05
他人が見れば不審に思われるような行動をすることぐらい、愛姫にはそう珍しいことでもない。が、明らかにおかしいだろう。
……言っておくが叫ばれるほどのことは何もしてねぇ。つーか抱きついてくるもんだとばかり思っていたのに、それどころかまともに触れてすらいねぇ。
さっき嬉しいと言わなかったか──? 何のつもりだ、この態度は。
「愛姫」
「あ、あ、あ、ちょっと! ちょっと待って!」
「何がだ」
「だ、だから駄目なの! こっち来ないで!」
耳まで真っ赤に染めている後ろ姿と、発する言葉の矛盾は何だ。
足を踏み出せば振り向いて駄目だと叫ぶ。目を瞑り、俺を見ないようにしながらも必死に。
……この馬鹿が。逆効果だろうが、そういうのは。
「止めてぇんならまずその顔をやめろ」
「来ないで! やだ!」
「嫌がっているようには見えねぇけど?」
「やだ!」
逃げるように寝室に走って行き、バタンと閉められたらドアにはしっかりと鍵がかかっていた。
「開けろ」
「駄目!」
「愛姫」
ひたすら駄目だと繰り返されて、いっこうに出てきやしねぇ。
冗談じゃねーぞ。いつぶりだ? こうしてちゃんと会うのは。
「嫌なら触んねぇからとにかく開けろ」
「……ッツ!」
「……愛ー姫」
「……」
「ドア壊すぞオイ」
半ば脅すようにそう言うと、数十秒後、がちゃりと鍵が開く音がしてすぐにノブを回したが……
チッ、諦めのワリィ。向こう側から押さえてやがる。
「分かった。もういい」
ため息をひとつ、玄関へと体を反転させて進む。
冗談じゃねぇぞ、あんな表情見せられてこのまま帰ってたまるか。お前の性格なんか知れてんだよボケ。
「待って!」
案の定、慌てて飛び出してきた愛姫。……ほら、な?
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