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08


「何か言うことは」
「……」
「嫌になったか」
「……」
「黙ってちゃ分かんねぇ」
「……」

目を合わせようともせずに首を振り、無言を貫いている。愛姫、と名前を呼ぶと、ぎゅっと目を閉じて背を向けた。

「おい」

自分を包むように両手を肘に当て、震える背中は何を訴えているのか。

「……言えない……」
「言え」
「……ッ! だって! こんなこと……言ったら……」

あーそうか。どうせこれを言ったら嫌われるだの怒られるだのと、くだらねぇことでぐるぐる悩んでんだろ。

「怒らねぇから言え」
「いい、い、言えない!」
「……てめっ! おい!」

油断したと言うべきか、突き飛ばされて逃げられた。あの野郎……調子に乗ってんじゃねぇぞこら。
とはいえあいつは仕事を投げ出して帰るほどの、無責任さも度胸も持ち合わせちゃいねぇ。少し待てば戻ってくんだろ。

……と思い、愛姫が残していった仕事を引き継いで、指をカタカタと動かすこと一時間半。……何で帰ってこねぇんだボケ。で、何で俺が企画書全部やってんだよ。
まあ……今日のは私情はさみまくりの残業命令だったんだがな。
それにしても遅ぇ……外には出ねぇと思ったが読みが外れたか? ああムカつく。こんな時間にふらふら外を歩かれちゃ困るんだよ。
携帯を開きアドレスから愛姫の番号を押す。と、目の前で光りながら、バイブの音が響いた。
……何でだクソガキ、せめて携帯ぐらいは持って逃げろ。

仕方なく探しに行こうと会社から出ると、さすがにこの季節。冷たい空気に晒されて、また一つ思い出した。あいつも制服のままで上着すら着てねぇ。……マジどこまでも面倒かける女だな。
いったん戻って愛姫のコートを片手に、もう一度外に出る。とりあえず金もねぇ愛姫が行きそうな場所に、一つだけ心当たりがあった。

会社から歩いて10分ぐらいか。店名もまともに覚えちゃいねぇが、人事部の女とたまに行くと言っていた場所がある。何度か行くうちに店の奴とも話すようになったとか、確かそんなことを話していた。




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