06
追いかけてきた愛姫を捕まえた。
「せっかく帰ってきたのに逃げ回んじゃねぇよ馬鹿」
「……あ……あ、あ……」
抵抗していた体からは力が抜けて、その場に崩れ落ちた。手首は俺の手中の為、倒れ込みはしなかったが。
「……会えて嬉しい……だけど……今一緒に……いると……」
「駄目ばっか連発してんじゃねぇよ」
嬉しいならいいじゃねぇか。……なのにどんどん落ちていく涙は、どういうことだ。
もう今さらっつうわけでもねぇが、愛姫の泣きにも多少は慣れて、そんなもんじゃひるまねぇけどな。
何を思い、どんなことで泣くかも今じゃ分かっているのだが、今日のは俺の予想に反して、嬉し涙とも悲しさからくるもんとも違っているらしい。……だったら何だ。
嬉しいのに嫌だ、嬉しいのに怖い、嬉しいのに駄目。嬉しいのに嬉しいのにと、鼻水まで流しながら訴えるお前が求めてんのは何だ。
……時差ボケのまんまじゃ、頭もうまくはまわりもしねぇ。触れられることから逃げ回るから、自分の女が泣いてんのに、抱きしめられもしねぇ。涙を拭えもしねぇ。
帰ろうとすればこうやって後を追ってくるくせに、捕まえてみりゃこれだ。
どうしたいのかどうしたのか、何を考えてんのかを問いただしても首を振るばかりで答えやしねぇ。
「言わなきゃ分かんねぇだろうが」
「……ッツ!」
ますます赤くなり、息をきらせて泣き続けているだけじゃ埒があかねぇ。
「あー、もういい。分かった」
「……え?」
「とにかく今は俺といたくねぇんだろ?」
そうじゃねぇのは分かっているが、このまま居座っていても変わらねぇことは予想できる。
「今日は帰るわ」
「あ……」
やっと上がった顔には不安が浮かんでいた。
「顔見れて良かった。早めに寝ろよ」
一人に残して帰るのもどうかとは思ったが、こんな状態じゃいくら待とうが聞き出せやしねぇ。
「鍵閉めて出るからな。落ち着いたら拾っとけ」
最後におやすみ、と、頬に口づけると全身が跳ね上がり後ずさった。
……これは嫌悪や怯えからくる反応なんかじゃねぇことは、これまでのつき合いで分かっている。
立ち上がることもできずにいる愛姫を残して、その場を後にした。
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