07 「確かに女は腐るほどいたが、今の俺にはお前以外の女に興味ねぇよ」 いや、もともと欲だけで動いていたのだから、“それ”以外に興味すら持ったこともないのだが。 「も……いい、よ……」 泣きながら黙って聞いていた森下が口を開いた。 「信じる、から……」 もうやめてと懇願している。真っ赤になり、震えながら。 「だけど……! これからは……う、浮気し……たら……」 止まっていたはずの涙を溢れさせ、嗚咽しながら、一生懸命に訴えている。 正直なところ、今の話をするのにも相当な覚悟がいった。そのうえでもう一度、コイツの気持ちを確かめてみようと考えていた…… それで駄目だったなら、手放すことは無理だとしても、自分のまいた種なのだ。 信じてもらう努力をして、一から口説き落とすしかないと。 涙で濡れた頬に手を伸ばし、目元を指で拭う。 「……好きだ……」 努力をする前に、俺のことを信じると言った森下…… お前にこの気持ちをどう伝えよう。 その白く柔らかな頬を包み込むように両手を添えると、泣きじゃくっているせいか、そこは熱を帯びていた。 「お前が隣にいてくれるなら……他に何もいらねぇよ」 とめどなく溢れ出てくる涙を拭い、その目元に、あくまでも優しく、軽く触れるようにキスをする。 それでさえも体を震わせる森下に、自分の中で理解できないほどの気持ちが溢れてくるのが分かった。 ふいに思った。ああ、これはヤバイな……と。 この、森下に向けている感情は消せそうにない。 一緒にいてもいなくても関係ない。どこにいようが何をしていようが、頭の片隅には森下がいる。 自分以外の誰かを、大切だと思ってしまうことに、戸惑いもしたがたぶんそれが、好きだということなのだろう。 息が苦しくなるこの感じも、高鳴る心臓も、抱きしめたいという衝動も。 簡単なことだ、好きだから。 触れている頬から手を引いて席を立ち、向かいの席にいる森下の所へ行く。 座らせたまま体だけこっちを向かせ、その目線に合わせる為に、中腰で膝をつく。 「もう一回言うぞ」 そっと抱きしめながら言う。 「お前が好きだよ」 「本当に……本当にあたしで……いいの……?」 「お前じゃないと駄目だ……」 それを聞いた森下の肩が揺れて、大きな瞳からは、また雫が溢れた。 「あ、あたしも……好き……」 ───心臓、壊れるかと思った…… お前だけだ。俺をこんなに苦しめるのも、喜ばせるのも。 自分がこんなに喜怒哀楽を持ち合わせていたなんて、生まれて初めて知ったよ。 「……言っとくけど、絶対に手放したりしてやんねぇから覚悟しとけよ?」 抱きしめて、腕の中の存在を確かめる。 「……はい……」 溢れた名残のある目尻に口づけると、微かに震えて目を閉じた。 *←→# |