12 「お前がとっとと話してりゃ無駄にあいつを泣かさずにすんだ」 「……心配だったんだよ」 「あ?」 「森下があんまり嬉しそうにあんたのこと話すから」 「それが何の心配がある」 「あいつは素直だからな。何でもすぐに信じて騙されやすい」 ああそれで……その心配は分からないでもない。が、 「分かったような口を聞くな。あいつはちゃんと人を見る目を持ってんだよ」 「……」 「よけいな世話やくんじゃねぇよ」 「……」 「あいつの面倒は俺が見るから放っとけ」 「……分かった」 頷いたわりに、怪訝そうに眉をひそめている。 「まだ何かあんのか」 「……もうヤったの?」 「あ!?」 「遊ぶだけ遊んで棄てたりしたら許さないからな」 「てめぇ何だその言いぐさは」 そんなもんが目的なら俺はあいつを選んじゃいねぇよ。 「そう、ならいいけど」 「愛姫によけいなこと吹き込んじゃいねぇだろうな?」 「言えるわけないでしょ」 は、そりゃ良かった。 ◆ 女を抱えてタクシーに乗った高橋を見送って、不安そうに瞳が安定しない愛姫の頭に手を乗せる。 ───結局のとこあの男は、愛姫を泣かすどころか、旧友の心配をしていただけのことだったのだ。 見つけた時に泣いていたのも……あれは馬鹿な愛姫がこんな奴に感情移入してしまい、勝手にぴいぴい鳴いてただけの話だったと。 そして俺は恥をかかされたのか。……まったく勘弁してくれ…… しかしあの状態じゃ誤解してもしょうがねぇよな……と、自分をなだめてみる。くそ、無駄足かよ。 「ハル……」 「……悪かったな」 「もう……怒ってない?」 「ああ」 「ごめんなさい」 「もういい」 そうだ、こいつはもともとそんな奴だったろ。分かっていたことじゃねぇか……人のことでも我事のように感じて泣いてしまうほど、純粋な女を選んだのは俺自身だ。 「あの……今さらだけど……どうしてここにいるの?」 そういえばそうだ。 「お前……何を隠してる?」 「え……隠すって?」 「電話で何か言いかけてたろ。あれ何だ?」 「あ、それは……いっぱい聞かれて……なんて答えたらいいのか分からなくて……」 「は?」 「だから……あの……好きな人はどんな人か、彼氏はできたかとか……そんなこと……」 「……」 「初めてできた恋人……だ、大好きなハルのこと……説明っていうか……」 またこいつは…… 目を閉じてため息を吐いた。そんなことで仕事も投げ出して恥をかきにきたのかと、自分に呆れてしまう。とはいえ…… 真っ赤な顔して、大好きだと言う目の前の愛しい女が、両人差し指をつつきあったりくるくる回したりする姿は……可愛いの一言に尽きる。 *←→# |