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ここでの買い物はすぐに終わった。好きなものは目移りして選べないと言いつつ結局は決まっていて、試着しようがしまいが、手に取ったものが欲しいものなのだ。

「似合う?」
「おう」
「決まりー!」

ワンピースとネックレス、ミュールを身につけ、妙に照れくさそうにしている愛姫は文句無しに可愛かった。
中でもヒール部分がハートの形をしたこのミュールは、ずっと欲しかったものだとご機嫌だ。確かにこれは愛姫のど真ん中だろうが、もう少し低いヒールにしてくれた方が安心なんだがな。

「それ、転ぶなよ」
「大丈夫だよ!」

店員の後を追ってレジに向かう足は、スキップでも始めそうに弾んでいる。
自分で買うとうるせぇのを一喝し、支払いを済ませて店を出る。

片手には荷物を、残った左手で愛姫を引きながら人込みを歩く。
ただでさえ混雑していることに苛ついてんのに、その引っ張られてるこの馬鹿が、いつまでも文句を言っているせいで余計に腹がたつ。
金を払うだの、安くないんだからだのと。

「あーうるせー」
「でも!」
「俺はお前と違って金あんだよ」
「……お買い物するお金ある、もん」
「……今日は愛姫の日、なんだろ?」
「……」
「だからいいんだよ。分かったらとっとと歩け」

数秒俺を見つめたあと、怪訝な顔をしたまま、ありがとうと言って俯きながら、足を踏み出す。

―――ふう……今日は本当に面倒な日だ。

「腹へったな。何か食うか」
「じゃーあ、パスタかオムライス! ハンバーグでも……あ、」

飲食街を進みながら食いたいものを選ばせていると、何か思ったのか愛姫が急に立ち止まり、眉をひそめて俺の顔を見てきた。

「どうした」
「ハルって」
「あ?」
「ハンバーガー食べたことある? シェイクは? 飲んだことある?」

……今度はどんなスイッチが入ったのか知らねぇが、いきなり掴みかかってきそうな勢いで、ずいっと迫ってきた。

「そりゃあるだろ」
「! ハンバーガーにする! お昼ご飯!」
「……あっそ」

こんだけ店があんのにわざわざそこを選ぶか。……俺はイタメシ食いたかった。別にいいけど。




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