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13


動けないあたしの体をハルは器用にくるりと回した。
間髪を入れずに抱きしめられて、一瞬、痛いと思うぐらいの強さで包み込まれた。そして耳に押し付けられた唇。
震えたあたしの顎に指をかけ、角度を変えた。

「目を開けろ」

ゆるりと一度だけ何とか首を振り、意思表示をすることができたけれど、それは許してもらえなかった。

「目を開けて俺を見ろ」

大きさも語気も強められたその声に逆らうことができず、ゆっくり瞼を押し開けた。
滲んだ視界の中にぼんやりとハルの輪郭が映り、しばらくすると覚醒するように、その顔がはっきりと見えた。

「こんなもんで意識飛ばしてる場合じゃねぇだろ。次はお前の番だ。言えよ」

好きだろ、俺のこと。そんなことを問われて、言葉になんてできるわけがない。上手に息もできないようなこんな時に。
頷くことだけで精一杯の中で、次に聞いたハルの言葉は、まるで深くて暗い地の底まで叩き落とされたような気分にさせるには、じゅうぶんすぎるものだった。

「ちゃんと言うまでは泣いても許さねぇ。目を逸らすことも、口答えも言い訳もなしだ」

顔を両手で隠そうと思ったけど、動く前にそれもハルに止められた。手を取られてしまってはそれもできず、喉が重くなっていくのが分かった。
鼻の奥が痛くなり、みるみる溢れ出してきた涙が口の中にまで伝ってきてしょっぱい。
呼吸が苦しくて、死んでしまうかもしれないと、本気でそう思うほどに恥ずかしい。
その間も彼の目はこっちを見続けている。
……逃げ出したい。


からからに渇いた喉で何度も言おうとして失敗し、息苦しさに負けて、やっと勇気と覚悟を心中から振り絞り、持ち出すことに成功した。
深呼吸を繰り返して声を出す為に最後に息を吸い込んで、好きだと叫ぼうと口を動かす準備ができた途端、それまで突き刺さっていた彼の視線が揺らいだ。
その一秒後? それとももっと短い間だったかもしれない。
―――ハルの表情が一変した。

……え?
笑ったように見えた。そうだ、確かに両の口角が上がり、意地悪げに笑っていた。
そしてそれを確認した時にはもう、唇が塞がれていた。




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あきゅろす。
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