11 愛姫の髪の間に指を滑らせて、ゆるゆると撫でているとバツの悪そうな顔をした高橋が、肩を竦めてふっと笑う。あ……? そのしぐさにいらだちを覚えたが、愛姫をこれ以上泣かすわけにはいかないので、喉まで上がってきている文句をぐっと飲み込む。 と、ふいに背後から間抜けな声が聞こえた。 「あれ? あたしの部屋じゃない〜」 誰だよお前。 「あー、いいから寝てろ。ちゃんと連れて帰ってやるから」 なだめるように接する高橋を見て違和感を感じる。 「愛姫」 「ぐすっ……はい?」 「何だあれ」 「え? あ、みどり」 二人を見て目を細める愛姫が、俺から離れてそっと近づいていき、ヒソヒソと何かを耳打ちすると、高橋は数秒遅れて何度も首をふる。 あんだけ泣いてやがったくせに、にこにことえらく嬉しそうに戻ってきた愛姫が、俺を見上げて背伸びをした。 「ハル」 肩に手をかけてきたので軽く腰を落とすと、今度は俺に耳打ちしてきた。 「あのね、高橋くんね、ずーっと前からみどりのことが大好きなんだよ」 「は?」 小さな手で口元を覆い、嬉しそうに笑う愛姫を見てガクンと力が抜けてしまう。 慌てて二人を見ると、寝息をたてる女に送る高橋の視線は、あきらかに好きな奴へと向けるそれだった。 「マジかよ……」 空を見上げてため息を吐き出す。 「愛姫……」 「え?」 「お前……何で泣いてた?」 「だ、だからそれ、は……」 は? さんざん聞き逃していた答えがそれか? いい加減にしろ。 「ふざけんな」 「ハル?」 「バカくせぇ! ふざけんな!」 「あ、え、あの……」 体を反転させて戸惑う愛姫から離れる。 「おいコラてめぇ!」 高橋の頭を掴み上を向かせると、なに? と、邪魔をするなと言わんばかりに不機嫌な返事が返ってきた。 「何でもねぇことをもったいぶってんじゃねぇよ」 「ああ聞いちゃったの?」 ふざけんじゃねぇぞ。だったら何か、俺が勝手に誤解して空回ってただけか? *←→# |