07
どこかぼんやりしたような目は、いつもの鋭さは全くない。とろりと今にも眠ってしまいそうな目をしているのに、繋がっている手は強い力が入っていて、すごく熱い。
寝ている状態のハルが下から見上げるように顔を向けてくる。普通とは逆の立場からの視線に戸惑ってしまう。
側にいてくれ。と、すがるように言うハルは、まるでハルじゃないみたい。
「分かった! わ、分かったから……! ちゃんと寝て!」
「お前も寝れば」
どうしよう、どうしよう、どうしよう……!
いつものハルの手の温度はどちらかと言えば冷たくて、だけどその手とあたしの手が繋がると、それは変化する。ハルとあたしの体温が溶け合うように、それは本当に少しずつ少しずつ、いつの間にか暖かくなっていく。
きっとこんなこと、当たり前のことだと言う人もいるんだろうけど、こんな小さな異変に気づいた時のあの嬉しさ。あたしにとっては素敵な発見で、涙が出ちゃいそうなくらいに感動的だった。
だけど今、少しずつなんて悠長さは全くなくて、指が当たった瞬間から、触れているのものはもう熱い。いつものような幸せなんて感じている場合じゃないことを、思い知らされる熱さだ。
それは分かってる。だから、本当に本当に、どうしよう。
「愛姫、寝ろって」
掴まれた腕を引き寄せられた。お布団の中に入れられて、そのまま抱きしめられる。
「……たぶん風邪だ、俺は。お前にうつしたら……あー……悪いな、責任とるから……今は許せ」
パチリ。もしかしたらハルが瞬きをする、そんな音さえ聞こえてくるかもしれない。そう考えてしまうぐらいに近い距離にある顔。
じっとあたしの顔を見つめながら、いつもは絶対に言わないような言葉が出てきて、思わず目を閉じてしまった。
だってとても目を合わせてなんかいられない。心臓がどくんと大きく音を立てた。
もしも今、こんな風に寝ている状態じゃなければ、あたしはきっと、崩れ落ちてしまったに違いない。役に立たない足から順番に、そして一瞬で全身の力が抜けて、その場に座り込んでしまっていたはずだ。
大好きな恋人は弱っている時でさえ、あたしの心を簡単に奪ってしまう。そんな言葉を聞いてしまったら、どきどきしないなんてこと、あたしにはとてもできなかった。
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