[携帯モード] [URL送信]
傍らの温もりと共に在る幸せ
キーノ様から頂いた60000HIT記念リクエストで「仕事で忙しい白蘭とクリスマスを過ごせないことに内心で寂しいと思うのに骸は変に気を遣って自分も用事があると嘘を吐くけれど、最後には白蘭と一緒に甘い時間を過ごす」お話です




恋人がその立場上、いつも仕事で忙しいことを骸は理解していた。幾つかのファミリーを束ねる大ファミリーのボスなのだ。同盟ファミリーの幹部達との折衝や交渉の為の出張、財界や政界など各界の著名人達とのパーティーや会合、勿論執務室に籠っての日々の書類仕事もある。彼が抱える仕事は多分骸の想像以上の量なのだろう。そうであるから、いつも彼は仕事に追われていた。


それでも恋人はできる限り骸のことを一番に考えようとしていた。勿論それが叶うことはそう多くはなかったが、その誠実な気持ちを自分に向けてくれるだけでいいと思っていた。それでいいのだと。





「骸君、本当にごめん!今日も遅くなりそうなんだ…この埋め合わせは絶対にするから!約束するよ、だから…」


白蘭は今日も忙しかった。骸がまだベッドの中で微睡んでいる隣で名残惜しそうな顔をしながらも手早くスーツに着替えて私室を出て行き、昼頃になって慌ただしく帰って来たと思ったら、夜になってこれからまたどこかに出掛けるようだった。こんなに忙しくて倒れやしないかと心配になる。読んでいた本を閉じて無理をしていないかと尋ねてみれば、彼は大丈夫だよ、ありがとうとにこやかな笑みを浮かべて骸の頬を撫でた。けれどもその手を力なく落とし、苦しそうに眉を寄せて悲しみの表情になると、先ほどの言葉を口にしたのだ。恋人達の為の聖なる夜を一緒に過ごすことができないのだと。


「そうですか…」


骸は理解していた。白蘭はその立場上、仕事で忙しい日々を送っていることを。そしてそれはこれからも変わらないことを。けれども彼は真っすぐな愛情を自分い向けてくれることも理解していた。理解してはいたが、本当は堪らなく心が寂しくなる時があった。頭ではちゃんと分かっているはずなのに、感情がついてきてくれなかった。イブの日の今日くらいは遅くまで仕事はしないで欲しい。少しでいいから一緒に過ごして欲しい。そう思わないはずがない。彼のことが大切なのだから。この気持ちを今ここでそのまま伝えてしまいたいと思うのに、白蘭に対して決してそのようなことは言えるはずもなかった。聞き分けのない子だねと彼に呆れられたくなかった。自分勝手なことを言う人間だと思われたくなかった。そして何よりも彼に困った顔などさせたくはなかった。だから。


「大丈夫ですよ。別に謝ることではありません。……実は、僕も仕事が入ってしまったので。考えてもみて下さい、僕もあなたもいい歳した大人なのですから、クリスマスイブ程度のことでいちいち騒ぐこともありません。」


骸は白蘭に気にしなくて構いませんよと柔らかな笑顔を向けた。作り笑いは得意だった。白蘭が愛用している執務机の上に置かれたデジタル時計の画面に12月24日の日付けが刻まれているのがどこか遠くの出来事のように感じられて、胸が塞がれた。ゆっくりと時計から目を逸らした骸の視線の先、高層タワーのガラス窓の向こうには煌めく夜景が見えた。まるで宝石箱から溢れ出た宝石のように色とりどりの輝きを放つその光景が今はただ無性に悲しかった。


「僕もやり残した仕事がありますから、着替えて戻りますね…」


声を掛けられる前にと骸は白蘭に背を向けてその場から立ち去った。無理だった。これ以上白蘭と言葉を交わし続けていたら、みっともなく彼に縋り付いてしまいそうだった。





白蘭の執務室を出た骸は頼りない足取りで夜の街を歩いていた。あてもなくぼんやりと歩き続けるように見えて、骸はとある場所を目指していた。


「本当は、一緒に見たかったのですがね。」


街の広場を彩る全長8mほどの大きくて立派なクリスマスツリー。青と白のイルミネーションで綺麗に飾られたそのツリーは目を奪われるほどの美しさだった。目的の場所に辿り着いて歩みを止めた骸は、自分の心の中にあった願いを思わず口にしていた。


「白蘭、あなたと見たかった。」


骸の周囲は若い恋人達や家族連れの親子で溢れ、ツリーが放つ荘厳な輝きに皆うっとりと目を細めている。気付けば、骸だけが、ひとりだった。まるでこの世界から自分だけが見捨てられてしまったかのように。ああどうして今この瞬間、彼は隣で微笑んでいないのだろう。どうして寄り添っていてくれないのだろう。キラキラと輝く光が静かに降り注いでも、やはり白蘭と一緒でなければ本当に心から綺麗だとは思えなかった。コートを着ているというのに纏わりつく寒さに耐えられそうになかった。独りが心細くて堪らなかった。


「骸君!」


耳に届いた声が骸を孤独の世界から一気に現実へと引き戻した。一瞬何が起きたのか理解できなくて、嘘ではないと信じられなくて、骸は瞬きを繰り返したが、振り返った先に立っていた白蘭は紛れもない本物の彼だった。幻などではない骸の大切な人が微笑んでいた。


「白蘭…!?」

「良かった、やっぱりここだった!」


白蘭は肩で息をしながら骸の前まで来ると、見つかって良かったと安堵の表情を見せた。浅い呼吸を繰り返している恋人の姿に骸は目を瞠る。まさかとは思うが、彼はあれから仕事を放り出し、自分を探して冬の街を走り回っていたのだろうか。白蘭が着ている黒いロングコートの下は仕事用の白いスーツのままだった。骸は自分の考えが正しいことが分かって、酷く胸が締め付けられる思いだった。


「…何やってるんですか。」

「何、って君を捜してたんだよ。」

「あなた、まだ仕事が…」

「そんなの放り出してきたよ。確認したらさ、別に僕が処理しなくても部下の子達に任せてもいい案件だったみたいだし。だから後はよろしくってことで、僕は骸君を……やっぱり今日は君と過ごしたいに決まってるじゃないか。今日はイブなんだよ?」

「……」


だから骸君もここに来たんじゃないの?そうだよね?白蘭の問い掛けに骸は黙ったままだった。


「骸君…」


大切で愛しい人を目の前にすれば、もう駄目だった。溢れ出す気持ちを抑えることなど。骸の唇から震えるような吐息が零れ落ちた。


「……あなたの、言う通りです。僕は今日、あなたと過ごしたかった。だから、心の中であなたには仕事をして欲しくないとさえ思った。…僕は、女々しくて弱い男です。」

「いいや、それは違うよ、骸君。君は弱くもないし、女々しくもない。君は愛されることを知って欲張りになっちゃっただけ。でもそれはさ、決して悪いことじゃないよ。僕、嬉しいな♪君がそんな風に思ってくれて、本当に嬉しい。」

「白蘭…」

「君から求められるなんてさ、悪い気はしないよ。君だから、たまんない!」


白蘭は自身の言葉の通り、蕩けるように甘い幸せな顔をしていた。恋人の真っすぐな想いは骸をどこまでも幸せで満たしてくれた。彼に愛されることはこんなにも幸福なのだと思わずにはいられなかった。


「骸君は我慢し過ぎなんだよ。もっと僕に甘えなよ。ね?」

「…そのようなことは僕の柄では…ありませんが、甘えてもいいと言うのでしたら……明日はあなたにはいつもより早く仕事を終わらせて頂いて、一緒にケーキを食べたいです。」

「うん!とびっきり美味しいチョコケーキ買って来るからね♪」


約束するよ、明日はたくさん可愛がってあげるねと大きく頷いた白蘭から愛しさを込めるようにぎゅうっと両手を握られた。そのまま優しい手つきで撫でられたが、骸は白蘭の藤色の瞳が僅かに曇ったように見えた。


「白蘭…?」

「…こんなに冷たくなってたんだね。本当にごめんね、骸君。寂しい思いをさせちゃったね。」

「もう平気ですよ。あなたはここに来てくれたのですから。」

「骸君、僕はこれからもずっと君だけを愛するよ。僕の愛を信じ続けて欲しい。僕には君だけなんだ。」


白蘭は骸の右手を恭しく持ち上げて唇を寄せると、そのまま手の甲にキスをした。


「ん、白…蘭…」


突然の甘い痺れに初めのうちは周囲の視線を気にした骸であったが、周りの者達は皆、目の前の輝く光の世界に夢中になっており、骸達に関心を示す者は存在しなかった。だからもう周囲のことなど気になりはしなかった。骸も白蘭が全てだった。そっと唇を離した白蘭と視線が交錯する。ツリーを彩る青と白の光が白蘭の両の瞳に反射して、それは言葉にならないくらいに綺麗だった。


「Auguri di buon Natale! Ti auguro tanta felicita.」

「Sono felice.」






END






あとがき
素敵なリクエストを頂いたのですが、乙女骸になってしまって申し訳ないです…。切なさと甘さの入ったお話を頑張って書こうとすると通常運転で骸が乙女思考になってしまいます^^;それでもお互いのことを大切で愛おしいと思っている2人の可愛さが伝わっているといいなと思いますv


2人で手を繋いでツリーを眺めて楽しむんだろうなーと思うのですが、その時に白蘭は骸にこっそり耳打ちします。骸君、君ってやっぱり嘘吐くの下手だよねー。だって仕事が入ったって僕に嘘吐いた時さ、本当はあなたと一緒がいいんです!ってオーラ全開だったよ♪だだ漏れだったから♪白蘭、あなた最初から僕の嘘に気付いて…?うん!では何故あの時、僕を引き留めてくれなかったんです?そうすればこんなことには…。まぁうん、それはそうなんだけね、骸君が僕とイブを過ごせないと思って、僕のことばっかり考えて寂しくなってる時にだよ、僕がカッコよく現れたらどう?すっごく燃え上がるじゃん?実際僕にきゅんとしたんじゃない?……今すぐ手を離しなさい。あ、骸君ったら照れないでよ♪みたいなやり取りがあったりしたら萌えるなと思いました^^白蘭の方が余裕のある感じもいいですよねv2人には素敵なクリスマスを過ごしてもらいたいですね。


最後のイタリア語は雰囲気を出したくて使ってみました^^白蘭が「 メリークリスマス!君に幸せを。」と甘く囁いたので、骸も「僕は幸せですよ。」と返しています。骸は白蘭と共に在ることが一番の幸せですね(*^^*)


キーノ様、この度はリクエストして頂きまして、本当にありがとうございました!

[*前へ][次へ#]

100/123ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!