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甘く切ない始まりの恋
隣り合わせの恋 番外編
1話と2話の白蘭視点です




君を見た瞬間、僕は自分が恋に落ちる音を聞いたんだ。


それはいつまでも、僕の中に甘い疼きと一緒に響いていて。



僕の心を掴んで離さない。



*****
僕は仕事場へと続く駅の裏道をのんびりと歩いていた。この道を通ると僕の働くホストクラブへの近道になるんだよね。今日は夕焼けが綺麗だなぁなんて思っていると、カツンと何かが僕の靴の先に当たった。


「あれ?これ…定期券?」


僕は踏んでしまわなくて良かったと、その定期券を拾い上げた。きっと誰かの落とし物だよね…その時、5メートルほど先を歩いている青年の姿が僕の目に入った。もしかしたら、彼が落としたのかもしれないよね。声だけでも掛けてみようかな。


僕は少し先を歩く彼に近付いた。わぁ、綺麗な髪だ…思わず触りたくなっちゃうかも。首の後ろで纏められた艶やかな藍色の髪が、夕日に照らされて僕には輝いているみたいに見えた。いけない、定期券のこと聞かなくちゃと、僕は彼に声を掛けてみた。


「ねぇ、君さぁ、この定期券落としたんじゃない?」


僕の声に振り返った彼を見て、僕は一瞬で彼に心を奪われていた。涼やかな瞳にすっきりとした鼻梁、形の良い唇、白い肌。彼の何もかもが僕を惹き付けていた。


…駄目だ。彼から目が離せない。これって一目惚れだよね。僕が胸を熱くしていることになんて気付くはずもなく、彼は慌てたようにジャケットのポケットを探っている。出会ったばかりなのに、そんな姿が可愛いなぁなんて感じてしまっていた。


このまま彼に定期券を渡してさよならなんて嫌だ。何か彼の…僕は手に持っていた定期券に目を落とす。そこには所有者である彼の名前がしっかりと刻まれていた。


「六道…骸君かぁ。」

「ねぇねぇ、骸君!僕、君に一目惚れしちゃったみたい。君、僕のタイプなんだよね〜。すっごい美人さんだし。ねぇ、僕の恋人にならない?」


気付いたら僕は、思い切り骸君を口説いていた。どうしてもこのまま終わらせたくないっていう思いが僕の口を動かしちゃったんだろう。


骸君は何を言ってるんだって目で僕を見ていた。確かにそうだよね…これじゃあまるで僕、不審者だよ。自分の気持ちが抑えられないなんて…僕、本当に君のことを好きになったみたいだ。


骸君に不審がられたままなのは嫌だったので、ニコリと笑顔を作って自己紹介をした。彼は、僕のうっかり勢いでしちゃった告白に自分は男だから…と答えてきた。僕には性別なんて関係ない。骸君、「君」を好きになったんだ。だからもっと君のことが知りたいよ…


僕は骸君ともっと話していたかった。だけど彼は、僕の言葉を遮るように定期券を取ると走り出した。骸君が僕の手から定期券を取り上げた時、彼の指先がほんの一瞬だけ触れた。


たったそれだけのことなのに、僕は心臓を掴まれたみたいにドキドキしちゃって、骸君を追うのが遅れてしまった。その間にも彼はどんどん遠くなっていく。本当は追いかけてその腕を掴みたかった。だけど仕事に遅れてしまう訳にもいかない。骸君がこの道を利用しているなら、またすぐに会えるはずだし。それに強引なことをして彼に嫌われたくない。僕はそんな風に考えて、通りを曲がって消えていく骸君に、友達からでも構わないからと最後に声を掛けた。



******
骸君に会ってからもう1週間になる。



僕は簡単に考えていた。骸君にまたすぐに会えるって。でも実際は、あの日を最後に骸君の姿を見てはいなかった。


僕は骸君に会った次の日から仕事に行く時間を少し早くして、あの日と同じ時間に通い慣れた道に向かった。彼に会える期待に胸を膨らませながら。もし骸君と行き違いになったらどうしようって思って、通りを行ったり来たりしてみちゃって。僕、本当にいっぱいっぱいかも。


そんなことを続けてみても、骸君にもう1度会えることはなかった。



*****
さらに1週間が過ぎても、骸君に会うことはなかった。



何であの時、形振り構わず骸君を追いかけなかったんだろう。僕の馬鹿!僕は激しい後悔に襲われて今にも胸が張り裂けてしまいそうだった。考えるのは骸君のことばかり。


骸君のことを忘れられない気持ちが顔に表れていたのかな?僕は仕事仲間に何か悩んでいるなら相談に乗ると言われてしまった。皆に心配掛けちゃったんだ。仕事には誇りがあるから、気を付けてたつもりだったんだけど。


僕、そんなに酷い顔してるのかな…昔から気持ちを隠す演技は得意なのに。骸君のことになると、僕は自分を上手くコントロールできないみたいだよ。





いつものように仕事も終わって僕は、自分の部屋に帰って来た。着替えもそこそこにベッドにごろんと寝転がる。目を閉じると、骸君の顔が浮かんで消えた。困惑したような、驚いたような彼の顔。


僕は結局、彼のそんな顔しか見ることができなかった。叶うなら骸君の笑った顔が見てみたい。僕の隣で笑う君が見たいんだ。目を開けて、右手を目の前に翳してみた。あの日、骸君の指先がこの手に触れた。今でもその時の温もりを鮮明に思い出せるのに…


骸君、君に会いたいよ。


*****
僕はもう、骸君に会えないんじゃないかと弱気な気持ちになりそうになっていた。そんな風に落ち込みそうになっていた僕に、心の中でもう1人の僕がこのままじゃいけないよと、声を掛けてきた。そうだよね。諦めちゃいけない。また骸君に会えるっていう望みは持ち続けなきゃ!僕はポジティブが取り柄だもんね。きっとまた僕は、君に会えるよね。





骸君と出会って半月以上が経ち、彼に会うことを諦めないでいた僕はある日、仕事終わりにオーナーに呼ばれた。この春新しくお店に入った子達が地方から上京してきているから、お店の寮に住まわせてあげたいらしくて、僕に寮を出て新しい部屋に移って欲しいということだった。勿論良い部屋を紹介するとも言われた。


僕はオーナーにはとってもお世話になっているから二つ返事で了承した。だけど、部屋探しは自分ですることを伝えた。自分でも馬鹿みたいだとは思ったけど、新しく住む所を探していて、どこかで骸君に会えないかなぁなんていう考えが頭をよぎったんだ。


オーナーの部屋を出る時に、悩みを1つ乗り越えたみたいだなって言われた。オーナーには分かっちゃうのかな。まだ骸君に会えた訳じゃないけど、前向きな気持ちでいられるようになった。



新しい部屋で心機一転して、また骸君探し頑張っちゃおうかなと、僕は心に決めた。



*****
高機能、駅への利便性、周囲の環境。住む所を探していると、良い条件の部屋がたくさんあって目移りしそうになるよね。オーナーの紹介で家賃を安くしてもらえる所もあったし。


僕は駅や仕事場の近くを中心に、様々な部屋を見て回っていた。何部屋かお気に入りも見つけて満足しながら、僕は夕暮れの住宅街を歩いていた。



「あれ?この匂い、水仙の花だ…」


風に乗ってすぐ近くから、水仙の瑞々しい香りがした。僕は幼い頃から花を見たり、育てるのが好きだから水仙を見て帰ろうと辺りを見回した。そしてあるアパートの花壇に釘付けになってしまった。


「すごく綺麗…。水仙に、あ、フリージアもたくさん咲いてる。」


僕は目の前で咲き誇る様々な色に目を輝かせた。僕から見てもなかなか手の込んだ造りの花壇で、たくさんの種類の花がたおやかに風に揺れていた。その姿は一瞬だけ骸君に重なって見えた。


「…ここに、しようかな。」


さっきまで考えていた部屋のことなんかどこかに行っちゃて、僕はこのアパートに住もうかなと考えていた。この花壇に魅せられてしまった所も大きい。それに水仙の花言葉って「私のもとへ帰ってきて」なんだよね。まるで、骸君に自分の所に今度こそ戻ってきて欲しいって思ってる僕と同じだ。何だか励ましてもらえそうだよ。


「うん、ここに決めた。大家さんに花壇のお世話できるか聞いてみなくちゃ。」



部屋探しをしてて、やっぱり骸君に会う偶然はなかったけど、このアパートを見つけられたのは良かったかもね。僕はちょっと楽しみが増えたことに笑顔になった。



*****
それほどたくさんの荷物がある訳じゃないから、僕の引っ越しは案外楽だった。新しいアパートに荷物も運び入れたから、僕はお隣りさんに挨拶に行くことにした。


最近はアパートやマンションに住んでいても、隣人との交流が殆どないというのが一般的だ。僕も最低限の付き合いしかしたくないと思う所がある。だけど、何かあった時に助け合うのはやっぱりお隣りさんな訳だから、ここは挨拶しておかないとね。


今日は休日だから居るといいけどと思いながら、僕は隣の部屋のドアをノックした。


「すいませ〜ん、隣に引っ越して来た者ですが。」


チェーンが外されて出て来た人物を見て、僕は息が止まりそうになった。骸君!骸君が僕の目の前に居る!僕、夢見てるとかじゃないよね?諦めないようにしてたけど、まさか本当にまた会えるなんて…骸君も口をポカンと開けて、驚いたように僕を見ていた。


「え、む、骸君!?本物…だよね?わ〜、骸君にまた会えたっ。しかもこれからはお隣りさん!?僕もう幸せ過ぎてどうしよう。」


こうでも言わないと、自分を抑えていられそうになかった。骸君を抱き締めてしまいそうになったから。


骸君に引っ越しの理由を尋ねられて寮の状況を話したけど、腑に落ちない様子だったから、僕はこのアパートの花壇に心惹かれたことを告げた。僕の話を聞いて骸君は何かに驚いているみたいだった。僕が花が好きなの、意外だったのかな?でも僕は骸君のことを知りたいし、僕のこともこれから色々知って欲しいと思ってるんだよ。


僕は骸君にこれからよろしくと言われて、舞い上がりそうになった。僕って本当に単純。彼の言葉に僕も微笑んで、握手をしたくなって手を差し出した。嫌がられるかなとも思ったけど、骸君はそっと僕の手を握り返してくれた。


彼の優しい温もりが手の平から僕の心にふわりと伝わって、僕はちょっとだけ泣きそうになっちゃったんだ。骸君とまた会えたことが、こんなにも僕を満たしてくれていることを実感できたから。




僕は挨拶も一通り終わったし、頃合いかなと思って、骸君と話していて気になってた寝癖のことを指摘してみた。彼はすごくあたふたしてたけど、別に可愛いのになぁ。こんな風にこれから色々な骸君を見ていけるんだと思うと、本当にこのアパートを選んで良かったと思えた。運命の女神様は僕を見捨てなかったってことかな…


僕は骸君の髪を整えてあげたくて、大切に彼の髪に触った。あの日、夕日に輝いていた綺麗な髪が僕の手の中にあった。骸君は黙って僕のされるままになっていたけど、突然眠いからと言って部屋に戻ってしまった。


僕はびっくりしちゃったけど、骸君がドアを閉める瞬間、俯いていて顔は良く見えなかったんだけど、耳が赤くなっているのが見えたんだ。もしかして、僕のこと…意識してくれた?


僕の見間違えだったのかもしれないけど、嬉しくて嬉しくて胸が締め付けられた。



*****
僕は骸君のことが好きだから、これからもずっと一緒に居たいと思う。いつかもう1度、きちんと彼に自分の気持ちを伝えたいとも思ってる。


だけど骸君を大切にしたい気持ちも大きいんだ。気持ちを伝えることを焦って、彼に強引なことはしたくない。彼を困らせたり怖がらせたくもないし、ましてや絶対に傷付けたくない。だから今は、彼と一緒に楽しく過ごせればそれだけでいいんだ。


でもその時が来たら、僕の気持ちを彼に聞いてもらいたい。


覚悟しててね、骸君。絶対君に好きになってもらうから。


そうだ、今度僕の仕事がお休みの時に、花壇の土いじりでも誘っちゃおうかな。骸君も花が好きだといいな。


僕は部屋に戻った骸君を見送った後、そんなことを考えてそっと笑った。





END






あとがき
まずはここまで読んで下さりありがとうございます^^


このお話は拍手で、1・2話辺りの白蘭視点のお話が読みたいというリクエストを頂いて書かせてもらったものです。少しでも気に入って頂けたら嬉しいです!


白蘭が骸のアパートに引っ越して来るまでの謎の空白期間をざっくりお届けしました(^O^)白蘭があまりにも骸に会えないので、とうとう駅に張り込ませようかとも一瞬だけ考えましたが(笑)、それだとただの危ない人ですよね(^^;)


白骸は離れていてもちゃんとまた巡り会う運命ですもんね←残念な頭ですみません。


私は好きな人のことで色々悩んだり、考えたりするシチュが好きなので、白蘭には骸に会えない期間を頑張ってもらいました。


あと1話、白蘭視点のリクエストを頂いておりますので、興味がありましたら、またご覧になって頂けると嬉しいです♪

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