[携帯モード] [URL送信]
10


……逃れようと暴れるのを無視して舌を突っ込むと、びくんと体を揺らして俺の胸を押し返す。
唇を離すと息を切らしながら、嫌だと。

「黙れ」
「やめて! こんなことしないで!……お願い……」
「黙れっつってんだよ! これ以上怒らせると何すっか分かんねぇぞ!」

怒鳴り声に驚いてんのか怯えてんのか、びくりと肩を揺らしてぎゅっと目を閉じ、窓の外に顔を向けた。

「ベルトしろ。俺の家に行く」

自宅まで走らせている間、狭い車内には、押し殺された声の代わりに落ちる雫が奏でる音が……耳障りなほどに響いていた。

マンションに帰りついても入ろうとせず、玄関に立ち尽くしている背中を押し、靴を脱いだのを確認してリビングに引っ張ってきソファに投げ出すと、きゃっと小さく短い悲鳴をあげた。
乱暴に扱っているのは十二分に分かっちゃいるが、どうしようもなくいらいらする。
ローテーブルを挟んだ正面に座り愛姫に目をやると、居心地悪そうに視線は宙を漂流していた。

「どんだけ泣いても帰さねぇぞ」
「だ、で……でも……」
「俺が納得できるだけの理由を言え」
「言えな……」

膝の上に置いた手が、スカートの裾をつかんで皺を作った。

「嫌いだっつったな」
「あ、あの……」
「別れてやろうか」

俺からこれを言うつもりはなかったが、こうでもしねぇとこいつはいつまでも黙ったままだろうから。卑怯な手なんだろうが、そんなこと今はどうでもいい。
案の定、うつむいていた顔は上がり大きく首を振った。

「ちが……! やだ! ふぇ……やだぁ!」

泣きじゃくりながら立ち上がり、水膜の向こうにぼやけた瞳が俺を捉えた。───やっと……
漂う視線がまともに定まったのを目にするのは、どれぐらいぶりのことか。

「だったらどうしたいかお前の口からちゃんと言え!」
「……だって!」
「だっては聞き飽きてんだよ! ……言い訳もな」

両手を握りしめて震えている愛姫の目の前まで行き、ゆっくり座らせ隣に腰を落とす。

「お前何で避けてたわけ?」
「………こわい、の…」

絞り出すように落ちた声と、ごくりと息を飲む横顔が……本音をさらけだす覚悟を映し出している。

長く続いた停滞期からやっと、一歩前進できるということか。




*←→#

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!