02 ◆ 無事に契約を取り終え、缶コーヒー片手に一服しようとタバコに火をつける田辺の横顔を見て、本当に恐ろしい男だと思う。 「お前には頭が下がるよマジで!」 交渉中はあくまでにこやかに爽やかに、笑顔を振りまいておいて、相手から確実に見えなくなった瞬間にその笑顔がフッと消えるのだ。さすが仕事の鬼、オフィスの連中にその姿を見せたらたぶん……今よりさらにビビっちゃうね。 「当然だろ、いつまでも無駄に笑えるか」 いわゆる営業スマイルというやつだね、あれは。そりゃ女達は騙されるよ、顔だけはいいからこの男。あくまで顔だけは。 更に言うなら……この男を振り回している愛姫ちゃんにも脱帽だ。鬼を骨抜きにさせるなんて、すごいよね。 「帰るぞ、車出せ」 「飯食いに行こうぜ! 腹減ってんの」 「帰るっつってんだろが。行くなら俺を社に戻してからにしろ」 一人で食う飯はまずいだろうが!! とかさ、言ってみたとこで意味ないんだよね。 しかも愛姫ちゃんがいないもんだから、不機嫌極まりない。 早く帰っておいでよ、君がいないと部下の皆さん出社しなくなるかもよ? 「とっとと出せよ、頭ぶっ潰すぞ」 ……この死神のような目をした男も、君がいればきっと、別人のように優しい瞳に変わることでしょう。 ああ愛姫ちゃん、早く連絡してあげて!! *←→# |