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すげぇな……
げんなりする俺の隣に立つ女は、右に左にと首を動かしながら、目を輝かせている。すげぇのはこれだ。こんなに人間が密集しているというのに、怯むどころか楽しそうなのは、ある意味尊敬に値する。

「あ! 可愛い!」

見つけた物に向かって走り出したのだが。

「きゃ……っ!」

ぐんと伸びた俺の腕と繋がっているのは、当たり前だが愛姫の手だ。走ったところで前には進めずに、がくんと後ろに倒れそうになったのを、引っ張り上げて受け止めた。

「考えてから動け」
「あ、う、ごめんなさい。びっくり……」

したのはこっちだがな。

「待ってるから見てこい。そこにいるから」
「うん!」
「そこのベンチだぞ。分かったか? 迷子になるなよ」
「……」
「おい聞いてんのか」
「あ、うん。……ハル、なんだか」
「あ?」
「お父さんみたい」
「おと……!?」
「行ってくるね」

くすくすと笑ってぽちゃぽちゃとした体を反転させた愛姫は、器用に人の間をすり抜けながら雑貨屋に消えた。のはいいが、おいこら、今なんつった? 誰がお父さんだって……?

「お待たせ」
「……」
「ハル?」
「……ああ」
「あ、え? ごめんなさい。お、遅かった?」
「いや、別に」

立ち上がりながら、じとりと横目で睨んでやると、焦った様子で何度も謝ってきた。……別にたいして待っちゃいねぇけど。

「何でもねぇよ。次は何だ?」

手を取って顔を覗くと、ほっとしたように笑顔を見せた。

「洋服屋さん!」

繋いだ手をぶらぶら揺らしながら、弾むように歩く愛姫に、軽く溜め息を漏らす。

「お前がもっとしっかりしてりゃな」
「え?」
「何でもない」
「あった!」

指差した先の店は、いつも行くようなのとは雰囲気が違っていた。

「間違ってねぇか?」
「大人計画!」

……は?




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