03 パソコンに契約内容を打ち込んでいても、つい携帯に手を伸ばしてしまう。 今頃久しぶりに再会した昔の中間と楽しんでるんだろうな。それを邪魔するつもりはないが、気になるものは仕方ない。 珍しく有給を使い、今日から愛姫は実家に帰省中なのだ。同窓会に出席する為に。 子供扱いされるのを極端に嫌う愛姫には悪いが、まず心配になったのは、無事に着けるのかということだ。 しょせん実家に帰るだけのこと。いくら馬鹿な愛姫でも、心配する必要がないのは分かっているのだが。 どれだけ忙しいのか知らねえけどな、電話の一本ぐらい入れられやしねぇのか。 帰省理由が同窓会ってのも心配の種だ。たかが同窓会とはいえ、俺が出席するのとは違う。たかが同窓会とはいえ、間違いなく酒の席だぞ。飲ませられたらどうすんだ、口に含むだけでも吐き出してしまうのに。 「おーい」 あの馬鹿マジで大丈夫かよ? 「おい! 田辺!」 「あ?」 「お前は思春期の女子か! どんだけ電話見つめてんだよ」 「はあ!? 死なすぞカスが!」 うるせぇんだよ。好きで見てんじゃねーっつーんだ。 文句があるならアイツに言えよ。仕事が進まねぇのは、間違いなくあの馬鹿のせいだ。 久しぶりに会う仲間達に囲まれて、無邪気に笑っている姿を想像してみる。そんな場所にわざわざ電話をかけて邪魔をするのは、いくらなんでもルール違反だろう。 そんなことは百も承知なんだよ。それでも腹が立つもんはしょうがねぇ。 「愛姫ちゃんを少しは信用してやったらどうだよ」 「……信用はしている」 「してねぇよ。愛姫ちゃんだって子供じゃないんだし、里帰りぐらい黙って見送れねぇのか」 「何も言ってねぇだろが!」 信用していないわけじゃない。しつこく言うが、たかが同窓会なのだ。愛姫に関して言うのなら、浮気とか、そんなことを心配しているわけじゃない。 そんなものは皆無に等しくても、そこに男がいるのは当然のことで、逆の心配は否応なしに発生してしまう。 ……前に愛姫の卒業アルバムを見たことがある。今と然程変わりはしないが、その頃に比べれば……それでもやっぱり綺麗になったと思う。 学生時代の話を聞く限り、男関係の明るい思い出はないらしいが、今の愛姫を魅力的に思わねぇ奴ばかりとは限らねぇはずだ。そんなことは思い浮かべたくもねぇが、嫌な考えが頭をよぎる。 だいたい何でこの俺が、こんなにも乱されなきゃいけねぇんだ…… いい度胸だな、お前は。こんなに仕事を邪魔してくれようもんなら、他の奴ならとっくに制裁済みだ。 いや、そんなもんじゃ済まさねぇな。ここまで苛つかせてくれる奴なら、死罪に等しいっつーんだよ。 “パシャ” 「……何の真似だ?」 聞こえたシャッター音に目をやると、絵に書いたように嬉しそうな顔をしたカスが、携帯を向けていた。 「珍しいから記念にー?」 「殴られてぇのか」 「痛ぇな! 聞く前に殴ってんじゃねぇか!」 何かねぇかな……コイツの口を一生黙らせられる物。ああ、例えばアレとか? 体育の授業に使う鉄の棒状な物とか。 「くだらねぇことばっかやってねぇで仕事しろ。そんなんだから女の一人もできねーんだよ」 「お前こそ手を動かせ! 思考回路を愛姫ちゃんから仕事に戻せ!」 「減らず口の馬鹿猿が死ねよ。テメェの給料全部バナナにすんぞボケが」 「減らず口はテメェだ! 俺に当たんなよー!」 腕で涙を拭う仕草をしながら、喚き散らすその様子がうぜぇんだよ。 *←→# |