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07


で、あれから何週間だ? ここんとこずっと、あいつは俺を避けていやがる。ムカつくほどに分かりやすい嘘で 、二人きりにならないようにつとめているのだ。

「あ! 帰ってお部屋の大掃除しなくちゃ!」
「あの、ね、みどり! がお泊まりに……」
「今日は人事部の未央ちゃんとご飯に」

平日の深夜に大掃除はねぇし、平日にみどりは来れねぇだろう。未央ってのは確かに愛姫の口からよく出る名前だが、毎日のように会うほどあっちも暇じゃねぇだろう。何より残業ばかりの愛姫とは、スケジュールが合うことも珍しい。
だいたいテメェが嘘をつき通せるほど器用じゃねぇくせに、ばれてねぇと思ってんのかよ。俺相手にめでてぇことだな。

「今日はどんな予定で断るつもりだ?」

同じ部署に俺がいるこんな状況の中、仕事以外のことに気を取られてちゃミスもますます増えるのは必然で、今日も残業しているところに声をかけた。
隈と充血した目で寝不足を露呈している顔で、パソコンと奮闘していた愛姫の指が止まった。

「そろそろお前の嘘にも飽きたんでな」
「う、嘘なんて!」
「あっそ」
「……」
「手伝ってやろうか」
「いら、いらない」
「逢坂は来ねぇぞ」
「え?……どうして知って……るの?」

逢坂は俺から言われて残ってたからな。

「手伝っているのかいらねぇのかどっちだ」
「……一人で……やる……もん……」
「それ朝一で使うんだぞ。間に合わねぇだろが」
「ちゃんと仕上げ……」
「無理だっつってんだろうが」

愛姫のデスクに片手をついて見下ろしながら言うと、肩を揺らして涙を浮かべた。

「それとも違う話でもするか? あ?」

朝一の会議だろうが今の俺にはどうでもいい。さらに言うなら、その会議に出席するハゲの失態になろうが、契約破棄の事態に陥ろうが知ったこっちゃねぇ。

「あの……お手洗いに」

焦って椅子から立ち上がり、出て行こうとしている愛姫の腕をとる。

「いい加減にしとけよ」
「離して!」

ふざけんな。何か考えることがあるのなら、時間は充分くれてやったろうが。俺にしちゃ珍しく、黙って待っていたっつうのにどういうつもりだ。




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あきゅろす。
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