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「……ねぇなぁ」
「じゃあこれは? こっちは? あ、あれも!」
「……違うな……」
「うー」

入店して30分以上たっても、狭い店内をぐるぐると歩き回り迷っている。

「愛姫」
「なーに?」
「次行くぞ」
「も、もうちょっとだけ!」

たぶんこれは、愛姫が持ってくるものに俺が一言、似合うと言えばすぐに終わるのだろうが。残念なことにその言葉が出ねぇんだから面倒だ。

「これどう?」

試着室の扉から自信なさげにひょこりと顔を出した。中を覗くと、その表情が物語るように全く似合っていなかった。

「お前さあ、自分で分かってんだろうが。いい加減に出るぞ。着替えろ」

むつりと不機嫌な顔で試着室から出てきた姿を、視線で追いかけながら出口で待つ。服を棚に戻し終えて少々遅れて出てきた愛姫が、俺とは目を合わさずにスッと無言で通り過ぎた。追いかけて隣に並ぶと、見上げて勢い良く言い放った言葉。

「今日は愛姫の日!」

この野郎……何だてめぇ、さっきまで良かった機嫌はどこに置いてきやがった。似合わねぇもんはしょうがねぇだろうが。
しかしそれを今言うと、面倒なことになるってのは分かっている。

「そうだな、悪い」

頭にポンと手を乗せると、膨れた頬からぷしゅっと空気が抜けた。
手を取り歩き始めるとぎゅっと握り返され、少しは機嫌が直ったかと一息ついた。

「あ、あそこ!」

次に指差した先は、なるほどこいつが好きそうな、色と形。こういうピンクやリボン、ヒラヒラフリフリしたのをこいつは好んで着ている。
言っとくがな、さっきの店のみたく、いかにもOLが着てそうな清楚系はお前には無理がある。何だ、イメチェンでも狙ってんのか。




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