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学園の王子様と優等生 5
PLAYER:骸




保健室のドアを開けたら、ここに居るなどとは全く思ってもみなかった白蘭がどこかの国の王子のように優雅に脚を組み、僕にひらひらと軽い調子で手を振っていた。嫌な予感がする。もしかしなくても、彼は僕の手当てをする気ではないでしょうか。


「大丈夫♪優しくするよ。」

「……」


白蘭は僕の目の前で楽しそうに湿布を取り出し始めている。あぁ、やはりそうだ。僕の予感は見事に的中することになった。


どこをどう見ても白蘭はどこか怪我をしていたり、気分が悪そうにも見えなかったので、何故ここに居るのかと尋ねてみたが、曖昧にはぐらかすだけだった。そして白蘭は湿布と包帯を手に取ると、手当てをすると言い出した訳だ。それくらい自分でできます。それに他人に不用意に触られることは、苦手だからやめて欲しい。だから自分でできるから大丈夫だと言っても、白蘭は頑として譲ろうとはしなかった。僕は頑固な方ですけど、あなたも大概ですね。


「遠慮することないって。ずっと言ってるけど、君は今は僕の恋人なの。恋人の怪我は手当てしたいって思うのが普通でしょ?」


恋人。白蘭のその言葉が何故か僕の心に引っ掛かった。あなたは今までもこんな風に『恋人』に優しくしてきたのでしょうね。僕に手当てをするのも、ゲームをより楽しむ為のイベントの1つなんでしょうし。そう考えたら、何だか意地を張るのも馬鹿らしくなってしまって、僕は白蘭に手当てを任せることにした。


昔のあまり思い出したくないことのせいで、僕は他人と距離を取るようにしている。普段の生活では問題ないが、不用意な他人の温もりは嫌いだ。なのに。そうであるはずなのに。優しい手つきで包帯を巻いていく白蘭の手の温もりは何故か嫌ではなかった。むしろ心地良いかもしれないなどと思ってしまった。初めて彼に手を握られた時は、強く振り払ってしまったというのに。白蘭の手の温もりに安心してしまっている自分に酷く驚いた。どうして僕はこんなにも。


「はい、終わりー♪」


手当てが終わり、白蘭が包帯はきつくないかと尋ねてきた。一応ここは彼にお礼を言った方が良いですよね。そう判断して僕は彼に頭を下げた。


「大丈夫です。…まぁ、その…一応…ありがとう、ございます。」


自分でも驚くくらい小さくて上擦った声が出た。白蘭の顔も何故かちゃんと見ることができず、下を向いたままになってしまった。何をやっているのだろう、しっかりするんです、僕。


「どういたしまして。」


白蘭は嬉しそうな顔で、気にしなくていいよと笑顔を向けた。それは僕に向けたものなのか、『恋人』に向けたものなのか、どちらなのだろう。そんな考えが一瞬浮かんで、そしてすぐに消えた。


「…僕、」


これ以上この場所に彼と2人きりなのはいけないと思った。それだけでなく、早く授業に戻って怪我の具合を報告しなければと、我に返った僕は保健室を出ようとした。だがそれは白蘭に腕を掴まれてできなかった。


「白蘭…?」


白蘭はゆっくりと僕の腕に顔を近付けると、自分でも気付いていなかった肘にできていた小さなかすり傷を舐めたのだ。ピリリとした小さな痛みと白蘭の舌の熱さを嫌というほどに感じた。何をやってるのだと怒る僕に、目の前の男はしれっと消毒だと言ってきた。白蘭、あなた本当に馬鹿以外の何者でもありませんよ!僕は白蘭を残したまま勢い良くドアを開けて、保健室を出た。まだ足首が痛むので、ゆっくりとしか廊下を進むことができなかった。


「白…蘭…」


僕は先ほど白蘭に舐められた肘をそっと見た。まだそこには白蘭の舌の感覚が残っていて、まるで熱を持っているように熱く感じた。一瞬足首の痛みさえ忘れるほどの。傷を舐めていた時の妖艶な白蘭の顔が不意に僕の頭に浮かんで、顔が熱くなるのが分かった。自分で自分が上手くコントロールできなくなっている。僕がこんなに動揺してしまうのも全部あなたのせいです。どうしてくれるんですか、白蘭!そう面と向かって白蘭に言ってしまいたかったが、当然そんなことなどできるはずもなく、僕は心の中でただ叫ぶしかなかった。

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