなぁ。」

「すごいですね。」


様々なゲーム機が並ぶ店内は学校が休みの週末だからだろう、たくさんの若者で賑わっていた。人の波の中を進んで、僕達はUFOキャッチャーのコーナーの前に来た。辺りを見回していた僕の目に、ガラスケースの向こうで寄り添うように並んでいる小さな白と青のくまのぬいぐるみが映り込んだ。そのくまの頭の部分にはキーチェーンが付いていて、鞄などに付けられるタイプのようだった。白と青以外にも、たくさんの綺麗な色のくま達がガラスの向こうに並べられていたが、僕は白と青のくまに視線が吸い寄せられていた。僕と白蘭の髪と同じ色だ。そう考えてハッとする。いくらシンプルなデザインのくまだとしても、この年齢でくまのぬいぐるみはないですよね。 可愛いと思う心を抑えて慌てて目を逸らしたが、僕がくま達に視線を向けていたことに気付いたようで、他のUFOキャッチャーを物色していた白蘭が僕の隣に来た。


「骸君、何か欲しい物あった?」

「いえ、…別に、その…」

「あっ、このくま…これ、僕達の髪と同じ色じゃん!可愛い顔してるし、欲しくなっちゃったなー、僕。よし、骸君に獲ってあげるよ♪」

「いえ、僕は別に…」

「いいのいいの♪君も可愛いと思ったんでしょ?僕に任せて。」


白蘭は高級ブランドの長財布から何枚か硬貨を取り出すと、アームを動かす為のボタンを操作し始めた。別に気を遣って頂かなくて結構ですと断ろうとした僕に構わず、白蘭は僅かな金額で2つのくまを取ることに成功してしまった。僕は隣でただじっとその様子を見ていたが、本当にすごいとしか言えなかった。勉強もスポーツも完璧で、相手が喜ぶことも何でも器用にこなしてしまう。女子生徒達が王子様と騒ぐ意味が分かった気がした。 白蘭は笑顔を浮かべてくまを2つとも僕に差し出してきたが、僕は白い方のくまを彼に返した。


「…今日の、思い出になりますし、その…良かったら…持っていてくれませんか?このくま、あなたにそっくりですし。」

「うん、ありがとう!そうだ、せっかくだしさ、このくま、学校のカバンに付けない?指定のやつだからさ、このくまを付けた方が絶対可愛くなるよ♪」

「そうですね、良いかもしれません。」


白蘭と色違いとはいえ、お揃いの物を持つことに気恥ずかしさを感じない訳ではなかったのだが、一緒の物を持てる嬉しさの方が今は勝っていた。お揃いだね、と楽しそうな顔を見せる白蘭に胸が甘く締め付けられ
て、嬉しくてそれと同じくらい切なかった。





あれから対戦物のゲームをいくつかやって、満足した気分でゲームセンターを出た頃には街は夕焼けの赤に染まっていた。白蘭と並んで駅までの道をゆっくりと歩く。穏やかな時間に僕の心は確かに温かなもので満たされていた。


「骸君さー、優等生のくせにシューティングゲームも格ゲーも強いとかずるい!」

「そうは言いますが、全部あなたが勝ちましたよ?」

「そうだけど、すっごい僅差だったじゃん。僕としてはさ、すごく上手いところを君に見せて、『白蘭、格好良いです!』って君に言わせたかったの!」

「格好良かったですよ。」

「え?」

「…ですから、本当に格好良かったです。」

「……骸君って本当にずるいなぁ。」

「白蘭?」

「ううん、何でもないよ。楽しかったみたいで良かったよ。」

「はい、楽しかったです。」


僕の頭の中は、今日彼と過ごした思い出で一杯だった。勿論白蘭と2人きりで出掛けることに緊張や戸惑いを感じていた。だけどそれは最初のうちだけで、あとは楽しさに変わっていた。 今日、白蘭と一緒に過ごせて良かったと思う。交差点で信号待ちをしている時でさえ、僕の頭は今日の出来事で占められていた。だから、信号が青に変わって音楽が流れ始めても、僕は周りをよく見ることなくそのまま足を踏み出した。


「骸君!」


白蘭の叫び声が響いたと思った瞬間、僕はすっぽりと白蘭の体に包まれていた。その目の前を自動車が勢い良く走り去る。どうやら信号無視の車から助けられたようだった。自分の身に起きたことに驚いて上手く呼吸ができなかった。背後から白蘭に抱き締められている状況を理解した途端、もしかしたら車に轢かれていたかもしれない恐怖などすっかり忘れて一気に全身が熱くなった。背中越しに感じる白蘭の体温。自分とあまり変わらないと思っていたのに、僕を包んでしまうその体。香水に混じってほのかに香る彼の香り。その何もかもが僕を捕えて離さなかった。


「……ちゃんと、前を見ていなくて…すみません…でした。」

「良かった…本当に良かった。君に何かあったら、僕…」

「…っ、」


切羽詰まった低い声が耳元で響いて。僕は、もう駄目だった。


「…骸君。」


そうか、僕は分かってしまった。気付いてしまった。自分の心の変化の理由に。自分の気持ちに。白蘭への想いに。



*****
白蘭と駅の改札口で別れた後、アパート近くの最寄駅へと向かう電車に揺られながら、僕は窓に映る夕焼け空を眺めていた。あの後僕から体を離した白蘭は、泣きそうな顔で良かったと僕の手を取った。僕の無事を安堵したその表情に、僕の胸は酷く疼いて仕方がなかった。


窓の外の移り行く景色を眺めながら、僕は1つのことを確信していた。ずっと感じていたことの答えがやっと見つかった。白蘭、僕はあなたが好きです。あなたに助けられた時、今まで感じていた自分の気持ちがようやく分かったんです。


もうすぐチョイスが終わることは十分過ぎるほど分かっています。だけど僕は、チョイスが終わってもあなたと一緒に居たい。こんな馬鹿なことを言ったら、あなたは何を言ってるのかと笑うでしょうか?笑うでしょうね。それでも僕は、白蘭、あなたが好きです。


「白蘭…」


電車の窓から不意に夕焼けの綺麗な赤い光が差し込んで来た。僕はそっと瞬きをして、窓の向こう側を見た。その茜色はいつまでも優しく僕を照らし続けてくれた。僕の想いをそっと包み込むように。

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あきゅろす。
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