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「愛姫……お前は?」

そう聞かれたと同時に頬に添えられていた大きな手のひらが離れ、ふっと目の前が真っ暗になった。
ハルの手があたしの目を優しく覆い隠し、その顔は見えなくなった。だけど、彼に見つめられることに耐えられなかったから、ほんの少しだけほっとした。けれどほっとしたのは、そんなの間違いだったこと、すぐに思い知らされる。

あたしが何かを言う前に、肩に残った片腕が移動してお腹に回り、後ろにいるハルの方へ抱き寄せられるように、そっと、力が入った。ふんわり抱かれていただけの距離が、ずっとずっと、それもとんでもなく密になってしまった。
背面にはぴったりハルの体がくっついてしまい、その熱さに驚いて、そしてあたしの脈拍は瞬く間に速度を上げた。
身動き一つできなくなって、何も言えないままどきどきしていると、今度は耳元に熱がやってきた。

「愛姫」

これは本当に、悲鳴を上げたかった。

「好きだ」

だけど、声をあげることもできなかった。
もう一度、掠れるような低い声。鼓膜から送り込まれた二度目の囁きに、何も考えられなくなってしまった。
瞼の向こうに光を感じてハルの手が遠ざかっていったけど、その光に導かれるままに目を開けることはできない。 力なんてとっくに抜けていたのに、ほんの少し、僅かに残っていた余力まで奪い取られてしまったせいで、そんなことすら叶わなかった。

飛び上がりそうになる喜びや、打ち上げられた花火のように響き渡る鼓動。きっと真っ赤になってしまっているんだろう顔。

今この瞬間の出来事が、よく分からない。
急激に熱くなった自分の体も、発熱しているハルのものが移ってしまったのか、あまりのことにあたしが熱を出してしまってでもいるのか。それすらも分からない。何かを考えることなんて、あたしはとっくにできなくなっていた。




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