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学園の王子様と優等生 4
PLAYER:白蘭




あ〜あ、退屈だなぁ。僕は机の上に無造作に置かれた数学の教科書をパラパラと捲った。皆あんな必死に黒板見ちゃって大変だね。僕は一度読めば、内容なんかすぐに頭に入っちゃうんだけどな。


「…つまんないなぁ。」


僕の斜め前や隣の席で、難しい顔をしながら一緒懸命ノートに数式を書き込んでいる子達を一瞥する。教科書をさらりと読んだだけで、内容は簡単に理解できちゃうし、特に勉強しなくても全国模試ではトップクラスの成績が取れるんだよね、僕。だから学校の授業は本当に退屈。ううん、普段の生活だって変化がなくて僕には物足りない。だからなのかな、チョイスみたいなことしたくなっちゃうのは。


「あー、退屈。」


授業に飽きた僕は、頬杖をついて窓の外を見た。僕の席は窓際の一番後ろだったから、空がよく見えた。青空を背景に白い雲がゆっくりと流れていく。そのまま何気なく視線を下に向けた時、綺麗な藍色が僕の目に映った。


「あ…」


骸君だ。遠くからでも分かるほど、彼の髪は陽の光を浴びてキラキラ光っているように見えた。どうやら彼は体育の授業中のようで、学校指定の体操服姿で、サッカーボールを追い掛けていた。僕は黒板に視線を戻すことなく、骸君の姿を目で追い続けた。退屈な授業なんかより彼を見てる方がずっといいからね。あっ、骸君上手いじゃん。そのままゴール決めちゃえ。骸君は相手から素早くボールを奪って颯爽と駆けて行く。だけどその時、ディフェンスの子がスライディングでボールをカットしようと骸君に向かい、バランスを崩した骸君はその子を巻き込んで派手に転倒した。教室から眺めている僕も、思わず顔をしかめちゃうくらい派手に転んで痛そうだった。うずくまっている骸君の様子をそっと窺う。どうやら足首を痛めたみたいで、簡単には立てないみたいだった。


「ここは彼氏の出番だね♪」


僕は教室に視線を戻すと静かに手を挙げ、気分が悪いので保健室に行きますと告げて教室を出た。そのまま階段を駆け降りて足早に保健室へと向かう。僕は今は仮にも骸君の『恋人』なんだ。恋人が怪我しちゃったら心配で見に行くのは当然だよね。



*****
保健室のドアを開けると、室内には誰も居なくて骸君はまだ来ていないようだった。彼が来るまで適当にベッドにでも寝転んでいようかなぁと思った僕は、養護の先生も居ないことに気付いた。普段先生が使っている机の上に1枚の紙を見つけ、僕はそれを手に取ると目を走らせた。 先生はどうやら用事で外出しているようで、気分の悪い生徒は自由にベッドを使っていいし、怪我をして手当てが必要な場合は、他の教師に頼むように書かれていた。ということは、僕が骸君の手当てしてあげられるってことだよね。ちょっと嬉しいかも。チョイス中は相手の為に色々としてあげるって決めてるからね。


それから少しして、ドアが開いて骸君が現れた。普段先生が座っているはずの椅子に腰掛けている僕を見ると、彼はとても驚いた顔をしていた。僕がここに居るのがそんなに意外だったかな?それにしても驚いた君の顔、結構可愛いじゃないか。


「やっほー、骸クン♪」

「白、蘭…どうしてあなたがここに?」

「ふふ、それは秘密だよ。」


さぁ座って座って。僕は骸君に生徒用の椅子に座るように促すと、すぐ側にあるキャビネットから湿布や包帯なんかを取り出した。


「骸君、手当てするから足首見せて。」

「なっ…結構です!それくらい自分でできますから大丈夫です。」

「遠慮することないって。ずっと言ってるけど、君は今は僕の恋人なの。恋人の怪我は手当てしたいって思うのが普通でしょ?」


僕がニコリと微笑むと、骸君は分かりました、と降参したように小さく呟いて、右足を台の上に乗せた。僕は骸君に近付いて足首の様子を確かめる。良かった。思ったほど腫れてない。これなら湿布を2、3日貼ってれば治っちゃうな。僕は骸君の足首に湿布を貼り、その上からそっと包帯を巻いた。骸君はその間もずっと黙ったままだった。できたよ、僕はそう告げようと顔を上げて、そのまま息を飲んだ。


「…っ、」


骸君の顔が僕のすぐ近くにあった。伏せられた瞳。影ができるほど長い睫毛。絹のように細い髪。その全てに目を奪われていた。骸君とはチョイスを始めて一緒に居ることが多くなったけど、こんなに間近に彼の顔を見たことはなかった。


―― 守ってあげたい。


あれ?今、僕、何を考えた?不意に浮かんできた気持ちに僕は戸惑った。いや、だけど今は深く考えるのはやめよう。骸君の怪我の方が大事なんだし。


「できたよ。包帯きつくない?」

「大丈夫です。…まぁ、その…一応…ありがとう、ございます。」


下を向いたまま骸君が恥ずかしそうに呟いた。それから骸君は急いで立ち上がってそのまま帰ろうとした。まだもう少しここにいなよと声を掛けようとして、骸君の肘にかすり傷を見つけた僕は彼の腕を引っ張ると、顔を近付けて小さなその傷に舌を這わせた。


「あぅ、ちょっ、何…して…!?」

「…いやぁ、しょーどく?」

「何の為に消毒液があると思ってるんです!あなた馬鹿じゃないですか。生徒会長のくせに。」


骸君は僕の手を勢い良く振りほどいて踵を返すと、今度こそ保健室を出て行ってしまった。真っ赤な顔が、その姿が、すごくいじらしくて。


「骸君…」


この時から、少しずつ僕の中で骸君の存在が大きくなっていたことに、僕はまだ気付いてはいなかった。

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