10 「ごめんなさい」 「……何が」 「……だってハル苦しかったのに」 「あ……? 分かるように言えよ」 「思っちゃったんだもん。嬉しかったの……」 「は?」 「だから……頼ってくれたこと」 ここまで言ってから、恐る恐る目を開けてみた。 怒鳴りつけられるか、それとも低い声で静かに怒りの言葉を聞くことになると思ってた。誰もが黙り込んじゃう、あの目線を向けられているんじゃないのかと…… だけどハルは、意味が分からないというような顔で首を傾げている。 「あ? 誰が誰を頼ったって?」 「……え? だから、昨日ハルが……」 「俺が誰に頼るんだよ。田中にか? あれはあいつが勝手に動いただけだ。放っとけっつったんだよ、俺は。あんな奴に自ら貸しをつくるわけねぇだろうが」 「違うよ! そうじゃくて……言った……でしょ?」 「何の話だ」 「そばにいろ」 「あ?」 「何度もハルが言ったから……」 寂しそうに何度も何度もそう言ったから、と続けると、ハルの目が、いつもよりも大きく広がった。 「……俺がそう言ったのか? お前に?」 ばっと起き上がり、信じられないとでも言うように、何度も確認された。 本当だと告げると、ハルの顔が、ふいっと横を向いた。 ―――忘れろ。そう言って逸らされた顔。 「それで? お前が落ち込んでる理由を言え」 「……」 「愛姫」 「だから、そう言われて、頼られてるのかもしれない……甘えてるのかも……って思うと、すごく嬉しかったの……だから、だからごめんなさい……」 「それを知られたくなかったのか」 溜め息のように重く吐き出された空気と言葉に、体が揺れた。 ずるいことを考えていたことまで、簡単に見破られてしまった。 「……それに可愛いってことも……ちょっとだけ思っちゃった……」 どうせばれてしまうからと、思っていたことを正直に言って、もう一度謝った。ハルの顔は見ることができなくて、目は伏せてしまったけれど。 言ってしまったことに反応がなくて、また怖くなった。 ……やっぱり怒らせてしまった。怒鳴られるぐらいならいい。だけど、嫌われちゃったらどうしよう。 「おい、別に何を思おうがどうでもいいけどな、俺が口走ったのは意識がはっきりしてなかったせいで、甘えたわけじゃねぇ。あと可愛いっつったな、お前。俺に向かって二度とそんな言葉を使えねぇようにしてやるから、昨夜見たこと聞いたことは、全部忘れろ」 ―――あ、れ……? *←→# |