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20


「……で?」
「……」
「何でお前がそこ座ってんだ」
「あんた一人で行かせるわけにいかないからな」

注文したもんも食わずに金だけ置いて、カフェをあとにした。
車へ戻り、買った荷物を投げ出してキーを回した時、助手席に高橋が乗り込んできたのだ。

「役立たずはいらねぇんだよ」
「誰がだ!」
「ナビすらできねぇ奴をそう呼ぶんだよ」
「あんたマジでいちいち偉そうだな」
「黙れドカス、嫌なら降りろ」
「うるさい」
「言っておくが……今から行くとか連絡すんなよ」
「普通するでしょ」
「携帯壊されたくなかったらやめとけ」

やっと見つけたのに逃げられてたまるか。

「見た目通り黒い奴だな」
「うるせぇ死ね」

文句を言い合いながら20分ほど愛車を走らせていると、まだ夕方に差し掛かろうかという時間にも関わらず、極端に車も人も少なくなった。

「あ、そこ左曲がった先のアパートだから」
「あれか」

錆びた階段と色あせたような薄い水色のアパートがあり、その前で停車する。
周囲には他に住居らしきものは見当たらねぇ。

「本当にここだろうな?」
「嘘教えてどうすんの」
「……部屋どこだ」
「二階の右奥」

一段上がるごとに揺れる階段が終わり、ようやく愛姫がいるという最奥の部屋の前まで来た。
……このボロアパートが。呼鈴もついてねぇのかよ。

「ちょっと待てよ!」
仕方なく開けようとしたところ、勝手に入るなと止めた高橋が、みどりと名前を呼んで扉を開いた。

「あ、高橋! 電話で来るなって言ったでしょ。愛姫が……」
「ああうん。それでさ、ほら」
「え? あの……どちらさま?」
「悪いけど勝手にあがるぞ」
「ちょっと誰よ!」
「おい! こら!」

靴を脱ぎ二人を押し退けて狭い廊下を進むと、ずびっと鼻水をすする音が聞こえてきた。部屋を覗くと座りこんだ愛姫の泣き声と、その姿が鮮明に飛び込んできて、心臓辺りが多少の息苦しさを覚えたが、それよりも見つけた安心感の方がでかかった。




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あきゅろす。
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