16
さっきまでとは違う触り方だ。
いつもは冷たいけれど、発熱のせいでまだ熱いハルの手。ふんわり優しく動いて、そっとほっぺたに戻ってきた。
「ただ、伝えた言葉に嘘はねぇからな」
聞こえた言葉に思わずハルの目をじっと見た。
冷たかったその視線は変化していた。
ふっと細められたものが、いつも以上に優しいような気がして困惑してしまい、また思考がストップしてしまいそう。
……静かにそっと滑る指が、涙を拭い去ってくれている。
「倒れてる間にお前が思ったことに怒っているんじゃない。腹が立ったのは自分にだから心配はするな」
意味が分からなかった。怒っていたんじゃなかったら、どうしてあんなこと……
「俺のプライドに関わる問題だ」
「プライド?」
「いや、お前はそれ以上考えるな。忘れろ」
「ほんとに……本当に怒ってたんじゃ……ないの?」
「……」
「は、る……?」
「だからもういいっつってんだろうが」
あ、あれ?
「腹減った」
「え、あ、うん。分かった」
立ち上がったハルが腕組みをして横を向いた。
……やっぱり! 怒ってたんじゃなかった! この仕草……照れてたんだ!
「愛姫」
「はい?」
「さっきの……本当だからな。言った通り、伝えた言葉に嘘はねぇから」
「……ありがとう」
「機嫌は直ったか」
「うん!」
「ふん、じゃあ飯だ」
そう言って部屋から出たハルは、あたしの顔を見ることはなかった。
だけどハルが体を反転させた時に見過ごさなかったこと、嬉しく思う。ほんの少しだけ、さっきよりも赤味がさした顔を。
やっぱり照れてたんだな、とか。さっきハルが言った、伝えた言葉に嘘はないんだ……とか。
まだ機嫌が悪そうに見える表情の中にある真実を、これで確信できたというか。
悔しさにプラスされた悲しさは、もうとっくに消えていた。今はもう……嬉しい気持ちばかりが湧き上がってきている。
好きだって言ってくれた声が、また頭の中に響いてきた。同時にどくんと大きな音を鳴らした自分の心が、震えているのも分かった。―――嬉しい。
じんわり零れそうになった涙を拭いて、キッチンに向かった。
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