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「可愛いと思う奴を相手にそんな顔をさせられてちゃ世話ねぇな」

泣きたきゃ好きなだけ泣け。と言ったハルは、いつものようにそっと包み込んでもくれない。頭を撫でてもらえないし、涙を拭いてくれることもない。ただ笑ってこっちを見ているだけだ。

「言ったろ? 二度と可愛いなんて言葉を使えねぇようにしてやるって」

やっぱり怒らせちゃってたんだ……!
あたしはあの時のハルを見て、もしかしたらご機嫌は損ねちゃったけど、もしかしてもしかしたら、照れているんじゃないのかなって思った。だけどこんなに怒らせてしまっていたんだ!
でも……その為だけに好きだって言ったの……?

ハルがそういう気持ちを、直接的な言葉で伝えてくれることは少ない。
だからこそ急に降ってきた言葉にびっくりして、だからいつも以上にどきどきしたの。あんまり真剣な顔と声だったから、それだけ大きな気持ちがこもってるものだと思ったの。
それがどんなに嬉しかったのかをハルは知らない。どんなに驚いて、だけどその時のあたしがあのすぐあと、あの瞬間、どれほどの幸せで満たされたのかをハルは知らない。

「おいこら、何のつもりだ」

それなのにからかわれていただけなのだと分かってしまうと、それでもまだ、どきどきしていることを自覚していること。混ざり合っていたたくさんの感情の中から、今さら悔しさが浮かび上がってきで、泣きじゃくりながら涙の向こう側にいるハルを、力いっぱい睨んでいた。

「言っておくが自業自得だぞ。お前にそんな目をする権利はない」

思わず睨んでいると気づいたのは、この時だけど。
だけど反抗したくなるあたしの気持ちだって、ちゃんと分かってほしい。
だって! 本当にとっても嬉しかったの。

「おい」

急に目の前に出てきた長い指に両頬をぐっと捕まれ、俯いていた顔を上げられた。
ハルの目がやっぱり冷たくて、浮かんでいた悔しさに悲しさがプラスされた。

「いいか、これに懲りたら二度と言うな」

約束しろと言って睨むハルの顔を見たまま必死に首を縦に振った。
二度と言えない。こんなに怒らせてしまうことを知ってしまうと、言えるわけがない。

顔から引いた大きなハルの手の行方を視線で追うと、あたしの頬に戻ってきた。




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あきゅろす。
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