18
「あークソ、黙って寝てりゃ満足なんだろうが」
そう言ってご機嫌ななめな表情で立ち上がったハルが、寝室に向かって歩いて行く。ちょっとだけ怖い目で、こっちをチラッと見てから。
その背中を見ながら思う。
……ハルはきっと……天の邪鬼なんだ。
あたしの意見も考えも、言ったそばから撥ねつけられてしまったり、すぐに怒って怒鳴ったり。
そういうことが、もしかしたら……わざとなんじゃないのかなって、そう思うことがある。もちろん全部じゃないけれど。
腕組みをして顔を逸らす仕草や、いつもよりも少しだけ語気を強めた言葉。確信できた、照れ隠しの為のそんなところ。
舌打ちをしながら睨むけれど、でも結局はあたしの言葉を受け入れてくれるところとか。今みたいに。
ハルが倒れたって知ってから、怖くなったり落ち込んだり、悔しくて泣いたり。どきどきして、死にそうなくらい恥ずかしくなったり、今日も忙しくいろんな気持ちや感情が、体中を駆け抜けていった。
あたしは自分に自信なんて全然なくて、ハルに接する時はいつも以上に余裕が持てない。
感情のまま動いてしまった時やすぐに泣いてしまうこと。さっきみたいにハルにばれたくないと思うような、そんな心に気づいた時の自分の嫌な部分。
前は知らなかった気持ちがたくさんたくさん出てくるから、常に不安が付きまとう。
……初めての恋愛は、どれだけ時間が経っても分からないことばかりで、あたしはも今日も、いつものように途方に暮れていた。
だけどそんなあたしの不安なんて、ハルが全部すくい上げてくれる。どんなに意地悪なことをされても、最後には待ってるの。ハルの優しさが。
天の邪鬼な彼が寝室に入ってから、もうすぐ30分。そろりとドアを開けてお部屋を覗いてみると、少しだけ紅潮した顔をして、穏やかな寝息をたてていた。
辛そうに喘いでいた昨日とは全然違う寝息にほっとして、冷却シートをそっとおでこに貼り付ける。
そして小さな小さな声で囁いてみる。耳元で、大好き、と。
くすぐったそうに少しだけ動いたハルが、可愛くて愛しくて、抱きしめたくて抱きしめられたい。
そんな衝動を必死に抑え、隣にそっと忍び込み、ハルの腕に自分の腕を絡ませて、目を閉じた。
次に二人で目を覚ました時には、きっとまた言うんだ。鋭いのにとびきり甘くて優しい、あの不思議な目をしたハルが、あたしの髪を弄びながら言う。
「よぉ、良くねてたな」
誰より優しく一番素敵な恋人の、寝起きのちょっと掠れたその声で。
これも最近知ったこと。その一言がくれるのは、安心と幸せ。と、ほんの少しの胸の高鳴り。
FIN.
→後書き*オマケ
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