[携帯モード] [URL送信]
17


「美味しい?」
「ああ、多分」
「多分……」
「鼻つまってて味がよく分からねぇ」

ああそっか。それはそうだ。
けれど、食欲がないって言っていたのに、もくもくと夢中になって食べてくれるハルの姿を見れたのは、とっても嬉しいことだ。
お粥ぐらいで美味しいって言ってもらえる期待はしていなかったけれど、完食してくれたことはそんな言葉をもらえるよりも、ずっと嬉しい。
昨日のお昼も食べれていなかったらしいから、いきなり全部食べてしまうと胃がびっくりしちゃうんじゃないかと思ったけど、そんな心配は無用だと怒られた。

「何笑ってんだ」
「んーん、あのね、ごちそうさましたら、今日はちゃんと寝ててね」
「あ? もう平気だっつってんだろうが」
「駄目! 病人は看護士さんの言うこと聞くの!」

ちょっと不機嫌な顔をしたハルに怯まず強気に言うと、チッって舌打ちをされた。
……だってまだお熱あるんだもん。

「……偉そうに指図すんじゃねぇよ」

そう睨まれてタバコに手を伸ばしたので、箱を掴む前に急いで取り上げた。

「おいこら」
「……あ、駄目、だよ。だって……喉に良くないよ」
「俺には吸わねぇ方が悪いんだ。ストレスで死ぬぞ」

ぶんどられた箱からタバコを一本取り出して、睨むような目であたしを一瞥したあと、ライターで火をつけた。
途端に咳き込んでしまったハルの顔は苦しそうに見えるのに、それでも立ち上る煙をすぐに消してはくれない。

「ハル!」
「あ?」
「ちょっとぐらい我慢して! わがまま言っちゃ駄目!」
「あーうるせぇな! 偉そうに指図すんなっつったろうが!」

怒鳴られてぎろりと睨まれてしまい、体が竦んでしまった。
でも……! 今日だけは怯まないんだと決意していたあたしは、きっとハルの方を見た時だ。……あ……

「これで文句ねぇんだろ」

ふざけんなクソガキ。そう呟きながら、ハルは灰皿の中にタバコを押し付けた。潰れた先端から出ている煙が細くなり、ふっと消えた。

「……うん! おりこうさん!」
「……てめぇにだけはそんな口きかれたくねぇ」

ふいっと顔を逸らしたハルが、わざとらしく咳き込んだ。
……そんな姿を可愛いと思ったことは、今度こそ、心の中だけに留めておくけれど。




*←→#

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!