01 電波の届かない場所におられるか電源が入っていない───…… 「……またかよ」 何回かけても聞こえてくる、機械的なアナウンスにいらいらする。 盛大なため息を吐きながら終話ボタンを押した。 重要な商談前の時間を割いてまで電話してんのに、お前は何をしてんだよアホ。 これから反吐が出そうなほどの愛想笑いをする必要があるが、それもできそうにねぇほどに腹がたつ。 「おーい田辺! そろそろ出なきゃマズイんじゃねぇのか!?」 「ああ、分かってる」 時間を気にする呼びかけに急いで会社を後にする。 「お前……そのままじゃ今日は失敗に終わるぞ」 仕事先の会社に向かっている車中、ハンドルを握っている田中が口を開いた。 「あ? 俺がそんなヘマ打つわけねぇだろが。黙って運転しとけよハゲ」 「ハゲてねーよ!」 「ちゃんと前見て運転しろ。事故りでもしたら助かったとしても……テメェ地獄まで叩き落とすからな」 「おーおーいらついちゃってまあ、そんなに愛姫ちゃんが心配か」 人間変われば変わるもんだな。そう呟きながらこのボケナスは口笛を吹き始めた。 「うるせぇんだよ早漏が」 「テメェ今のは聞き捨てならねぇぞ! 誰がだ!」 ……ムキになるってことは、あながち外れてないんじゃねぇか? それはさすがに言わねぇが。 「おら急げよ、商談は時間厳守が絶対だろうが」 「へーへー、お前こそ着くまでに眉間の皺を伸ばしとけよな」 「うるせーよ」 田中の言うことはもっともだ。愛姫のことが心配でたまらない。 だから行かせたくなんかなかったんだよ。 *←→# |