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「怖いって何が」
「……」
「愛姫」
「……あたし……」
「……は?」
「あたし……自分が……」
怖いというのは確か前にも聞いたことがある。その時には嬉しいのに怖い、と。帰国して会いに行ったあの日、逃げて暴れてどうにもならなかった時に口走っていた。
……ックソ、あの日……無理にでも口を割らしときゃここまでの事態に陥らずにすんだかもしれねぇと考えると、自分にも腹がたった。
つーか自分が怖ぇって何だよ。
「いや、ちょっと待て。意味分かんねぇ……」
「どきどきしてここ、壊れそう……それに……」
胸に両手を当て苦しいと泣く。そんなこといつものこどだろうが。
「今さらだろ」
「へ、変なの! だって!」
「だから何がだよ」
目線だけを愛姫に向けるとその対象はゆっくりとこっちを向き、涙か鼻水か汗かもうよく分からねぇが、とにかく最高に崩れた顔で、もう一度ごくりと喉を鳴らした。
「はハルと一緒にいたら……どんど、ん……」
どんどん欲張りになっていくの、と続けて手のひらで頬を覆った。
何を隠してんのかと思ったらそんなことかよ。そんなの別に隠すほどのことでもねぇと思うが。
「当たり前のことじゃねぇか」
「でででも! それだけじゃ……」
「まだあるんなら今全部吐き出せ。何聞いても怒んねぇから」
頭にぽんと手を乗せて、くしゃりとかき回す。
……数秒遅れて出てきた言葉。こいつが心の奥に溜めていたものが、俺の脳を揺らした。
「ぎゅ……って……したくなる。いつでも……触れ、ていたくて、だから、だから!」
「……だから?」
「……ハルの顔を見ないように……でも……」
この後だ。耳を疑うどころか愛姫自信を疑った。
───声を聞くだけで体の奥からどくんってなって、なんだか熱くなる───触られたい、触りたい、抱きしめられるだけじゃ足りないの───
「こんなの……こわい……」
ぼろぼろと雫を落とし続け、途切れ途切れで震える声が繋がった時、気がつけば腕の中に愛姫を引き込んでいた。
「馬鹿かお前! もっと早く言え!」
「……やめ……」
「うるせぇ」
「いた……ハル……いたい……」
こんなことを打ち明けられて……
───どうしたら怒れる? どうしたら嫌える……───
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