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03


あれから一ヶ月弱……勤務時間外の会合だの、取引先と商談だのと仕事に追われ、会社以外じゃ愛姫と顔を合わすこともなかった。
挙句の果てには海外出張まで入り、この一週間はまともに連絡すらとっていない。こんな役職についてまで、海外の仕事が今さら俺にまわってくるとは思わなかった。
ジャンクな飯に飽きて偶然見つけた和食屋に入ると、日本料理とは名ばかりのクソ不味いものでとても食える代物じゃなかった。
仕事は有意義なもので、相手とも信頼関係は築けた。が、情けねぇことに軽いホームシックに陥っている。

滞在している部屋に戻り携帯に目をやると、毎日のように着信履歴が残っている。ごく控え目に。
……あいにく外国にいると、厄介なことに時差ってのがあって、たかが電話がなかなか繋がらねぇ。
それを説明したうえで、暇があればこっちから連絡すると前もって言っておいたのだ。にも関わらず、控え目だったものの数が増え始めていた。

「声が聞きたい」

小さく雑音混じりに入っていたメッセージからは、涙を浮かべているだろうことを想像させられた。
……思えばこれもおかしいことだ。どれだけ時間を作ってやれなくても、どれだけ寂しかろうが、あいつは絶対に留守電を使わねぇ。
情けねぇ状況に陥った原因はこれだ。あんな声を聞いてしまうと、すぐにでも抱きしめてやりたくなる。
帰国予定を一日早めることができたのは、そのおかげなんだろうが。人間やる気になりゃ、すげぇ集中力を発揮するもんだな。

帰国したその足で愛姫の家に行った。

『……はい』
「俺」

電話をかけると掠れた声が聞こえた。

『……ハル!』
「悪い、起こしたか?」
『ちょっとウトウトしてただけ』
「そうか」
『今平気なの?』
「ああ、連絡しなくて悪かったな」
『んーん、大丈夫』
「そっか。じゃあ悪いけどな、鍵開けろ」
『鍵? どこの?』
「そんなもん玄関に決まってんだろ」
『……』
「愛ー姫、鍵開けろって」

チャイムを何度も鳴らしていると、派手な足音が聞こえたあとカチャリと鍵が回る音がして、ゆっくり開かれたドアの隙間から愛姫がそっと顔を出した。




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