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09


大通りから一本外れた場所にあるその店の前につき、愛姫が言っていたことを思い出す。確かに女だけでも入りやすい雰囲気だ。中に足を踏み入れると、カウンターの一番端でうなだれた後ろ姿を見つけた。
……酒も飲めねぇくせに似合わねぇ場所に一人で来てんじゃねぇよ。

「愛姫」
「……あ……あ、ハル……」
「仕事サボって何やってんだ」
「もう少ししたら……戻る……」
「俺が帰ったら、か?」
「……」

また黙り込む……つうことは図星か。グラスを握りしめてまたうつむく。

「それ酒か?」
「ノンアルコールですよ」

グラスを取り上げようとしたとこに、バーテンが口をはさむ。

「あっそ……帰るぞ」

カウンターに金を置き、愛姫を立たせて腕を引き出口に向かった。
無言のまま引きずるようにして歩いて行くと、小さく発した言葉に耳を疑った。

「きらい……」
「あ?」

聞こえた声に反応し、止まりそうになった足に活を入れた。
とりあえず外に出たところで掴んでいた腕を投げ出し、持ってきたコートを投げ渡す。

「まずそれ着ろ。風邪ひくぞ」

コートのボタンをとめながら、ぼたぼたと流れる涙が頬を伝って、その小さな手に落ちた。

「で? さっきのは何のつもりだ」
「きらい……きらい! ハルなんて……」

耳まで真っ赤に染めたような顔で、船を浮かべられそうなほどに涙をためたその目には、はっきり好きだという感情が宿っている。
この間から言ってるけどな、そんな表情じゃ説得力の欠片もねぇ。

「言いたいことはそれだけか」

嫌い。うわごとのように繰り返し、座り込んでしまった愛姫を引っ張り上げて、そのまま歩き始める。吐き出す言葉が嘘だと分かっている。説得力の欠片もねぇはずのそんなもんが、俺にはずいぶんと破壊力があるようで、あとからあとから突き刺さってくる。

暗くなった社内に荷物を取りに戻り、地下の駐車場で車に愛姫を押し込んだ。また逃げられちゃたまんねぇからな。

「まだ……お仕事……」
「お前と違って俺は仕事が早いんだよ。とっくに終わってる」
「……忘れ物……ッ!」

エンジンをかけてアクセルに足をかけてんのに、いつまでもぐだぐだと理由を作っている。逃げ回る口実を。馬鹿が、これ以上許されっと思ってんのか。
頭に手を回して引き寄せ口をふさいだ。




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