学園の王子様と優等生 3
PLAYER:骸
「……」
一体何がどうしてこうなったのでしょう?ここ最近そんなことばかり考えてしまっていると思いながら、僕はベンチの隣に座ってイチゴ生クリームクレープを美味しそうな顔で頬張る白蘭をそっと見た。そして自分の手に握られているチョコバナナクレープに視線を移した。ああ、そうでした。答えなど分かりきっている。僕は今、白蘭と付き合っているんでした。
今日は街の図書館で課題でもしようと、僕は鞄に教科書を詰め込むと放課後になって教室を出た。下校する生徒達で賑わう廊下を出た瞬間、僕の背後から昨日耳にしたばかりの声が高く響いた。
「む・く・ろ・く・ん♪どこ行くの?…今日は僕とデートでしょ。」
「そんな約束、僕は知りません。僕、今日は図書館に行く…「君は今は僕の『恋人』なんだから、デートの方が大事だよ!」
僕の話などまるで聞く耳持たずな態度で、白蘭は僕の腕を掴むと弾む足取りで廊下を歩いて行く。
「ちょっと、白蘭…離して下さい。皆が見ています!」
「皆、僕の次の相手が君って知ってるんだから、別に変に思わないよ。それにこれは『恋愛ごっこ』なんだから、骸君も本気にならなくていいんだよ。」
僕も本気じゃないし〜。楽しければいいじゃん。さぁ行こう。ほらほら。何とも楽しそうに呟いて、白蘭は階段を降りて早足で進んだ。
「……分かりました。付き合います。」
今日はもう図書館に行くことは諦めるしかなさそうだ。こんなに強引な彼に女子生徒達の多くがときめいているのかと思うと、僕には何とも不思議な気分だった。 溜め息を零しながら学校を出ると、白蘭は駅とは正反対の道を歩いた。どこへ向かうのかは分からなかったが、僕も遅れないように彼について行った。
「あの…白蘭、一体どこに?」
「それは着いてからのお楽しみー♪」
白蘭は僕の方を向いてにっこりと笑うと、そのまま住宅街をのんびりと進む。まぁ、彼の好きにさせておきますか。今日は駄目になってしまったが図書館以外に別に行きたい場所もなかったので僕も黙って歩くことにした。
住宅街を大分進んだ所で、木々に囲まれた公園が僕の目に映った。白蘭は僕に、ここだよと楽しそうに両手を広げると公園の中に入っていった。
「思ったより広いんですね。あ、あそこに噴水もありますね。」
「…実はね、ここに午後になると美味しいクレープ屋さんの車が来るんだよ。だから、今日は公園デートってことで、一緒にクレープ食べよう。」
白蘭の言葉の通り、噴水から少し離れた木陰に何やら人が集まっており、よく見ればその中心にクレープのイラストが描かれたワンボックスカーが停まっていた。僕は白蘭に促されるままにチョコバナナクレープを注文し、彼と一緒に近くのベンチに腰掛けたのだった。
「骸君、さっきからぼーっとしてるけど。」
「あ、別に…何でもありません。」
今ここで白蘭と一緒にクレープを食べることになった経緯を思い出していた僕は何でもないと首を振ってクレープに視線を落とした。白蘭は相変わらず僕の隣で満足そうにクレープを頬張っていたが、食べる手を止めると僕をそっと見つめた。
「ねぇ、骸君。」
遊具から離れたベンチに座っていたので、僕達の周りは時折吹く風に揺れる木々の囁き以外に音もなく静かだった。気付けば陽射しも和らぎ、段々夕暮れが近付いていた。
「このクレープ美味しいよね?僕のオススメだから、多分骸君も気に入ってくれてると思うんだけど。」
「…そうですね、美味しいです。」
クレープを手に持ったまま僕は白蘭に頷いた。先ほどまではどうしてこんなことになったのかと思っていたけれど、美味しいクレープを食べて少し心が軽くなっていた。甘い物が好きな僕としては、学校帰りにデザートを食べられる場所を新しくを見つけられて気分が良かった。今度1人で寄ってみても良いかもしれない。それにしても、こんな風に誰かと学校帰りにクレープを食べる日が来るなんて、今まで考えたこともありませんでした。僕は食べかけのクレープをじっと見た。僕がそのまま食べることをやめてしまったからか、白蘭が、本当にさっきからどうしたの?と心配そうに声を掛けてきた。
「ですから、何でも…ありませんよ。」
「せっかく美味しいのに、食べないなら僕が食べちゃうよ。」
白蘭は弾んだ声で囁くと、僕の手を掴んだまま体を近付けて、僕のクレープをぱくりと食べた。思った以上に白蘭が近くて。彼の柔らかな髪が僕の頬に触れて。僕の手を掴んでいる彼の手が男らしくて。僕は自分でも訳が分からないままに体が熱くなるのを感じた。
「……っ、」
どうしてこんなに動揺しているのでしょう。とにかく今すぐ白蘭から離れなければ。僕は白蘭を見ないようにしながら慌ててベンチから立ち上がった。
「…白蘭、このクレープはあなたにあげますから!」
「え?…あ、うん。」
「それから僕、用事を思い出したので、今日はこれで…!」
「えーっ?もう帰っちゃうの?残念だけど、用事なら仕方ないかぁ。…うん、今日は楽しかったからいいよ。」
少しだけ不満げな声が俯く僕の耳に届いたが、今は構ってなどいられなかった。そんな余裕などなかった。
「…すみません。それでは。」
僕が白蘭に背を向けると、彼はあ、そうだ、とどこか楽しそうな声を出した。
「さっき僕、骸君のクレープ食べたじゃん。あれって一応間接キスになるよね♪」
「……」
楽しそうな声が僕の背中越しに聞こえた。これは僕がどう反応するか楽しんでいるに違いない。彼は僕のことをからかっているのだ。白蘭の挑発に乗るものかと、僕は彼の方を振り返ることなく、ただ真っすぐに公園の入り口へと歩いた。
「骸君、まったねー♪」
そんな僕の後ろから続いてまったりとした白蘭の声が響いた。僕はこれから1ヶ月間もこんな風に彼に振り回されるのでしょうか。本当に今さらながら、僕は白蘭の申し出を受け入れたことを酷く後悔したのだった。
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