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09


寝る時には床じゃなくベッドに上がってこい。と、睨む姿はすっかりいつものハルだ。
だけどおでこに手を当ててみると、やっぱりまだ少し熱いように思う。

「世話かけて悪かったな。お前のおかげで助かった。……何を落ち込んでんだ、おい」
「……何もできなかった」
「あ? 看護人はお前じゃねぇのかよ。まさか田中の野郎が戻って来て一晩中付き添ってたとか、そんな気持ちワリィこと言うなよ」
「……」
「おい、回復したんだからもっと喜べよ」

ハルが笑って話をしている間に、あたしは自分の腕の中に顔を埋めてしまった。

「だって……ハル、きつかったでしょ?」
「昨日の話だろ。しかも途中から何故か記憶が飛んでんだよ。だからそうでもない」
「それだけお熱が高かったんだよ。とっても苦しそうで、ハルがどうにかなっちゃうんじゃないかって、すごく怖かった……」

ふいに頭に手が降りてきた。そのまま髪を掻き回される。

「だから悪かったよ、心配かけて。俺だって熱が出ることぐらいあるんだ、たまには。そこまで大袈裟に考えるな、俺はもう大丈夫だ」

もう大丈夫だってことは分かるけど、怖かったのはそれだけじゃない。昨日の自分自身だ。
眠ってしまう前の自分の感情を、ハルに見透かされてしまうんじゃないかって思うと、今だって怖い。記憶がないと言うほど辛かったはずのハルを見て、嬉しいと喜んだことを知られたくない。そんな卑怯なことを考える自分が怖い。

「おい」

頭に乗せられていた手のひらが、あたしの顔と腕の間にするりと入ってきた。そのまま顎を押し上げられて、顔を上げさせられた。

「どうした、お前」
「何でもない……」
「だったら目を開けて俺を見ろ」
「やだ……!」
「愛姫」

何を言っても言わなくても、目を見るだけで、ハルは全部分かってしまう。あたしのことなら何でも。
ばれちゃうのは嫌だった。
嫌われたくない。知られたくない。
だけど、だからって、嘘は吐きたくない。




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あきゅろす。
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