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01


いつものように残業上がりに家まで送り届け、いつものようにおやすみの挨拶をして、いつものように部屋が明るくなったのを確認して帰ろうとした時だ。ここからがいつもと違っていた。
愛姫が部屋から飛び出してきたのだ。
慌てて車を降り、何があったと聞くと。

「あの、お茶とか、ご飯とか……」

そんな答えが返ってきて、なんだそんなことかと小さく安堵した。

「今からか? もう遅ぇし飯食って寝ろ」
「あ……でも……! ちょっとだけ、でも」
「……」
「……だめ?」

休み明けの残業で愛姫が疲れているのも分かっていたし、早く寝かそうとしていたというのに、とどめの一言、無意識の上目にほだされた。
頭の中でため息を一つ、少しだけだと念を押して部屋にあがった。

コポコポとコーヒーをたてる音と香りが漂う中、冷蔵庫を覗いていた愛姫が肩をおとす。お買い物しとけば良かった、と。

「は? お前食うもんねぇの?」
「……ごめんなさい」
「俺はいいんだよ。お前の分は?」
「うう……」
「アホか」

くるりと反転して財布とキーを手にした。

「……ごめんなさい……でもまだ……」

ジャケットの裾を軽く引っ張られ、つんのめる。

「食うもん買ってくるだけだ」
「い、い、いらない! だから……ここにいて……」

どうしたというのか。
これまでこんなことはなかった。いや、同窓会の日、あの明け方もそうだった……か。




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